あんたら錬金術を何やと思っとるの②
こちらの記事は、私の師匠である現代の魔女霜月やよいさんのツイートした投稿が何を意味するのかを考えるため、錬金術を知ることを目的としています。今回は第二弾。
大いなる業
さてツイートにもある「大いなる業」ですが、英語ではMagnum opus(マグナム・オプス)と書きます。Magnumの語源はインド・ヨーロッパ祖語の「meg-」から。「偉大な」「大きい」という意味、そして、opusもまたインド・ヨーロッパ祖語の「ope-」が語源で、「豊富に作り出す」「働く」といった意味があります。
早速の余談ですが、この「偉大な」という意味のmega-から派生した言葉にOmega(オメガ)という言葉があります。分かりやすく書くとo-mega。この「o」はアルファベットの15番目の文字で、フェニキア語でain(目)と呼ばれています。「目」+「偉大」という組み合わせが元なんですね。こういうところに語源の面白さを感じます。
さてこのMagnum opus「大いなる業」というのは、錬金術において原初物質を用いて賢者の石を生成するプロセスのことを指します。
このプロセスには4つの段階があり、作業過程の中で物質が変化する色に合わせてこう呼ばれます。
・ニグレド Nigred(黒化)
・アルベド Albedo(白化)
・シトリニタス Citrinitas(黄化)
・ルベド Rubedo(赤火)
15世紀以降は、シトリニタスはルベドに吸収され、「ニグレド・アルベド・ルベド」の3段階で表現されることが多くなりました。
さらに錬金術師は、大いなる業を惑星と金属、十二宮に照らし合わせて7段階、または12段階のプロセスに分けて表現しています。ここでは7段階をご紹介します。
・Calcination - Aries(焼成 - 白羊宮)
・Dissolution - Cancer(溶解/解体 - 巨蟹宮)
・Separation - Scorpio(分離 - 天蠍宮)
・Coujunction - Venus(結合 - 金星)
・Fermentation - Capricorn(発酵 - 磨羯宮)
・Distillation - Virgo(蒸留 - 処女宮)
・Couglation - Taurus(凝固 - 金牛宮)
この7つの段階を象徴で表すと、8の字を描くウロボロスになります。このウロボロスは「上と下を結びつける」ことを表します。
言葉を変えると、最初の4段階「焼成、溶解、分離、結合」は物質的世界である下を表し、後ろの3段階「発酵、蒸留、凝固」は霊的世界である上を表します。この霊的世界の3段階がニグレド(=発酵)、アルベド(=蒸留)、ルベド(=凝固)を意味します。
7段階の中で「Coujunction - Venus(結合 - 金星)」だけ惑星なのか。明確な答えはないですが、最初の3段階(焼成、溶解、分離)と後ろの3段階(発酵、蒸留、凝固)を結ぶために惑星が当てはめられるような気もします。占星術では金星に該当する宮に「天秤宮」があるのですが、両者のバランスを測る≒両者を結合すると考えると納得です。
今度は画像を変えてみましょう。セフィロトです。
上から「ケテル」その右下「コクマー」、左にいって「ビナー」と続き、稲妻状に下に向かい「ケセド」「ゲブラー」「ティファレト」「ネツァク」「ホド」「イェソド」「マルクト」と10個のセフィラ(球体)があります。
これに大いなる業を当てはめますと、下から上にのぼります。
マルクト:焼成
イェソド:溶解
ホド・ネツァク:分離
ティファレト:結合
ゲブラー・ケセド:発酵
ビナー・コクマー:蒸留
ケテル:凝固
セフィラの横列に合わせて区切ると、7段あることに気付くでしょうか。梯子の階段を上るが如く、大いなる業も下から上へとプロセスを辿ります。
さて、この大いなる業で得られる「賢者の石」とはどういうものだと思いますか。よく言われる「卑金属を金に変える」「不老不死の飲み物」「永久に燃え続けるランプ」「ホムンクルスの作成」などなど。本当にそのようなものが「賢者の石」と呼ばれる正体なのでしょうか。
作業開始
錬金術で欠かせない道具がレトルトです。丸いガラス製の容器のことで、象徴画にも描かれます。作業の始まりはレトルトの中に原初物質を入れるところから。哲学者たちは言います。
As above So below 上の如く下も然り。錬金術師は、レトルトは世界であり地球であると考え、またその容器は頭蓋骨であり、元素でありミクロの世界であると考えました。
だから、実験容器は必ず丸くなくてはならない。
その球体に入れるものは、賢者の石の元となる元素であり、それはよく吟味されて選定されています。それは物質と精神のように相互に最も激しく対立する要素でなければなりません。
錬金術は対立物の融合です。
さて重要な3段階の前に、最初のプロセス4段階をご紹介します。それぞれ分かりやすく、化学的・心理的・生理学的・社会的・惑星的な視点でまとめます。
1:Calcination(焼成は火による浄化)
化学的:物質を加熱して灰にします。焼成は、強力な腐食性がある硫酸で表されます。
心理的:自我と所有物への執着の破壊です。人生の試練と苦難によって徐々に攻撃され、克服されるにつれて自然と謙虚になるプロセスです。
生理学的:身体を調整し、過度の摂食による余分なものを燃焼させます。これは有酸素運動に当たります。
社会的:現状を打破しようとする革命家、征服者、その他の戦士たちの中での争いとして表現されます。
惑星的:創造の火。火の過程を経て居住可能な環境を形成します。
2:Dissolution(溶解は水による浄化)
化学的:焼成の灰を水に溶かすことを意味します。溶解は酸化鉄や錆で表現されます。紀元前1500年エジプト人は鉄を製錬し、鉄化合物を強壮剤や消毒剤として使用していました。
心理的:意識的に制御していた心の奥底にある部分(傷ついた心や秘めていた気持ち)が表面化できるようにする無意識のプロセス。それは水門を開いたことで、抑えられていた水から新しいエネルギーが出るようなイメージ。伝統的な偏見や個人的なこだわり、外部の押さえつけに邪魔されることなく、創造的な行為を積極的に活動できること、その至福を得られることを意味します。
生理学的:体内のエネルギー経路が開き、全ての細胞が再充電され向上します。
社会的:農業に基づく生活様式によって、着実な成長プロセスを表します。
惑星的:溶解とは大洪水であり、地球上の劣ったもの全てを浄化することを意味します。
3:Separation(分離は空気による精製)
化学的:溶解の成分を濾過によって分離し、価値のない物質を廃棄すること。
心理的:私たちの本質を再発見し、男性的で理性的な部分によって、以前諦めて捨ててしまった夢や幻想の「黄金」を取り戻すこと。洗練された人格に再統合するために何を捨て、何を得るかを意識的に行うプロセス。
生理学的:精神を魂の力と連携して、新しいエネルギーと肉体の再生を生み出す。体内の呼吸に従い、それを制御すること。
社会的:分離は氏族、都市、国の設立として表現されます。
惑星的:空気、水、土、火の強力な力による陸地と島々の形成を意味します。
4:Coujunction(結合は地球の浄化)
化学的:分離から保存された要素が、新しい物質に再統合すること。
心理的:私たちの真の自己の強化。私たちの中にある男性的側面、女性的側面の両方ともの意識が直感的な状態に再結合することを意味します。錬金術ではそれを「小石」と呼び、それを達成すると、永続的な「悟り」を得るために何をする必要があるかを明確に識別できるようになります。多くの場合、正しい道を進んでいることを確認できるシンクロニシティが発生し始めます。
生理学的:身体の性的エネルギーを個人的な変容のために使うこと。
社会的:環境を制覇するための技術の成長を表します。
惑星的:太陽や雷のエネルギーから原始的な生命体が創造される時に結合が起こります。
これが、大いなる業の最初の4段階で物質的世界におけるプロセスになります。私は心理的な面で自分に照らし合わせてしまうのですが、自己成長のための道標として理解しています。物の執着や娯楽がいかに精神の成長を妨げているかということですね。
次にお話しするのは、後ろの3段階、つまり霊的世界のプロセスです。といったところで、そこそこの長さになりましたので、この辺にしておきます。
では、次の記事でお会いしましょう。