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東京都写真美術館「現在地のまなざし」

東京都写真美術館で開催中の「現在地のまなざし」を見てきました。

日本の新進作家展の、21回目だそうです。

5人の作家の作品が展示されていたのですが、中でも、かんのさゆりさんの展示が強く印象に残りました。

展示内容は、震災からの復興の情景なのですが、主に再生しつつある風景を写しています。

大規模な工事現場に、広大な更地。

そして、新しくおしゃれな住宅地の様子を写した連作。

震災の惨劇ではなく、ただ再生されていく風景、そして人々の新しい暮らしが写されていました。

しかし、再生という、ポジティブな情景を写し出すということは、反面とても残酷な過去があったことを想起させます。

再生と同時に全てが新しく生まれ変わっていくその風景は、破壊されたあの日と繋がっているということでもあり、すべてがなくなったから、すべてが新しく再生している、ということでもあります。

幸せなそうな情景の中に、壮絶な過去を写し出すというインパクトは、なかなか心を抉られました。

また、大規模に造成されている工事現場の向こうに、神の塔のようにそびえ立つ原子力発電所の排気筒の写真も強く印象に残りました。

少量のウランから、膨大なエネルギーを生み出す原子力発電。

そして、すべてをとてつもないエネルギーで流し去ってしまった津波。

前者は人類が生み出したエネルギーであり、後者は自然のエネルギーですが、この二つのコントロールできなかったエネルギーを見事に一枚の写真に収めている作品でした。静かな風景ながら、圧巻です。

先の震災については、破壊の情景はニュースや写真などで何度も目にしてきました。

しかし、再生の情景というのは、ただポジティブな一面だけではなく、その裏にどれほどの凄まじい破壊があったのかを想起させますし、その破壊を乗り越えて、新しい生活を構築していく人々のエネルギーにも気付かされます。

とてもいい展示でした。

時間のある方は足を運んでみてください。

おしまい。

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