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変わったこと、変わらなかったこと

この記事は株式会社MOVEDのアドベントカレンダーに参加しています。

今年、職場を移った。

小規模な公立大学から、大規模な私立大学への転職だった。
仕事の内容は大きくは変わらないのだが、職場の環境は大きく変わった。野球に例えるなら、独立リーグからNPBぐらいの違いはあるだろうか。移籍前は自分で練習や試合のグランドを予約し、トンボをかけ、トイレの掃除をし、スコアラーから記録係、審判まで自分でやりつつ、試合に出ながら監督もやるような環境だった。1人で何役もこなさなければいけない職場から、コーチと選手の仕事をしてくれ、ぐらいになった。やってることは同じ野球なのだが、チームの規模、スタッフの数、選手の数は全く異なるため、実は未だに混乱している。

ハード面、ソフトウェア面の環境は明らかに良くなった。使いたいソフトのライセンスはあるし、読みたい論文はたいてい電子ジャーナルにある。空き教室を探してキャンパスを駆け回ることもない。それだけでだいぶストレスは減った。だが…やはりなにかに戸惑う。

こちらではたくさんの優秀な職員さんがいるので、自分の仕事はコーチ(指導)やプレイヤー(研究)に専念できる。しかも自分と研究分野が重なる人が何人もいるし、研究に関してのディスカッションもできる。以前は、ピッチャー、サード、レフトの3つぐらい守っていた感覚だったが、「あなたはサードね」と言われている感じだ。さらにサードを守れる人が複数いても、誰も何も言わない。もちろん、自分なりの特性を確保しなければ、巨大戦力の中で埋没してしまう可能性は常にある。

だが、組織が大きくなれば、業務の全体像を把握することは難しくなる。1プレイヤーには、経営の話、別部署の話、自分が担当していない話は、ほとんど入ってこない。会議の多くはオンラインで開催され、同僚と顔を合わせることはめったにないし、そもそも同僚の数が多いので、1年経っても顔と名前は一致しないし、それは相手も同じだろう。一緒の所属なのに、顔も名前も、キャラクターも把握できない。話をするきっかけはなく、誰が、どこで、どんなふうに働いているかも、正直なところわからない。

この環境なら、自分のところに情報が回ってこないこともあり得るんだなと思った。前の組織では、噂レベルでも聞こえてくることがあった。でも、それも組織が多くなれば仕方がないことだ。重要な意思決定がいつの間にか決まっているのこともあった。当然のことだ。大きな決断を誰かが代わりに決めてくれるからこそ、私は自分の仕事に専念できる。

幸い、自分が働く部署には、kintoneが入っていた。情報は蓄積され、最新の情報は誰に頼まなくても、把握できる。このシステムを作った人の狙い通りだ(作ったのは私だけど、エヘンプイ!)

だけど…変わらなかったこともある。

それは、「最後は人」という業務改善における確固たる原則だ。技術やソフトウェアは、どこまで行っても手段で、その組織がどこに向かっているかは、大抵の場合は明確な言葉ではなく、組織の雰囲気などに非言語的に宿っている。kintoneのような優れた仕組みも、入っているデータ以上のことはわからない。そのデータを生み出すときにどんなプロセスがあったか、入力した人がどんな気持ちでデータを入力したか、書かれていないことはほとんどわからない。

kintoneや、その他のグループウェア、コミュニケーションツールを入れると、人の行動はたしかに変わる。行動が変わって、気持ちが変わることはきっとある。ただ、その気持が「いい方向」に変わることは約束されていない。

職場にツールが導入され、メンバーの行動が変わった。いや「変えさせられた」という受け止め方も人によってはするだろう。ツールが導入されて、人の行動が変わったことで満足してはいけない。行動が変わったことで、「否定的な気持ち」が生まれていないかを知り、受け止めなければ、業務改善はどこかで止まってしまう。

私には見えていなかったことがたくさんある。導入したツールを、自分と同じ気持ちで、隣の「あの人」も使っているとは限らない。

今年、私は一つのドメインを失った。喪失感は確かにある。だが、これもまた業務改善を続けてきた私が、何度も経験したことだ。そのたびに、思い返すことがある。

最後は、人だ。

それは職場を変わっても、確実に言える、数少ない一つの事実である。来年も、少しずつでも、前に進めたい。

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