かぼちゃ姫
そうなのだ。この頑なさは私ゆずりなのだ。
色とりどりのクレヨン。ままごと用のカップやスプーン。ぬいぐるみのうさぎコレクション。リビングの床いっぱいに娘のおもちゃが散らばっている。
「いま片づけるところだったのに」
思わず溜息をついた私を見上げながら、ふくらんだ頬に悔し涙がこぼれる。それから30分。カラフルな爆弾が炸裂したかのような床にぺたんと座りこんだまま、彼女はひたすら悲嘆に暮れている。なだめすかしてみても無言でいやいやするだけ。こうなったらもうお手上げ。いつもの持久戦に突入だ。私はあきらめてキッチンに撤退し、夕食の準備にとりかかる。
かぼちゃのバター蒸し。娘のお気に入りのメニューのひとつだ。中くらいのかぼちゃをまるごと一個。わたをくりぬき、ひき肉とたまねぎの具を詰め込んで蒸し上げる。素朴で豪快。母の得意料理でもあった。そういえば、私と口げんかしたときもお母さんはよくこの料理を作ってくれたっけ。夕焼けでオレンジ色に染まった台所。母の後ろ姿を見つめながら、謝るタイミングを探していた16歳の秋。
鉄鍋がしゅうしゅうとつぶやき、キッチンに甘い匂いが漂いはじめた頃、小さな足音がためらいがちに近づいてくる。背中ごしにその気配を感じながら私は思わず微笑んでしまう。
さあ、かぼちゃ姫のご帰還だ。
Kitchen Stories #2
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