スティフネスとは

スティフネスという言葉を見聞きしたことがある方は多いのではないでしょうか。
トレーニング界隈ではよく耳にする言葉ですが、私自身深く理解していなかったので、今回調べてみました。

スティフネスとは

スティフネスと調べると、「剛性」というWikipediaの記事がヒットします。
それによると、“曲げやねじりの力に対する、変形のしづらさの度合いのこと。力に対して変形が小さい時は剛性が高い(大きい)、変形が大きい時は剛性が低い(小さい)という。”とのこと。

よく「スティフネス=硬さ」というように表現されることがありますが、「硬さ」というより「伸びづらさ」や「変形のしづらさ」の方が個人的にしっくりきます。

スティフネスにも筋スティフネス、腱スティフネス、関節スティフネスといろいろありますが、今回は腱スティフネスに焦点を絞ります。

腱スティフネスとは

力に対して腱がどれだけ伸長するかで評価します。ある一定の力に対して腱伸長量が大きければ、腱スティフネスは低い(伸びやすい腱)。反対に腱伸長量が小さければ、腱スティフネスは高いことを意味します(伸びづらい腱)。

腱スティフネスが高いとどんな利点がある

身体運動は関節が動くことで成されます。
関節を動かすには、筋肉が力を発揮する必要があります。
筋肉が発揮した力は、腱を介して骨に伝わることで関節が動きます。

力を骨に伝える役割を担う腱、その腱のスティフネスが高いと力が骨に伝わりやすいと考えられています。そのため、高い腱スティフネスがRFDなどの向上要因として考えられています(Kubo et al, 2006)。

RFDはパワー向上のための一つの要因であるため(Newton and Kraemer, 1994)、高い腱スティフネスは、ジャンプやスプリントなどの瞬発的なパフォーマンスの向上に貢献すると考えられます。

腱スティフネスとジャンプパフォーマンス

腱スティフネスとパフォーマンスとの関係性を報告した研究はいくつかあります。ここではジャンプパフォーマンスに限定して文献を紹介します。

  1. Bojsen-Møller et al(2005)は、バレー選手の膝蓋腱スティフネスと垂直跳び(CMJ)およびスクワットジャンプ(SJ)の跳躍高には相関性があったことを報告。

  2. Laurent et al (2020)は、10週間のプライオTR介入でアキレス腱スティフネスとドロップジャンプ(DJ)の跳躍高が向上し、それら二つは相関性があったことが報告。

  3. なんならレビュー論文もあって、Ramírez‑delaCruz et al (2022)は、プライオメトリックTRで腱スティフネス、ジャンプパフォーマンス、そして下肢の筋力が向上することが報告されています。

これらの結果を見ると、腱スティフネスを高めることはジャンプパフォーマンスの向上に繋がるとも捉えられそうです。しかし、いくつか疑問に残る点もあります。

疑問点

  1. ジャンプパフォーマンスの指標として採用されているのは、どんな種目の何の値?

  2. そもそも腱スティフネスはどのように測定されるのか?

上述のRamírez‑delaCruz et al (2022)のレビュー論文で分析された先行研究では、腱スティフネスとジャンプパフォーマンスの測定を行った研究は11本ありました。その11本のうち、ジャンプパフォーマンスの評価指標として採用した種目はSJが10本、CMJが9本、そしてDJが5本でした。つまり、ジャンプパフォーマンスと言っても、Slow SSC(CMJ)、Fast SSC(DJ)、SSCの無いPure Concentric(SJ)というように、ジャンプという大枠では同じですが、細かく見ると異なるジャンプ様式であることが分かります。

ジャンプ様式だけでなく、ジャンプ測定で得られる数値が何なのかも重要です。跳躍高、反応筋力指数(RSI;跳躍高を地面接地時間で除した値)、はたまたそれら以外の別な指標なのか。

従って、腱スティフネスが高まることでジャンプパフォーマンスが向上すると言っても、具体的にどのようなジャンプ様式で、何の数値において貢献度が高いのか、というのは疑問に残ります。

腱スティフネスの測定方法

筋に等尺性収縮をさせ、その際にエコーで筋線維と腱膜(筋内に存在する腱で膜状の組織)の交点の移動量(=腱の伸長量)を計測する方法が主流のようです。筋が等尺性収縮で力を発揮すると、筋線維と腱膜の交点は近位に移動します。つまり筋が縮みます。筋が縮むということは、腱が伸長していると考えられるため、等尺性収縮中にエコーで腱の伸長量を計測できるということです。
等尺性収縮による力発揮と腱伸長量を%MVC毎にプロットすることで、「腱張力-伸長量関係」を得て、腱スティフネスを算出するようです。

各%MVC毎に腱伸長量を計測するため、ランプ条件での収縮様式が採用されることが多いようです。ランプ条件とは、安静状態から数秒(3-5秒)かけてMVCまで到達するよう等尺性収縮を行い、MVC到達後は数秒(3-5秒)かけて安静状態に戻す方法です。この方法でスティフネスを算出することが多いようです。

ランプ条件の課題

安静状態から3-5秒かけてMVCまで到達するような筋収縮は実際の競技動作では行うことがあるのか?というのがポイントだと思います。

おそらく、競技動作では3-5秒よりも短い時間で安静状態(またはそれに近い状態)からMVCもしくはSubmaxの力発揮まで到達するはずでしょう。
ランプ条件特有の収縮様式と実際の競技動作との類似性を考えると、ランプ条件で測定される腱スティフネスとジャンプパフォーマンスとの関係性は薄いような気もします。

多くの研究ではランプ条件を採用している

上述のBojsen-Møller et al(2005)とLaurent et al (2020)はランプ条件を採用していました。
また、以下の先行研究でもランプ条件が採用されていました。

  1. Kubo et al (2007):12週間のプライオメトリックTRが腱スティフネスとSJ, CMJ, DJの跳躍高の増加が示された。

  2. Kubo et al (1999):有意ではないが、腱スティフネスが高いほどSJとCMJの跳躍高が高い傾向にあった。また、腱スティフネスとPrestretch augmentationは有意な負の相関性が確認された(r=-0.46, p<0.05)。
    ※Prestretch augmentation:SJとCMJ (DJの場合もある)から算出してSSC能を評価する方法。Prestretch augmentation (%)= ((CMJ-SJ)/SJ)*100

  3. Kubo et al (2006):12週間のアイソメトリックTRが腱スティフネスとSJの跳躍高を増加させたが、CMJ跳躍高に変化はなし。

  4. Kubo et al (2007):腱スティフネスはSJ跳躍高と有意な相関関係があった(r=0.423, p<0.05)。一方でCMJとSJのPrestretch augmentationには負の相関性が確認された(CMJ; r=-0.471, p<0.05, DJ; r=-0.502, p<0.05)。

ランプ条件で測定された腱スティフネスとジャンプの跳躍高は何かしら関係性がありそうです。上述の研究から、SJのようにSSCを伴わないジャンプパフォーマンスと腱スティフネスは何かしら関係性がありそうですが、SSCを伴うジャンプやFast SSCと腱スティフネスの関係性はもしかしたら小さいかもしれません。
※1に示すKubo et al (2007)では、DJの跳躍高は有意に増加しているものの、地面接地時間およびRSIは不明なため、Fast SSCとして考えてもよいDJだったかは分かりません。

ただし上述のように、ランプ条件特有の収縮様式で測定された腱スティフネスとジャンプパフォーマンスの関係性には疑問が残ります。

そこで、より競技動作に近い速度で腱スティフネスを測定する方法として、バリスティック条件の収縮様式があるようです。

バリスティック条件とは

安静状態からMVCまで、急激かつ強く等尺性での力を発揮させる方法のようです。上述のランプ条件と比較すると、MVCまでの到達時間が短いのが特徴です。
バリスティック条件だと、筋収縮は実際の競技動作に近いことが想像できます。
しかしながら、測定方法はとても難しそうです… 実際に、Kubo (2018)の報告では、検者内および検者間信頼性はランプよりもバリスティックの方が相関係数は若干低く、変動係数は若干高い傾向にあることが示されています。


ランプ条件とバリスティック条件を併用している研究

  1. Kubo et al (2017):12週間のプライオTRとアイソメトリックTR(片脚がプライオ、もう片側の脚がアイソメトリック)で、プライオTRではランプ・バリスティック条件のどちらにおいてもアキレス腱スティフネスは変化無し。アイソメトリックTRではランプ・バリスティックの両条件でのアキレス腱スティフネスが増加。ジャンプパフォーマンスとしての片脚のCMJ, noCMJ, DJの跳躍高は両群で変化なし。

  2. Kubo et al (2021):12週間の片脚のプライオTRでは、noCMJ, CMJ, DJの跳躍高は伸びたが、ランプ・バリスティックの両条件でのアキレス腱スティフネスに変化はなかった。

  3. Kubo et al (2020):スプリンターと非鍛錬者では、ランプ・バリスティックの両条件でのアキレス腱スティフネスに差はなかった。

12週間のアイソメトリックTRでは腱スティフネスはランプ・バリスティックの両条件で増加を示しましたが、プライオTRでは増加は示さないようです。ジャンプの跳躍高は、プライオTRで伸びた報告もあれば(Kubo et al, 2021)、変化を示さなかった報告もあります(Kubo et al, 2017)。
※Kubo et al (2021)のDJも地面接地時間は示されていないので、Fast SSCに値するDJだったかは分かりません。

プライオTRで跳躍高が伸びようが伸びまいが、バリスティック条件で測定された腱スティフネスはTR介入をしても変化がなかったようです。また、スプリンターと非鍛錬者との比較でもアキレス腱スティフネスに差はなかったことを踏まえると、もしかしたら腱機能においてはスティフネスだけでなく、他の要因がパフォーマンスと関係しているかもしれません。

個人的な感覚では、腱スティフネスはSJのような安静状態から急激に力を発揮するような動作で貢献するような気がします。一方で、Fast SSCのような地面接地時間が短い動作(DJやホッピングなど)は腱スティフネスはあまり貢献しないのではないかと思います。代わりに他の要因が貢献するような気がします。実際はどうなんでしょうか。

腱機能におけるスティフネス以外のパフォーマンス向上要因

別記事で書いてみます。

まとめ

  1. 腱スティフネスが高いほど、パフォーマンス(本記事ではジャンプに限定)は上がるのか?

  2. 腱スティフネスが高いほどジャンプパフォーマンスが高まる可能性はあるが、ジャンプ様式や指標となる数値は様々である。また、腱スティフネスはランプ条件で測定されたものが多い。

  3. 腱スティフネスの測定方法としてランプ条件が多く採用されているが、実際の競技動作(ジャンプやスプリント)との類似性に欠ける点が課題とされている。その点、バリスティック条件での測定方法があるが、スティフネスとジャンプパフォーマンスの関係性は一致した見解は得られてなさそう。

  4. ジャンプパフォーマンスと腱機能の関係性は、スティフネスだけでなく他の要因が影響しているかも。

  5. なんとなく、腱スティフネスは安静状態から急激い力を発揮するSJのような動作には貢献するが、DJやホッピングなどのFast SSCにはあまり貢献しないのではないかと思う。


参考文献

  1. Bojsen-Møller, J., Magnusson, SP., Rasmussen, LR., Kjaer, M., and Aagaard, P. (2005) Muscle performance during maximal isometric and dynamic contraction is influenced by te stiffness of the tendinous structures: J Appl Physiol, 99: 986-994.  Muscle performance during maximal isometric and dynamic contractions is influenced by the stiffness of the tendinous structures - PubMed (nih.gov)

  2. Kubo, K., Kawakami, Y., and Fukunaga, T. (1999) Influence of elastic properties of tendon structures on jump performacne in humans. J Appl Physiol, 87(6):2090-2096. Influence of elastic properties of tendon structures on jump performance in humans - PubMed (nih.gov)

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  9. Kubo, K., Ikebukuro, T., and Yata, H. (2021) Effects of plyometric training on muscle-tendon mechanical properties and behavior of fascicles during jumping. Phyiol Rep, 9(21): e15073. Effects of plyometric training on muscle-tendon mechanical properties and behavior of fascicles during jumping - PubMed (nih.gov)

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  11. Newton, RU., and Kraemer, WJ. (1994) Developing explosive muscular power: Implications for mixed methods training strategies. SCJ, 16: 20-31.  https://x.gd/rhtBU

  12. Ramírez-delaCruz, M., Bravo‑Sánchez, A., Esteban‑García, P., Jiménez, F., and Abián‑Vicén, J. (2022) Effects of plyometric training on lower body muscle architecture, tendon structure, stiffness and physical performance: A systematic review and meta-analysis. Sports Med, 8(1): 40   Effects of Plyometric Training on Lower Body Muscle Architecture, Tendon Structure, Stiffness and Physical Performance: A Systematic Review and Meta-analysis - PubMed (nih.gov)






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