見出し画像

彼女のペンギン

「私、アラスカに行きたいの」

それが彼女の口癖だった。

そのフレーズを耳にするたびに、

僕の頭の中はなぜかペンギンでいっぱいになった。

流氷の上にたたずむ無数のペンギンたち。

北極にペンギンが棲んでいないことを知ったのは、

彼女と連絡を取れなくなった頃だった。

今でもときどき、ひとりで酒を飲みながら

ぼんやりとペンギンのことを考える。

ところで、

彼女はアラスカへ行けたのだろうか。

からん、とグラスの中の氷が答えた。



©Naruhide Nakamura


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?