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【舞台レビュー】VOICARION「スプーンの盾」/森山開次「死と乙女」

2025年、観劇初め。舞台をふたつ見に行きました。どちらも、サブカル!下北沢!小劇場!といった感じではないというか…私が普段見がちなラインナップではなかったので、所感を残しておこうと思います。

VOICARION「スプーンの盾」@シアター・クリエ

藤沢文翁さんという方の脚本・演出による「音楽朗読劇」です。藤沢文翁さんは、なんだかもうとんでもねえ多才な方で、私にはその経歴を説明することすら困難ですが、この「音楽朗読劇」というジャンルを確立し、懇切に続けていらっしゃるお方です。
そんな中でこのVOICARIONは今作で19回公演を向かえる企画で、「スプーンの盾」という演目は再演になります。
総勢51名の俳優・声優が、4人の登場人物を公演毎に配役を組み替えられて演じるというもの。また、劇伴音楽が生演奏されるというのも、VOICARIONの大きな魅力のひとつ。
私が拝見したのは、細谷佳正さん・高木渉さん・山寺宏一さん・沢城みゆきさんの4名がご出演の回でした。(みゆきちゃん、お席を取ってくださりありがとうございましたー!)
物語の概要などは公式サイトに説明があります。とにかくとっても贅沢な劇場体験ができますので、興味を持たれた方は是非一度ご覧になってみてください。
私もシナリオライターとして、声優たちの演じる「朗読劇」というものを、何本も書いています。演劇でもアニメでも映画でもない、セリフと語りだけで物語を伝える「朗読劇」というジャンル。
私自身、「書いたもののイメージをキャスト陣に伝えること」「多忙なキャスト陣に必要十分な準備をしてもらうこと」「音響・照明などのテクニカル面で物語を立ち上げること」などの難しさをいつも痛切に感じているので、藤沢文翁さんのように脚本から演出までをご自身の手で手掛けられ、ステージを構成するすべての要素を操縦する手腕とタフさに唸りました。もちろん、それを支える企画・制作陣も凄腕が集まっていることでしょう。拝見し、とても刺激を受けました。この体験を、ほんの欠片でも自分の執筆する朗読劇に活かせたらいいなと思います。

Live Performance SHIBUYA/森山開次「死と乙女」

なんて素敵な公演ビジュかよ

こちらは、森山開次さんという方のダンスの公演です。見に行ってみたら、公演の前半は弦楽(ヴィオラとヴァイオリン)の演奏でした。
「えっ!開次はんぶんだけ!!?」と一瞬残念な気持ちになったのですが、…なにせ開次さんは御歳51歳、51歳といえば中年、いかに開次さんの強靭な肉体をもってしても2時間近くあるステージを踊り狂い倒すというのは It's so hard だよね、と一旦納得。

しかし結果からいうと、こちらの公演前半後半通して大変大満足の体験となったのでした。

まず前半は、ヴィオラのソロに始まり、その後ヴァイオリンとの二重奏。ここまでヴィオラにフィーチャーした選曲は珍しい、というのもヴィオラっつーのは、ヴァイオリンとチェロの間の音階で、どうしても主旋律を担うことは稀な楽器なのです。「縁の下の力持ち」といいますか。個人的に、そんなヴィオラの魅力や個性がずっと気になっていたので、この公演でヴィオラの音色をたくさん聞くことができてうれしかったです。変な言い方かもですが、ヴィオラの音色に親近感が湧きました。高くもなく、低くもなく、しかしそのどちらの音色も含む倍音的な響きを持つ…私の声に似ていたのです。主旋律を担うことが稀で、縁の下の力持ち的なところも、たぶん似てる(笑)
クラシックの定番曲ではなく、現代の作曲家による曲を聞けたのも新鮮でしたが、特に気に入ったヘンデル「パッサカリア」を参考にリンクを貼っておきます。

そして後半はいよいよ!シューベルト:弦楽四重奏曲(ヴァイオリン✕2、ヴィオラ、チェロ)第14番ニ短調D.810「死と乙女」の演奏に乗せて森山開次さんが舞います!
私は、開次さんのダンスを生で拝見するのはこの時が初めてだったのですが、映像では過去に何度か目にしています。というか初めて彼の踊る姿を見た時(それは「茶の味」という邦画のほんの1シーンでしたが)…ダンスだと判断することもできなかったし、うまいとかなんだっていう感想も出てこない、ただあまりに衝撃的な美しさと存在そのものがもう特別すぎて、「やべえ……なんか、いる。」状態でした。(その後私はそれが「コンテンポラリーダンス」というジャンルの踊りであることを調べ、自分も踊りだそうとするにいたるわけですが)

そんなお人のステージをついに生で見る!そこに開次がいるヤバさ!に身も心も高まらずにゃいられない!ぎゅーーーーんんん!!
で、はい、全瞬間素晴らしかった。
開次さんは、やっぱり開次さんだった。映像の中で初めて出会った時と同じに、なんだかどうも人でなく、現象やエネルギーそのものかのような圧倒的な存在感。
私は、彼の表現や発するメッセージを言葉にすることはできない。きっとだからこそ、言葉の世界に生きる私は、開次さんの踊りに惹かれるんだろう。
「死と乙女」というタイトルでしたけど、なんていうか「死だし、乙女だし」って感じだった。開次さんは、時に死であり、しかし紛うことなき乙女でもあった。
カーテンコールはスタンディングオベーション。開次さんはどこまでも謙虚で、それも本当に素敵だった。

といった感じで、2025年のなかなかよい「劇場初め」の2本だったかなと思います。




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