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【武田と哲也】じゃあの、今世 ver.2021 part1【ネタバレ有り】

武田と哲也 シルクの似合う夜 Part7

Billboard大阪 11/1、11/2
blue note東京 11/9、11/10

1st、2nd / 4days / 計8公演


武田と哲也に魂を契り、早数年。
彼らのキャリアも15周年(実質活動半年)という節目を迎えた記念すべき年に、よりエイジングされ色気の洪水が留まる事を知らぬ男達を一目見ようとドレスアップした紳士淑女が集う目眩くアダルトな空間に赴いた生物学上ヒト科メスの世界一うるさい遺書である。


遡る事2021年1月。
サブスクリプションやデジタル化が当たり前の時代に突如アナログ盤7inchを発売した日本のソウルR&Bを席巻する二大巨頭、 #ゴスペラーズ#SkoopOnSomebody のボーカル #村上てつや#TAKE がタッグを組む”ジャパニーズセクシーソウルデュオ” #武田と哲也 が静かに始動していた。

世界を脅かし猛威を振るい続けるCOVID‑19。
推しの存在に生きる意味を与えられ縋りながら生を全うするオタクという哀しくも誇らしい一途な生き物は新型ウイルスを妬んでいた。
2021年、今年は目に入れても痛くないどころか身体に全て取り込みたいとさえ思う最推し、武田と哲也の15周年anniversary。

突然アナログ盤をリリースするなんて、まるで名は伏せるが恋人がいる事をSNSで所狭し散りばめてくる匂わせ女のようなやり口に「コレは今年何かあるぞ」と週刊誌ばりにアンテナを張り巡らせていた。

そんな一件から音沙汰もなくいつの間にか変わらぬ夏を迎えたとある日、仕事の休憩中に開いたTwitterがただならぬ熱気に包まれていた。


coming soon


レコーディングブースに肩を並べてポージングするアナログ世代の男達の写真に意味深なその一言だけ書かれた写真の投稿と共に公式Twitterが立ち上がっていたのである。

間違いない。新曲がくる。
と言うことは確実にライブもある。

良い歳した社会人の大の大人が男2人の活動報告に泣くほど歓喜した。
だが喜びも束の間、それと同時にニュースを見れば爆発的な感染で人々を震撼させるコロナ。
ここ数年、行く予定のライブが中止になる事も度々経験し、その都度落胆しては生気を失ってきた。
コレばかりは。どうか。数年に一度しかない彼らの活動。この機会を逃すと本当にヒトとして生きるのが怪しくなる。どうか、どうか……


祈り続ける日々、そしてcoming soonから一向にsoonしてくれない最推しのアカウントに、堰き止めていたものが雪崩れるように鳴り止まぬ通知の嵐。


ミニアルバム「Love On Delivery」リリース、それに伴い11月に東阪ライブ決定。


はい、行く。逝きます。地を這ってでも逝く。

その瞬間全てを投げ打ってでも全通する事を心に誓った。
だがそんな血眼なオタクの気持ちなど虫ケラの涙ほどにしか思っていないであろう神はファンクラブ先行で応募したチケットのご用意が1公演のみという現実を突き付けてくる。
いや、このご時世、行けるだけ有難い。
むしろこの倍率で当たっただけでも奇跡的。
と、分かってはいるものの、欲にまみれた浅はかで惨憺たる恥ずべき感情もまた私が人間である事実を突き付けた。

そんな醜い葛藤など知る由も無く、無情にも月日は巡り、季節は秋。
頬を掠める風は冷たくなり、またライブも目前へと迫っていた。
移ろい行く時の合間に友人達が声を掛けてくれ、ご縁もあり既に足を運べる公演数が8回中6回まで決まっていた。
この時点で多方面に頭が上がらず想いもひとしお。持つべきものは友である。
後は何事も無くライブの開催を待つのみ。

だが人生そんなに甘くない。
Skoop On SomebodyボーカルのTAKE、コロナ陽性というニュース。

ライブまで残すところ1ヶ月。
あまりにも形容し難く、誇張でも何でも無く人は絶望を目の当たりにすると視界が真っ暗になる。

タケテツライブの開催はおろか、推しの安否さえ分からぬ日々に夥しい程の酒を毎晩呑み干し、蛻の殻で何とか職場に行くあの地獄絵図、二度と体験したくないものである。

プロモーションと称しキャッチーな最新曲をカバーしたTikTokも、背景に富士を背負ったりドショッキングピンクの部屋に豪華絢爛シャンデリアが飾られた下でグラサンしたアラフィフが超絶カッコつけてる絵面の大渋滞に笑けるMVもその時は心の底からは楽しめなかった。

そこから数日、ファンクラブのメールに回復の報告と心配へのお詫びメッセージが届きようやく上手く吸えなかった息が全身を巡り心底安堵しオタクも日常を取り戻した。

席を空けていたレギュラーラジオに推しの声が流れてくるだけで、こんなにも安心を齎してくれるものだったとは。

体調も回復してきて東阪へ愛をデリバリーしに行きますよーというユーモアのある関西弁に喜び笑うところなんだろうが、どうしようもなく泣けてしまった。

当たり前は当たり前ではない。
今となっては嫌と言う程身に刻み込まれた言葉。

そんな重苦しい感情を吹っ飛ばしてくれるかのように武田と哲也は熱いプロモーションを日々待ち侘びる人々に届けてくれ、そしてオタクは運命のジャッジメントDAYを迎える。



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2021年10月31日

ライブ前日。
その日タワーレコード梅田マルビル店で開催されていたパネル展示やアルバム購入者へのメッセージ入りレシート配布を受取りに行くべく、連日タケテツMVの見過ぎで速度規制がかかり何もナビゲーションしてくれないスマホ片手にとんでも方向音痴は怪訝な面持ちで「マルビル言うくらいやし目の前に見えてる筒っぽい建物がタワレコちゃうか」くらい安直で頭の悪い直感で向かうと見事的中し、無事にミッションを達成する。マルビルが丸くて良かった(頭悪い)

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一頻りイケオジを連写し限定メッセージもビデオに納めホテルに着いてひと段落。
既に明日を目前に感情を表すメーターが100だとしたら楽しみ120、緊張と恐怖が7兆くらいの割合で精神崩壊を起こしていて記憶が無いので割愛する(気付けば朝でした)


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2021年11月1日

目覚めのゴングと共に敗北が確定している戦地へ向かうべく顔面工事に取り掛かり、特別な日の装束を身に纏い、ええ香りのパフュームを少量塗布し年々足が耐えがたいハイヒールを履いて颯爽とBillboard大阪へ向かう。
梅田のダンジョンも慣れたもんだ。
だって一度迷って予想到着時刻10分の道のりを片道50分かかって以来駅からここの往復しかしてないもの(震え声)


安心と信頼のハービスプラザの駅地下にあるビルボード大阪は、スーツを着たサラリーマンが行き交う中に突然煌びやかな空間として出現する。
既に会場前にはジャパニーズセクシーソウルデュオを嗜むに相応しい良い男・良い女が集っている。

あー、これこれ。これよ。
2年前の武田と哲也シルクの似合う夜part6の大阪公演はビルボードのお向かいサンケイブリーゼホールで開催されており、流暢な関西弁で武田と哲也の話が彼方此方から聞こえる空間に武者震いしたあの感覚を彷彿とさせた。


始まる。(負け)戦が──。


腹を括りひとたび入場すると、流石Billboard。
招かれるべくはアダルトよ。
7兆の恐怖を抱えていた己は自害させ、背筋を伸ばしコンマ1㎜でもエエ女になるべくフロアスタッフの綺麗なお姉さんへ案内される席へと向かい、白ワインを注文し腰掛けた。シラフじゃ推しは見られへん。

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1日目1stは後方のカウンター席。
高級ライブハウスともありキャパシティはオペラグラスも要らぬ近さ。
いや、むしろツアーの初日に観る席としてはこれくらいが良い。
試し弾きしてるお兄さんの顔さえよく見える。
120%のワクワクが500%まで膨れあがる。
それと同時に自害した7兆の緊張が輪廻し150兆にまで成長していた。そうだ、葬り忘れていた。供養出来ていない。
BGMや人々の話し声、ちょっとした食器の音の中でも自分の心臓の音の方が遥かにうるさい。
掻き消すように無心でワインを流し込んでいると、ブルーの照明が落とされ暗がりが開演の合図を告げる。


再び灯されたライティング。
顔馴染みのバンドメンバーが和かに階段を下りてくる姿に会場からも拍手喝采。

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Key & Sax / 本間将人
Key / 半田彬倫
Gt / 柴山哲郎
Ba / 後藤克臣
Dr / 坂東慧
Mani / 飯塚啓介

それぞれの持ち場に着き、一呼吸置いて静まり返った会場に待ち望んでいた熱い音色が響き渡る。

本間さんに促されるまま食い入るように手拍子をし、後藤さんの「Ladies and Gentlemen」という声掛けに固唾を飲んで詰まっていた息が解放される。

もっと、もっとだ。と言わんばかりに盛り上げてくるステージに会場のボルテージも急上昇。
今か今かと待ち侘びる客席に「この男達を呼ぼう」とメーンディッシュがオーダーされる。


「武田と哲也」


その一言と共に上手側の通路からピンクとアイボリーのカジュアルリネンスーツを纏いサングラスと公式グッズのマスクを着用し手を振りながら颯爽と出て来るイケオジ2人。
座っているのに膝から崩れるという不思議な体験をしているオタクを他所に、武田と哲也はマスクを外し、それはヒラリと宙に舞う。


気が狂っている私はもはや推しが投げ捨てたものがマスクではなくパンティーにしか見えず弁護する余地も無くしっかりと気が狂っていた。開幕からスケベすぎるのだ。

止まる息の根。眩む視界。
何とか正気を保とうと掌に爪を立て夢のような現実に意識を戻す。

面前には楽しそうに会場を見渡しニヤつく哲也と、真っ白な歯を見せ頷きながら此方のリアクションを楽しむ武田。


「大阪〜〜」、待たせたなと言わんばかりに目を輝かす紳士淑女を煽り、流れてくるイントロは「愛を探して feat.G.RINA」

ダンサブルなナンバーに最高の雰囲気を持ち合わせたBillboardといううってつけのフロア。
全く世代ではないのだが、ディスコやクラブはこんな感じなのだろう。良い男や良い女が一堂に集い、愛を探しにくる。
正しく曲名且つ、「Love On Delivery」のアルバム名に相応しいスタート。

立てば彫刻、歌えば神秘、顔が良過ぎて造形美。
目も耳も肌も武田と哲也を視認したところ全てが焦がれていく。
2019年から時を経て2人ともアラフィフを迎えた30代40代には出せない色気で1人1人、いや、もう面倒臭いから会場ごと抱いたるわと甘くスウィートな空間へと導いてくる。

待ってくれ。こちとら150兆の緊張はまだ供養できてな───
目は笑っているのにマスクの下は強張り死んでいる、まるで竹中直人のようなキレながら笑う偉業が炸裂していると会場に足を運んだ者は1人残らず全て堕として帰る武田式メソッドの秘技・視線交差ブッ殺しスペシャルを食らって頭を抱える。
サングラス越し、最後方で伝わるエグい必殺に液状化しながら目線を移した先の哲也はニコニコ健康的なピンクの歯茎を剥き出し楽しそうにしながらOFFマイクで「ハハーッ」と笑っている。
目が合う合わないとかではなく、村上てつやは村上てつやとして壇上しているだけで何か地球上の全ての事がどうでもよくなるヒーリング効果がある。世界を救うよ、君の笑顔は。
孫を見る祖母の様な気持ちでようやく顔が綻び始めるといつの間にか2曲目「Ebony & Ivory」のお目見え。

マーチンこと鈴木雅之さんに村上てつやが提供した楽曲のセルフカバーというこのナンバー。
事前にマーチンさんver.も視聴していたが、それはそれは言うまでもなくロマンティックでセクシーで甘ったるさとスパイシーが上手く融合した一曲。
勿論武田と哲也のアルバムで予習していたが、コレが引くほど良い。マーチンさんより少しカジュアルで、あっさりめの味付け。だけど後味が深い、複雑に舌で戯れる大人の風味に恍惚な表情で聴き入る。この時思った。やっぱ己はメスなんだと。

歌うっっっま 脚ほっっっそ 顔ちっっっちゃ

失われた語彙力三兄弟が歌の権化を目の当たりにしIQが2くらいまで底をつく。
歌が上手いのが当たり前の様に歌が上手い(語彙力)
知ってた、知ってたよ。だから好きなんだけど、やっぱりこの2人、人知を超えて歌が上手い。
的確なピッチと攻めたリズムの崩し、気持ちの良いflowが波の様に押し寄せてくる。日本のソウルはここにあった。
国宝級の歌唱力を持ち合わせているのに、決してぶつかりすぎない、甘辛い韓国料理のような病みつきの旨さがある。
ドーパミンを大放出させながら咀嚼していたらいつの間にかお馴染み、関西出身2人のゆるゆるMC。

「こんばんはー武田と哲也でーす」

この時ようやく歌と相反したマイペースな声のトーンに少し肩の力が抜けてリラックス。
客席は規則正しい歓喜の拍手で盛り上げ、今回のアルバムの制作経緯やコンセプトが簡単に説明されると

「ここからはスウィートでメロウなナンバーを──」

と言いかける哲也に指をメトロノームのように振るわせnonsenseだとアクションする武田に「ああ…」と思い出したように

「Skoop On Somebody風に言うと、スウィートで”エロウ”なナンバーをお届け致します」

とコントの掛け合いにまた天国への扉が開かれる。

「Let’s talk (feat.Kzyboost)」

吐息だけで告げられたタイトルにバンドの華やかな音が空間を彩る。
ライティングもミッドナイトブルーのような深海の青。溺れて死んだかな?
浮かび上がる武田と哲也のシルエットはラスボスのような風格を醸し出す。
Love On Deliveryの中でも至極メルティーなこの曲。
元気な子を8人程身籠もり、一瞬にして大家族にされる。

息つく間もなくやってくるのは「NITE CRUISE」。前作アルバムの楽曲でも個人的にとびきり愛してやまない一曲。
口を覆うように漏れ出そうな声を抑え、数年ぶりの再演に魂が震えた。
詩がとにかく美しい。艶やかで、でもタケテツが非現実である事を突き付けてくる儚さもあり、そんな世界に誘ないながら夜のクルージングとは良く言ったもの。

好きすぎて怒りすら込み上げ情緒が不安定になってくると、これまた前作アルバムより「4U」
これも……ハァ……歌詞がええんすわ、奥さん………

“今夜は君と このままずっと 他の誰にも邪魔はさせない 飾らなくても 変わらなくても そのままの君が一番綺麗さ”

まさに今、この瞬間に邪魔する何かがあれば私はなりふり構わず鬼の形相で地獄まで突き落とすであろう狂気さえ湧き上がる程に好きなフレーズ。
自信の無かった自分を全て肯定してくれるような抱擁力の塊の歌詞に、当時ものすごく救われた。
走馬灯のように思い返し熱くなる目頭の栓をキュッとしめ、とんでもないエロのシャワーを浴びてしっかりと溺れる。

感嘆の溜息を吐いていると、突如軽快に始まるTikTokプロモーションの話題。
スタッフから渡された40曲程のリストを撮り溜め怒涛に投稿した中から、ここいらでちょっとやってみません?という盛大な前振りにタケさんが「俺知ってるよ、みんな哲也の猫(DISH//)聴きたいでしょ?」と悪い顔で客席に話しかけて来る。
所々から漏れ出る黄色い声に、じゃあ…と本間さんに最初の音を貰い皆さんも招き猫の手で何となくリズムに乗って下さいとシレッと道連れにさせられ、「せーのっ」で歌い出すage50over。

カジュアルに歌の上手いタケさんの後ろで
「にゃーん、にゃーん」と鳴き声にメロディを付けてコーラスする哲也。


……一体今私は何を見てるんだ?(最高の賛辞)


何度も言うがここは高級ライブハウス、Billboard。
辺りを見渡せば紳士淑女の集い。
ステージには先程まで最高の音を奏でていたバンドメンバーと、顔の整った色気ダダ漏れ男と………ヒト科50歳の猫。
いや、シュールすぎる。今コレを記述している私は文字を打ちながら肩を震わせ思い出し笑いに身悶えている。
一頻り半笑いで何とかやり遂げた猫に盛大な拍手が送られると、もう一曲くらい何かやろうよとグラサン猫が造形美にジャレている。
何が良い?と問われると「鈴木鈴木の海のリビング」を哲也がリクエスト。
すかさず「…あれでしょ?”酸っぱい酢をー”て歌いたいんでしょ?」(タケテツのTikTokネタ)とタケさんから振られ、「…俺らが鈴木鈴木て聞くと”雅之””聖美”が出て来ちゃうんだよね」「ホンマやわ、最近連絡してない」と身内トークで会場が笑いの渦に包まれ、ほんなら行ってみよかと「酸っぱい酢をー…スッパイスーをー…」と入りとコーラスが難しそうなこの曲を軽く音合わせし、歌い出せば流石は国宝歌手。
手のひらにおさまる液晶で見ていたあのTikTokの光景が音も違わず気持ちの良い生音で披露され客席は大いに盛り上がった。

「以上、武田と哲也のYouTuber、TikTokerとしての活動報告でしたー」

なんて緩い締めにそこかしこから笑いが起きているとここで今回のバンドメンバーを紹介しますと本間さん、後藤さん、坂東さん、柴山さんの通常タケテツバンドの後にいつもツアーにも参加しているキーボードの佐藤雄大くんがスケジュールの都合で今回参加出来ず、今日は心強いスケットが来てくれました、「キーボード、半田彬倫!」と名前が上がり客席から拍手が送られると突然「Hit me!!」と声を上げる哲也。
坂東さんがドラムを叩くとタケテツファンにはお馴染み「母に捧げるバラード」のイントロが流れ出す。
ステージが暗転すると”キーボード”と紹介されたはずの半田さんが徐に取り出すのはバイオリン
バンドの音が止まりスポットライトに照らされた半田さんが弦楽器特有の繊細で力強い音色を奏でると割れんばかりに盛り上がる場内。

「えっ?!えっ?!!キーボードちゃうやん!!」

と武田のオカンが慌てふためくとこにソウル狂いのバカ息子・哲也が「オカン、2021年はああいうキーボードもあんのよ。」と嗜め何故か納得する武田オカン。なんでやねん。そして自分もやりたいと再び「Hit me!!」の掛け声にしっかりと天丼し、目眩く武田と哲也のコントが開演。

満足そうなタケさん。
客席も待ち侘びていたこの掛け合いに魅了されていると


武田「……アカン、このイントロ聴いてたらオカン歌いたなってきた。アレは…せやったなぁ、JBと会う前──」

哲也「──いや、ちょっと待ってオカン!俺はJBの話が聞きたくて──」

武田「哲也、それはもうええ。終わった話や。そう、江戸の人やった。遠距離恋愛しててな…思い出す。あの音色と……発車のベルと共にな。」

とタケテツを知らない人からすれば豪速で取り残されそうな安定の漫才に80年代の音楽番組曲紹介のように注釈で割込む哲也。

哲也「ここで一曲オカンが歌います。遠距離恋愛と言えばそう、この曲。ゴスペラーズ、新大阪

と共にスポットライトを独占する武田。
正しくジェームス・ブラウンのようなスタンドマイクを奪い跪くステージパフォーマンスと圧巻の歌声に笑いと拍手が入り乱れる。
「オカン、歌い込みすぎじゃない?!」という哲也からの半笑いのツッコミを受けるものの、一連のコントが無ければ涙無しには聴けないくらいに感動的な楽曲。
オカンはありがとう、ありがとうとサイレントで両サイドにヒラリと手を挙げ「世界で1番趣きのあるヘッドホン」と名高い2番の歌詞の入りもしっかり歌い込み、ふんだんに盛り込まれた関西色の強い熱狂的な一幕が終わった。

陶然と酔いしれていると

哲也「ゴスペラーズの楽曲の次はSkoop On Somebodyのナイスでスロウなこのナンバー。Nice’n Slow!」

と立て続けに押し寄せるエロウの漣。
え?良いんですか?逆に良いんですか?
この会場にいる女性達、端から端までみんな貴方達の女になってしまいますけどホンマに良いんですか?(愚問)
そんな問いかけも虚しく”名前も知らない君を抱く時罪深く心は揺れてた”などとプレイボーイの口説き文句を目の前の男2人に代わる代わる歌われ気付けば彼女は享年26にて息を引き取った。R.I.P.


アドリブ合戦は25年切磋琢磨し磨きをかけてきたジャパニーズソウルを牽引してきた彼らがそれぞれの道を歩んできた”戦友”であるが故の勲章のようで、ファン歴はまだそこそこ浅めな滑落オタクでもとても感慨深いものだった。
彼らを見つめ、そして支え、ずっと推してきたここに居る諸先輩方はこんなに立派でどこに出しても恥ずかしくない確立されたジャパニーズセクシーソウルデュオに、今何を思うのだろう。
脳内ではプロフェッショナル・仕事の流儀のようなナレーションに心情を代弁して頂き、SweetでMello…あ、Ellowなひと時は終わりを迎え、その頃にはうっすらと肌が汗ばむ程にBillboard大阪は熱気に沸いていた。

歌が上手いのにユーモアがあって、気取ってる様で気取らない、そこそこベテランの2人の一挙手一投足を1つでも逃すまいと刮目したが私の目は2つもあるのにまだ足りない。

あと額と顎と首辺りに1セットずつ眼球が欲しい(ただの妖怪)と頭の悪い感想ばかり浮かんでいると、ゴスペラーズではお馴染み”灼熱の後半戦”のようなファンキーな楽曲、そろそろ欲しいんじゃないかい?と餌をチラつかせてくる。

ったりめーだろ永遠に欲しいわ(ブチギレ)と躾のなってない貴方達の犬は目に見えない尾をブンブン振り回しボルテージは最高潮に達する。

この大阪をちょっとだけ湘南に変えてみるのは如何?という提案に湧き上がるフロア。

となれば勿論この曲、「SOUL WAVE feat.Mummy-D」

武田と哲也が今回個人レーベルを立ち上げる際に命名された彼らの夏男・丘サーファーぶりを象徴するようなタイトルに、大阪梅田に爽やかな潮風が頬を掠める。
ワクワクするイントロ。
楽曲に参加しているRHYMESTER Mummy-Dさんの個性溢れる声色がキラキラと目に見えるようで心がはしゃぎだす。
MVで「wave」のフレーズに両手を挙げて波を模した動きを楽しそうにやってる推し達の姿に、私ずっとコレやりたかったの!と童心に返る。
ムーディーで大人の雰囲気のBillboardが一瞬にして湘南に変貌を遂げ、マスクで大半が隠れている客席の紳士淑女の表情もそれは輝きと多幸感に満ちていた。


嬉しい、楽しい、大好き。
心の中はドリカムのような気持ちで溢れ、気付けば武田と哲也のSOUL WAVEに会場は飲み込まれる。
額に玉の汗が浮かぶ読んで字の如く灼熱の後半戦に惹き込まれていると、今か今かと喉から手が出るほど待ち侘びていた楽曲のイントロに心がビッグバンを起こす。

「The Time Of Love」

先程まで湘南の海辺を感じさせる白んだ明るめのライティングが暗がりの真紅に変わる。
フロアを掻き回すような煽りと、ファンキーで縦ノリのカッコいいを詰め合わせ具現化したようなソウルフルで熱いナンバーに正直声を抑えるのも一苦労。ここまでくると抑えられてたのかも分からない。
全身全霊を込め、目の前の武田と哲也に呼応し、あんなにMellowだった空間は一気にディスコへと変化した。

It’s time of revolution 気ままに踊り出せ

の歌詞に、踊れない芸人の刻印を血族全員から押されているオタクでもこの時ばかりはバブルの血気盛んな空間に仲間入り出来たんじゃないかと勘違いするほど身体が勝手に動いていた。
なんだこれ、最高に気持ちが良い。
出来る事ならタイムスリップして当時のディスコシーンに紛れてみたい。


真紅のライティングに染まったバンドメンバーのソロプレイも気が狂うほどカッコいい。柴山さんの唸るようなギターに呆気なく失神しかけた。


華やかな時代の当事者であったろう目の前で楽しそうに踊り、魂から熱く歌い上げ、そしてこの時ばかりは日本で1番エモくファンキーな彼らに羨望の眼差しを送っていた5分ほどの2021疑似ディスコはあっという間、光の速さで終わっていた。

もっと聴きたい、もっと踊りたい、もっともっと彼らと楽しみたい、と欲だけがどんどん湧き上がる高揚感と少しの寂しさに息を切らしていると、話題は武田と哲也の背中を押してくれたBruno Mars, Anderson .Paak,の大物2人が織りなすUSA sexy soul duo、Silk Sonicが世界的にフィリーソウルのブームメントを巻き起こし、武田と哲也的に「我々にも波が来た」というラッキースケベ的なflowの中で最高の時期に活動出来ているというもの。


俺たちだってソウルを聴いてた時間は彼らに負けないと張り合う中、Bruno MarsとAnderson .Paakが部活的に活動してるように、我々武田と哲也もホームあってこその延長線上で活動出来てるデュオであると共に、その緩いユニットに沢山の方が尽力、そして互いのメンバーも寛容的に見守ってくれ、これだけ沢山のお客様が聴きに来てくれる事に感謝しか無いです、と客席全体を見渡し会釈をしてくれる律儀な兄貴達の姿に胸がじんわりと熱くなる。

「そしてこれは背中を押してくれたSilk Sonicに敬意を表し僕らなりに作り上げたスウィートでソウルなナンバーです。聴いてください、One Lady In My Life

特徴的なドラムのイントロと同時に哲也の湿度を纏ったスムースな曲紹介で流れ出すムード満点の煌びやかな音色。
プロモーション活動時から回数を重ねて聴いてきたこのアルバムを代表するメーン楽曲なだけに、生で聴く音は感慨深く頭で考える事をやめてただひたすら彼らが作り上げる世界観に浸った。


山田ひろしさんが書いた詩なだけあって少女漫画のヒロインがときめくような言葉選びは、どこかくすぐったくて、うっとりするほど甘美である。
武田と哲也に誘なわれ、現実世界から非現実にエスコートしてくれるこの曲は、己が良い女だと勘違いさせる程に死角無くMellowだ。


MVで観た銭湯のような富士の壁面や、ショッキングピンクの部屋、ゴーカートに乗る五十路のユーモアも所々脳裏に浮かび目の前のタケテツと重なると、今更、本当に今更「ほんとに存在したんだなぁ」などと物思いに惚けていた。


最高の空間で最高の演奏と共に聴く最高の歌声。
ここにいる全員がゴスペラーズの村上てつやとSkoop On SomebodyのTAKEが思い描きいつか作りたかったジャパニーズソウルを体現したライブに遭遇出来たのではないだろうか。


アウトロがフェードアウトし訪れた一瞬の静けさは会場が余韻に浸っている事を伝えるには十分だった。
割れんばかりの拍手にニコニコと嬉しそうな武田と哲也。
この姿が見られただけで幸せだ。
本当に本当に幸せで、涙が止まらなかった。

次で最後の曲になります

その一言でこの夢の時間は有限だという現実に引き戻される。

「これは僕達から皆さんへの曲です。聴いてください、シンガソング

壮大な宇宙空間を思わせるどこまでも会場に響き渡るシンガソングのイントロは、静かで、熱くて、怖いくらいに大きい、武田と哲也の愛をデリバリーしてくれるラストに相応しい音色。

分かっちゃいた。始まれば終わる事くらい。
私も良い歳した大人だ。
いつまでも終わるのが嫌だの帰りたく無いだの言って困らせるのはこのアダルトな空間に相応しくない。
分かってる。

分かってる、けど涙が止まらんのだ。
止めようとすればする程想いに比例して堰き止めていたものが込み上げる。
心の中で泣き喚いた。終わってほしく無い。ずっとこのソウルデュオに浸っていたい。願わくば、ずっと。

だが同時に、部活動で頑張らずにゆるゆる音を楽しむ武田と哲也を愛しているのもまた自分。
なによりも、武田と哲也が本来帰るべきであるゴスペラーズとSkoop On Somebodyというホームも心の底から好きだから。
有限なこのビッグドリームこそジャスティス。

寂しさを飲み込み、彼らから分け与えられる多大な愛を受け取り、心の額縁に飾った。
Love On Delivery、望んでいればまた武田と哲也は愛を届けに次の街へと気紛れに出没するだろう。

滲んで何にもピントが合わないボヤけた視界も忘れないよう記憶の片隅にスクラップし、SOUL POWER presents シルクの似合う夜 part7は大盛況で幕を閉じた。

客席に手を振りながら嬉しそうに捌けていく武田と哲也の背中を脳裏で再生させながら上演中全く手付かずだったワインを飲み干し会場を後にした。

梅田の地下街に軒を連ねるお洒落な店のウインドウに反射する自分の泣き崩れた顔に苦笑し、大阪の肌寒い秋の夜風に浸りながら火照った肌を冷ます。

嗚呼、終わってしまった。
ぽつんと残る寂しさ。
走馬灯のように巡る数十分前の幸せな時間。


あの空間に戻りたい──

──などと浸る間も無く残すところ40分後訪れるのは2nd公演
そう、物凄く綺麗に着地したように見せかけているが忘れてはならない。

コイツ、これをあと7回観るのである。



さて次回の成沢さんは

「大阪2日目1stまさかの最前に死す」
「東京2日目1stエグいファンサに風化」
「大敗を喫し東阪納骨」


の死因三本立てです。
また見てくださいね、ジャーンケーンポーン

ウフフフフフ。

続く

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