【短編小説】ジェニオ #1
俺には才能が有った。
何の?そんなの決まっている、このスペインで生まれた男の子が一番欲しい才能と言えばフットボールだろ。
最近はそうでも無いらしいが、少なくとも俺の生まれた時代はそうだった。
自分の才能に気が付いたのは早かった。
五歳の時にフットサルを始めて、十歳で地元のサンタンデールのクラブに入ったんだが、その間ずっと同年代や年上にも俺より上手い奴は居なかった。
特にトラップが違った、物心付く前からずっとボールに触っていたからか、俺はどんなボール・・いやどんなは言い過ぎだな、足が届けば殆どは好きな様に扱うことが出来た。そんな俺からすると周りの連中の足は木の棒みたいで、まるで話にならなかった。
最初の頃はチームの連中が下手糞なだけだと思っていたんだが、幾つか試合をしていく中で周りが下手糞な訳じゃ無くて、自分が特別なんだと知る様になった。
十二歳になった頃、エキシビションマッチの試合に出たんだが、その試合で活躍してちょっとした騒ぎが起きた。マドリードの二チームとバルセロナのチームから声を掛けられたんだが、親父がカタルーニャ出身でファンだったのと、クラブの育成システムが気に入って、ブラウグラーナのシャツに袖を通す事に決めた。
この頃のラ・マシアは俺にとって最高の場所だった。何しろ才能の有る連中がわんさか居て、どこのクラブにも無い、最高のフットボールを実現させてやろうと野心に燃えていた。
いいか、小僧覚えておけ。
人生に必要なのは才能よりも情熱だ。
お前が何かを成し遂げたいのなら、それを考えるだけでウキウキする様な、心が沸き立つものに人生を捧げろ。それだけが困難を乗り越えさせて、お前を導いてくれる灯火になる。確率?そんなものが気になるのならそれは偽物って事だ。本当にやりたい事はどうしたってやりたくなるもので、確率なんてものはどうでも良くなる。
確率として一つだけハッキリしているのは、人は何時かは死ぬって事だけだ。