理工系のためのよい文章の書き方 読書ノート 前編【働学併進#011】
「なぜわかりやすい文章を書くか?」
私の場合は以下の4つの具体的な状況が思う浮かんだ。
わかりやすい文章でノートやメモを取るとき
頭の整理のために
見直した時により深い内容まで思い出せるように
プログラムのコメントやドキュメントを書くとき
将来の自分や、他の開発者から見てもわかりやすいように
ブログ用の文章を書くとき
わかりやすく話すとき
それともう一つ、わかりやすい文章を書く仕組みを知る/整えることで「"速く"わかりやすい文を書けるようになりたい」という目標がある。
そこで今回は「理工系のためのよい文章の書き方」という本を読んで学んだ内容をまとめる。(Kindle版は10/13日まで半額になっている)
著者は明治大学総合数理学部の福地健太郎教授。
(明治大学紹介ページ, twitter: @kentarofukuchi)
図解は園山隆輔氏が担当している。
あらかじめ断っておくが、このnoteはあくまでも読書ノートであり、ここに書かれている言葉の全てが福地教授の言葉だと思わないでほしい。「良いことを言っていれば福地教授の言葉」「愛のない言葉は私の言葉」と判別しても構わない。
目次
7つの原則
まず主題文から書く
読み手の関心と前提知識を意識する
大事なことは早く書く
読み手の驚きを最小化する
読み手の予測を誘導する
事実に基づいて、正確に書く
読み手が同じことを再現できるように書く
構成を練る
既知の情報から新しい情報へ繋げる
王道の「導入・本論・展開」の3部構成に基づいて書く
「導入・本論・展開」の中で「導入・本論・展開」の3部構成にする
「導入・本論・展開」の並べ方を気にする(順列型と並列型)
本論は課題, 手法, 結果 のIMR構造にする
展開と次の導入を合わせて、主張を明確にする「つなぎ」を作る
文脈を作る接続詞を使う
パラグラフライティングを意識する
確実に伝える
厳しい読み手になる
主題の立ち位置を明確にする理由を補う
理由を重ねる
全体像から詳細情報へ
てにをはなどの助詞を正しく使う
文脈の流れを作る
背景説明を最短経路に絞る
起きたことを時系列で語らない
曖昧さを回避する
修飾子と被修飾子の関係を明確にする
主語と述語についての心得
ライティングの実技
とにかく書く、まず書く、書けるとこから書く、雑に書く
箇条書きでも書く
何度も書く、何度も書き直す
序論・背景+IMR+議論・結論
起承転解結で概要を書く
正しく引用する
正しく図表を書く
今回は前半の1章の「7つの原則」と2章の「構造」についてまとめる。
そもそも「良い文」とは
この矛盾した2つの性質を両立するのは本質的に難しい。
ましてや、義務教育で(作文の課題があっても)実践的な作文の方法を教わったことがないのだから大人になってもできないことは不思議ではない。
だからこそこの本は、2番の"誰が読んでもわかる"ように"情報を確実に読みやすく相手に伝えれる文章"を書くための基礎を抑えて練習しようという趣旨のもと書かれている。
流麗な文や格式高い文は基礎を抑えた人向けの応用技術だということは、文章を書いたことのある人なら誰でも納得していただけるだろう。
その基礎の基礎となるのが、目次でも紹介した「7つの原則」だ。
7つの原則
まず主題文から書く
読み手の関心と前提知識を意識する
大事なことは早く書く
読み手の驚きを最小化する
読み手の予測を誘導する
事実に基づいて、正確に書く
読み手が同じことを再現できるように書く
第1原則: まず主題文から書く
主題文とは、「自分が読み手に最も伝えたいことを簡潔にまとめた文」のことである。その中には課題、解決法、結論、検証法、応用例などの必要なデータは全て入れる。
e.g. 第2世代のAirPods Pro は内部チップをH2チップに改善することで、騒音時における最大2倍のノイズキャンセリング性能を実現したため、外出先ではこれまで以上に快適なユーザーエクスペリエンスを提供できる。
「最初から全て書いたら読み手の意識をひけない(クリック数稼げない)じゃん」なんて考えてる人ほど釣りっぽいことを書くどこにでもいる3流のライターであること請け合い(偏見)。
大切なのは主題であり、文で注意を強引に引くのは読者のストレスにもなると福地教授も仰っている(これは本当)。
主題文を書き慣れないうちは自分で何度でも書き直し、教授や先輩、友達や恋人から「主題文だけで言いたいことが具体的に伝わったか」「どこがわかりにくかったか」などの意見をもらう。
第2原則: 読み手の関心と前提知識を意識する
「読み手を意識する」なんてぼんやりしたアドバイスは新社会人ならほとんどの人が聞いたことがあるだろう。
そして(私を含め)大概が実践の場で忘れてしまいがちなアドバイスだ。
だからこそ、読み手の「関心」と「前提知識」だけでも意識しよう。
自分の伝えたい主題には暗黙の前提条件があり、知らず知らずのうちに読み手の知らない情報を書いてしまうと、主題文を読み手に理解してもらえる確率が下がる。
また、読み手の関心を誤解していると、親切心で盛り込んだ背景知識が余計なお世話になってしまう。
第3原則: 大事なことは早く書く
読み手へ向けて背景知識の補足が終わり次第、主題文を書く。
簡単でしょ?
第4原則: 読み手の驚きを最小化する
人間工学や工業デザインの世界では「道具は、道具を使う人が最も驚かずに済むような設計をすべき」という驚き最小原則 Principle of the Least Astonishment/Surpriseがある。
具体的には、利用者がこれまでの経験則からその道具に期待する操作感(メンタルモデル)にデザインを近づけるか、利用者のメンタルモデルを道具の挙動に近づけるかの2つの解決策がある。
この考え方を文章作成にも当てはめて考える。
読み手が予測するような内容や説明を重ねる
読み手の予測を主題文につながるように書き手が誘導する
第5原則: 読み手の予測を誘導する
この本で紹介されていた、人間の読書時の脳の傾向についての面白い実験があった。
以下の2つの文を読んで見てほしい。
たねまぎ えまだめ さいまつも とがらうし ほんそうれう さどんえやう
たのけこ ほりうつ せくんたき ぶぼうんぐ せいかんすん たまらわいし
1番目の文はすらすら読め、2番目の文は読みにくくはないだろうか?(私は2行目の4番目の言葉がまだわからない)
これほどまでに、人間の脳は単語単位で予想を繰り返しているということだ。
だからこそ、読み手の予測を主題に導くためには以下の3つの点に気をつける。
読者の予想しやすい形で書く
→接続詞や主題に適した具体例読者の予想通りの形で書く
→1で説明したら2でも説明する読者の予想通りにいかないときは事前に通告する
→「以下の3つの点に気をつける」=文章から箇条書きへ移ることを示唆する
→画像を添付するときは画像を掲載するのが自然に感じるような言葉を入れる
第6原則: 事実に基づいて、正確に書く
主観的な考えと客観的事実を、読み手が区別しやすいように書く
可能な限り論拠は定量的にかく
「〜と考えられる」「〜と判別可能だ」などの受動態の文では主格の言葉を付け加える
第7原則: 読み手が同じことを再現できるように書く
なぜ再現できるように書くか。
それは説明した作業や方法を読み手が再現させて初めて深まる議論があるからだ。
しかし、書き手は実験/発明/改善内容の説明をするときに「必要材料」の網羅的な列挙はできても、往々にして具体的な作業の注意点や留意点をもれなく説明できていないことがある。
書かれた作業だけで、読み手が同じ結果を再現できるかを常に意識する。
また、「なぜこの作業が必要なのか」「この作業を行う際はどのような箇所/データに着目するのか」などの説明を付け加えることで報告内容の再現性が高まり、より建設的な議論の土台となる。
構造
既知の情報から新しい情報へ繋げる
1章の第4原則「読者の驚きを最小化する」と第5原則「読者の予測を誘導する」で説明した原則を応用して、本題(本論)を説明する前に読者に知っていてほしい背景知識はそれより前に書く。
第3原則「大切なことは早く書く」と両立させるためには、以下のように書いてみる。
主題の概略
主題文を読み手が理解するのに必要な事前情報
主題文
王道の「導入・本論・展開」の3部構成に基づいて書く
「序論・本論・結論」の亜種?それらとの違いは語られなかった。
簡単に言うと、文章の大きな構造として以下の3つのパーツ(モジュール)に分割しようと言うことだ。
導入: その文章がどのような内容を扱っているか、どこにどんなことが書いてあるか、どのような知識が前提となっているか
本論: 実際に起きたこと、調べたこと、考えたこと
展開: 本論で示した情報から何をどのように考え、どう活用できるのか
英語だとContext-Content-Conclusion model と言われているらしい。
「導入・本論・展開」の中で「導入・本論・展開」の3部構成にする
文章が長くなると必然的に導入・本論・展開の各モジュールも大きくなるから、各モジュール内も導入・本論・展開の3部構成にするとわかりやすいと言う話。
文章が短いなら関係ない。
「導入・本論・展開」の並べ方を気にする(順列型と並列型)
本論で述べたいことが複数あるときの並べ方について。
順列型
各主張が次の主張につながっているなら、それぞれの「導入・本論・展開」を順番に書き、前の主張の展開と次の主張の導入で関係を明確化する。並列型
各主張に共通点がある場合には、複数の本論を1つの導入と1つの展開で挟む形にする。
最後の展開で総括する分があると共通する性質が伝わりやすい。
本論は課題+手法+結果 のIMR構造にする
Issue: 取り組んだ課題
Method: その課題解決のための手法、手段
Result: その手段を実行して得られた結果
IssueとResult の範囲は1:1の関係であるべきで、1つの課題から複数の結果が出てくる時や、1つの課題に対して結果の範囲が小さすぎるときは課題の範囲を見直す。
e.g.
NG: コーヒーが体に及ぼす影響を調査する
⇒ポリフェノールが老化を予防
⇒カフェインが脳機能を改善
⇒温かい飲み物が精神的安定性を向上
(1つの課題から得られる結果が多すぎ)
Good: カフェインが及ぼす脳の認知機能への影響の調査
e.g.
NG: 痩せるためのダイエット法
⇒朝は朝食の代わりにプロテインを飲む(結果の範囲が小さすぎ)
Good: 朝食に摂取するタンパク質量が体重に与える影響の調査
展開と次の導入を合わせて、主張を明確にする「つなぎ」を作る
先日のLearn Like a Proの読書ノートでも触れた通り、脳の作業記憶は同時に保持できる思考や概念の数は3〜5個程度である。
読者にそれより多くものを同時に保持させるためには、それぞれの考えや概念に繋がり/関係性をもたらす必要がある。
そこで、読み手がそれらの繋がりを予測するように誘導するためにつなぎを作る。
つなぎは大きさによって名前が違うが、原理的な役割は同じ
言葉と言葉をつなぐ助詞
文と文をつなぐ接続詞
段落と段落をつなぐ文
節と節をつなぐ段落
文脈を作る接続詞を使う
そもそも接続詞を忘れがち。
「削っても意味が伝わる」もしくは「対象とする読者なら意味が通じる」なら削っても良いかもしれないが、多くの人にわかってほしいなら接続詞を活用する。
接続詞の例
順接
すると、そこで、そのため、それ故、だから
逆接
しかし、ところが、とはいえ、にも関わらず
並列
かつ、同時に、並びに、また、
例示
現に、事実、特に、とりわけ、
言換
すなわち、つまり、要するに
パラグラフライティング
文章を段落に基づいて書き、各主張同士の論理的関係を明確にする書き方。
以下の3つの点に気を付けて段落を構成する。
1つの段落にはたった一つの意味・役割を割り当てる
類似している研究の紹介
既存の手法の問題点
既存の手法の問題点の改善法
新しい手法の手順の紹介 etc.
段落の冒頭に、段落の内容が凝縮抽出された文(トピックセンテンス)を書く
段落の残りは、トピックセンテンスを支えるような具体例や詳細条件で補足する
段落の中に逆接の接続詞が入っているときや段落が長すぎるときは、1つの段落に複数の意味が含まれている可能性が高い。
明日は後半部分についてまとめる。
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