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「トレンド」を完全解説!ストリートを席巻する「Unclean」、そして「生々しさ」…とは?シンプル・クリーン至上主義からの脱却、「キレイめ」は完全に終わったのか…?今メンズファッションが選択を迫られている!?【連載】
ファッションと切り離すことが出来ない要素、「トレンド」。
これを一気に解説してしまおう!という試みとして始まった連載、第二回です。
第一回はコチラ
今回は、ストリートを席巻する「Unclean」、そして「生々しさ」…とは?をメインとした解説になります。
主にファッションの「テイスト」がどう変わってきているのか?ということを掘り下げていきます。
この記事におけるトレンド解説は、街中や洋服屋の店頭で起こっている、よりリアルなトレンド実態についてのものとなります。
そのため、あくまでも日本国内でのものとなります。
海外のコレクション内容などは、トレンドを理解するための一助としては活用していますが、単にコレクションはこうだから、といった大上段からの解説にはしておりません。
※先月から、【連載】という新たな形式を取り入れております。
普段のアイテムレポートや特集とはまた別に、最終的には再構成・加筆を経て一つの電子書籍のようになるような記事を配信していきます。
まずは「トレンド」連載です。
今後もさまざまなテーマで、この連載記事が不定期に配信されます。
これまでのアイテムレポートの合間を縫うイメージです。
この連載は単品での購入も可能ですし、最終的に一つの電子書籍のようなものにした際に、一つのまとまった記事として購入することも可能です。
単品で全ての連載を購入された方も、最終的に加筆修正、画像追加などをした上で一つにまとまった記事を読めるようになります。
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どうしてもアイテムレポート系の記事となると、時間経過とともにその価値を保つのが難しくなります。
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原点である「オシャレ脳を鍛えよう」、「読みものとしてのファッション」というところに立ち返ってマガジンをより満足感のあるものにパワーアップさせていきます。
日本で流行っていたのは実は「ノームコア」ではない!?潔癖なまでのシンプル至上主義からの解放、今流行りとされるノームコアはノームコアでは無い!?
ノームコアが再流行、の誤解
2023年は、やたらと「ノームコア」というワードをよく聞く年でした。
ん?ノームコアって何年か前に聞いたことあるけど、また流行っているの?と思われる方もいるでしょう。
ノームコアとは、2013年頃からニューヨーク中心に始まった概念とされ、日本だと2014年くらいには一般的に流通する言葉になりました。
大体2010年代中盤くらいによく聞いたワードですね。
ノーマルとハードコアが掛け合わされ、日本語的には「究極の普通」などと訳されることが多いです。
究極の普通ということで、「とんでもなくシンプルなファッション?」と普通は思いますよね。
実際その時代の日本での取り上げられ方はあまり考察が深いものではなく、例えばこんなものでした。
「普通でオシャレ、しかも女子ウケ抜群!ノームコア入門、ジョブズがお手本」
「無地の洋服がベース、柄やロゴは着ない
リーバイスのジーンズ、ヘインズのTシャツなど無地の普通の服を着れば間違いない!柄やロゴは排除するのがノームコアの基本スタンスと覚えておくべし!」
「色は白、ネイビー、グレー、ブラックと定番色でまとめる!モスグリーンなどトレンドのダークトーンはノームコアには不要!」
これは当時のファッション雑誌のノームコアに関する記述を抜粋したものです。
このように当初ノームコアは、単にシンプルファッションを指す言葉に過ぎませんでした。
しかしその後、「そういうノームコアの解釈は間違っている」 「シンプルな無地ファッション?それノームコアじゃないよ」という批判が生まれます。
そうした論者は、ノームコアとは「状況を把握し現状を受け入れること」「野心的な自己主張をしない」「他者とのつながりを重視する」である等、分かりづらい抽象的なことをつらつら言い出します。
こうした「正しいノームコアの解釈とは何か?」を深く考察していくとそれだけで一つの記事になってしまうほどなので(また抽象的でふわっとした論評が多いので余計分かりづらい)
私なりに噛み砕いてお伝えすると
「世間の空気を読んでファッションを考える」→「トレンドの平均値的なファッションをすること」
これがノームコアです。
「究極の普通」を「シンプルなファッション」と解釈すると、時代が変わっても白シャツに黒い細身パンツのようになるのですが、そうではない。
「時代が変わればそれに適応した適切なファッションをする」、それが真のノームコアということなのでしょう。
特定のファッションスタイルというよりは、生き方のようなものに近い、と言えるでしょう。
「こういうの流行っているから、俺は着ないわ」「俺はいつだってリーバイスの503」などと、自分自身のこだわり、自我や個性を出そうとすればそれは「ノームコア的な生き方」からは外れていきます。
かつて秋葉原のオタクファッションに対して、チェックシャツはダサいからやめろ、無地を着ろ、と言い出すことも、「今の世間のトレンドはコレな、空気読めよ?」という意味では非常にノームコア的なのです。
他人の目や集団の共通認識を気にする感じはとても日本人的で、だからこそ「そんなことで良いの?昔からやってきたことだけど…」と多くの人は思うかもしれません。
そう考えると、ノームコアは少なくとも個性を重んじるとされる海外でこそな生き方やライフスタイルの提案であって、ノームコア的な発想が染み付いている日本人にとっては特段意味の無い言葉と言ってしまって良いかもしれません。
現在「ノームコアと言われがちなスタイル」は2010年代とはちょっと違う?
2010年代中盤に盛んに持て囃された「ノームコア」というワード。
おそらくその頃のノームコアを通ってきている方は「濃紺のデニムか真っ黒なパンツに、白シャツや白Tシャツ」といった格好を真っ先に思い浮かべると思います。
ただ、2024年現在、「今のノームコアスタイル」とはちょっとイメージが違ってくるかもしれません。
インスタグラムやTikTokで「ノームコアスタイル」として語られているものとは、明確にズレがあるのです。
今それらの媒体でノームコアと検索して出てくるスタイルは、スウェットをメインに据えたスタイルです。
その他、太くてリブのあるパンツ、ワンポイントのロゴT、シャカシャカのナイロンアウター、ナイロンベスト、キャップ等々…。
確かに黒、白、グレー、せいぜいネイビーと、使われる色数は少ない。
「シンプルなスタイル」には違いないものの、それらは明確に2010年代のノームコアスタイルとは異なるものでしょう。
スウェットスタイルが本格的にトレンドになり始めたのが2020年代に入ってから。
ビッグシルエットトレンドと「リラックス」トレンドが結びつき、肩肘張ることのないスウェットのセットアップがお洒落を自認する層に大ヒット。
それがノームコアというワードの下に、「個性を主張するわけではなく、今の時代のシンプルを反映したスタイル」ということで流通している現状なのです。
そしてこれは、あくまで23〜24年の「ノームコア」であり、来年には変わってしまっているかもしれません。
2010年代に日本で本当に流行っていたもの、それは「シンプル至上主義」、そしてその終焉
ノームコアという言葉が日本で使われ出したのは2010年代中盤。
しかし、そのもっと前から日本のファッションシーンを席巻していたトレンドがあります。
それが「シンプル至上主義」です。
シンプルな洋服、スタイルが好まれるのはいつの時代でもあることですが、この頃はちょっとあまりにもストイック、潔癖過ぎるほどでした。
それまでTシャツと言えばプリントの入ったものが主流でしたが、無地Tシャツに置き換えられ、ロゴなどは今思うとそこまで嫌う!?というほどに忌み嫌われます。
胸にほんの少しロゴマークが入っているだけで「このロゴが無ければ良いのに」と言われる始末。
ストライプやボーダー等、比較的シンプルなもの以外の柄モノも同様です。
現在の「ノームコア」では、ロゴなどは許容されますから、その点でも当時ノームコアと思われていたスタイルと現在とでは異なることが分かりますね。
そもそもノームコアなんて関係無く、少なくとも2010年代前半の日本のファッションシーンではストイック過ぎるほどにシンプルなスタイルが席巻していたのです。
そして2010年代後半、この無地・シンプル絶対のトレンドが終わりました。
何かしら特徴的な要素、ビッグシルエットだったり、色、ロゴだったり。
シンプルなだけではない、「特別な何か」が洋服に求められるようになります。
supremeをはじめとするストリートブランドも復権し、「ロゴドン」と言われるような服も大復活します。
逆にシンプルなだけの洋服は大量に売れ残るようになりました。
同時にノームコアという言葉も何処かへ消え去りました。
2000年代途中から「ノームコア」という言葉など関係なく始まった「シンプル至上主義」「ロゴ・柄モノ排斥運動」は2010年代後半にようやく終わりを迎えるのです。
そして、その流れはノームコアという言葉が消えたタイミングと一致しています。
これが誤解の元で、「シンプル一辺倒のファッショントレンドはノームコアという言葉に関係無く始まった」けれど「ノームコアという言葉とともにシンプル一辺倒のファッショントレンドは終わった」ので、この2つが混同されやすいのです。
ノームコアについて、「いつの時代も変わらないシンプルなスタイル」と思い込んでいると、インスタグラムやTikTokで投稿されたノームコアを謳うスタイルに「それはノームコアじゃないよ」と若者に絡む、ウザい大人になってしまうかもしれません。
日本で「クワイエット・ラグジュアリー」がそれほど刺さらない理由
主に今年に入り、盛んに言われるようになったワード「クワイエット・ラグジュアリー(Quiet Luxury)」。
感覚的にはノームコアがあまり言われなくなってから、クワイエットラグジュアリーという言葉が流通し出したので、トレンドワードの入れ替わりをイメージする方もいるかもしれません。
クワイエット・ラグジュアリーとは、「主張はしないけれど、高級感に溢れたスタイル」のこと。
見た目はシンプルですが、上質な素材を使用し、どことなく高級感が漂う…というものです。
待ってくれ、そんなスタイルは、昔から掃いて捨てるほどあるぞ…と言いたくなる気持ちはグッと抑えてもらって。
クワイエット・ラグジュアリーがトレンドとされる背景には、新型ウイルス禍後の経済状況や、派手な消費が不適切とされる風潮が影響しているなどとされます。
アメリカのテレビドラマ「サクセッション(邦題は「メディア王 〜華麗なる一族」)」や、同じくアメリカの歌手・女優であるグウィネス・パルトロウが火付け役とされています。
前者は、ドラマ内で出演俳優たちが着用する「控えめな富裕層ファッション」が、「富裕層はことさらにアピールしない」「品がある」「リアリティがある」と評価・注目されたのです。
後者は、グウィネス・パルトロウが裁判を起こされ出廷した際のファッションが裁判という場ですから質素に見えたのですが、実はどれもハイブランドのアイテムだった、というもの。
要するに成金趣味的な、派手さを見せつけるようなファッションではなく、シンプルだけれど仕立ての良い、品のあるファッションって良いよね…という。
ただ、ここまで説明した通り、日本では2010年台に「潔癖なまでのシンプル至上主義」を散々通ってきたばかり、です。
日本では、短期的に見れば、「シンプル至上主義に戻ろう」という程度のお話にしかなりません。
シンプル至上主義が行き着く先は、「素材至上主義」です。
デザインで差別化することを良しとしないシンプル至上主義は、素材を極めるしかありません。
2000年代後半から、2010年代に掛けて、日本の国内ブランドは素材を訴求する方向性に舵を切りました。
裏原系をはじめとする、ストリート由来の国内ブランドは元々「ありあわせ」のTシャツのボディにPCでデザインしたグラフィックをプリントして販売するようなところから出発しており、あまり素材でどうこうという訴求の仕方ではありませんでした。
しかし、そんなブランド群の中からも、オリジナルで良質な素材開発を行うところが出てきたり、デザインだけでは無く素材の良さをウリにするブランドが徐々に現れたのです。
2010年代になると「これ実はハイブランドと同じ素材を使っているんです」などと謳い文句にするブランドが増えましたね。
そうして、シンプル至上主義の2010年代の日本のファッションシーンでは、素材的な高級感をウリにするシンプルファッション=クワイエットラグジュアリーに近しいもの、が量産されていたのです。
だからクワイエットラグジュアリーに新鮮味があまり無いのです。
「そうは見えないけれど実は値段が高い、シンプルなファッション」なんて、むしろ日本ブランドのお家芸みたいなものです。それは、欧米のハイブランドのような歴史を持たないが故に、ロゴなどにブランドパワーを持たせることのできない弱みの裏返しでもあります。
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そして、クワイエットラグジュアリーは、その名の通りお金が掛かります。
「若者の○○離れ」などと言われますが、シンプルに「お金の若者離れ」を起こしているような現状では、お金が掛かることを基盤とするようなクワイエットラグジュアリーが市民権を得るようなことは難しい気もします。
非常に数が限られた、いわゆる「服好き」の間で、少し品のあるシックなファッションに傾く程度で、街中がそれに染まるということはないでしょう。
クワイエットラグジュアリーなんて言葉が出てくる前から元々あった、素材にこだわったシンプルなアイテムを売る時の謳い文句として「クワイエットラグジュアリーが今流行っていますからね」と都合よく使われるくらいがせいぜいかも…。
ただし、後述する“Unclean”なファッショントレンドの「出口」として機能する可能性は大いにあります。
ストリートを席巻する「Unclean」、そして「生々しさ」…とは?
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