Summer Pockets REFLECTION BLUE Pocket√ 感想
この記事の続きになります。ネタバレ注意。
本当はALKA√と同じ記事にそのまま書こうと思っていましたが、長くなってしまったので分けることにしました。
続き、と書きましたが今回は時系列順に追わず、書きたいことをテーマごとに書いていこうかなと思います。
この√は、うみがさらに昔、しろはが過去に戻る力を得てしまう時代までタイムリープし、その力を止める物語となっています。本編の10年前、しろはの父親が事故で亡くなり、母親がいなくなってしまってからすぐの頃です。
7歳頃のしろは、当然知能や思考は年相応の幼さになっているけど、それでも17歳の彼女の面影を感じるような受け答えや振る舞いを見ると同じ人間なんだなあって。この可愛い子がすくすく育って10年後にあの綺麗な姿になるんだなって感慨深くなってしまいます。
・しろは祖父、小鳩の想いについて
しろは祖父、小鳩について着目すると見えてくるものがあります。この√では、自分の娘と娘婿を失って間もない彼の姿を見ることができます。
まず、10年前と比べて遥かに心優しい。相手が七海としろはという子供であることを加味しても、あの威圧感のようなものが感じられません。
小鳩は七海に対し、「しろはに親の話を持ち出さないでほしい」「食堂にしろはを近づけないでほしい」とお願いをします。
それは自身の娘、しろはの母である瞳がいなくなる間際に小鳩に伝えた、「しろはに夏を楽しませてあげて」「過去のまぶしさよりも、未来のまぶしさを探せるように」という約束めいたものを無理に守ろうとして出た、彼なりの不器用な優しさ故の行動なのではないでしょうか。年齢は離れていてもやはりしろはの祖父なんだなあって。
過去に囚われないで前を向いて生きることは大切ですが、そのために食堂に近づかないようにするというのは前を向いているのではなく、問題から目を逸らしているだけのように思えます。その答えなのか、新しい世界ではしろはが食堂で料理をお客さんに提供していますから。
10年後の彼は周囲に威圧感を与える存在となっていました。特に、島外の人間に対して、排他的とも言える態度を取るのです。しろは√で羽依里と口論になった際に、彼が羽依里に激昂する場面があります。それは羽依里がしろはの力の話題を出した時でした。
4年前にしろはは自らの持つ不思議な力が災いし、同級生に呪いをかけて崖から突き落としたと謂れのない噂を流されてしまいます。この事件に対し、最も憤慨していたのは彼なのでしょう。彼は成瀬家に伝わる力の存在を昔から知っています。同じように力を持っていた彼の妻や娘は、楽しい夏を過ごすことこそが力に囚われない手段だと彼に伝えていたのに、現状しろはにそれをさせてあげることが全くできていない、そんな自分に対しても腹を立てていたのではないでしょうか。
小鳩は羽依里と識に対し、「大切な者を守るためなら人は鬼にでも蛇にでもなれる」と言っていました。今となればこの言葉に込められた気持ちがわかります。いなくなってしまった娘と娘婿が大切にしていた自身の孫を懸命に守ること、そのために小鳩は鬼と呼ばれるくらいの厳しさを背負っているのではないでしょうか。
小鳩の娘、しろはの母である瞳も「大切な者を守るため」に「自らを犠牲」にしています(後述)。彼女がどこへ行ってしまったのか彼は知っていて、その上でこの言葉を羽依里に伝えたのでしょうか。
・白羽の伝承について
しろは母の瞳が行方不明となってしまう直前に、瞳は仲の良い同級生の鏡子に「白羽の伝承」と呼ばれる逸話の話を聞きに来ていました。瞳がいなくなってしまった理由は、この伝承に関係すると考えて間違いないでしょう。
女の人が小さな蝶になって、他の全てを失いながら、愛する人に会いに行くお話。海に飛び込み、そのしぶきが羽のように女性をとりまいて蝶になって飛んでいくということで、白羽なんだそうです。
この「女の人」が瞳だとすれば、瞳の愛する人とは誰だったのか。
瞳が行方不明になるより少し前に、しろはの父(瞳の夫)は交通事故で亡くなってしまいます。その力の存在を知っているしろはは、「お母さんはお父さんに会いにいったのではないか」と推量します。しかし、しろはの親戚の「(瞳は)いつでもしろはちゃんのことを一番に考えてた」という証言や、鏡子が話す瞳の口癖である「過去を懐かしむ暇もないくらい楽しむんだ」という言葉を踏まえれば、瞳がしろはを置きざりにして事故で亡くなった夫のいた過去へ戻ったとは思えません。であるとすれば答えは1つ、しろはの元へ行ったのでしょう。未来にしろはが危険な目に合うことを知ってしまい、しろはを助けるために、瞳は白羽の伝承を使ったと考えられます。
しろはが危険な目に合うのはその10年後、夏鳥の儀の日です。しろはは巫女服を着たまま、夜の海中で溺れ苦しんでしまいます。そこで彼女と羽依里を助けたのは、謎の青い光でした。
しろは√で腑に落ちなかった謎の光の正体、それは過去からしろはを助けに来た瞳が蝶となった姿だったのでしょう。そしてこの説を裏付ける出来事がもう一つありました。ウミホタルの光です。ウミホタルの光は海岸の波しぶきの生まれる箇所で輝いていました。しろはが言うには、ここが光ったのは10年ぶりだということでした。白羽の伝承の力で瞳がしろはを助ける時代まで飛んできた跡があの光の正体だったのではないでしょうか。
(個人的解釈です。しろはの心情描写という説も同時に推していきたい)
・鏡子と瞳
羽依里の母親の妹である(これは本当だよね?)鏡子さん。彼女は最後まで謎の人物のまま終わった感じがあります。思いつく限りで謎を以下に書いていきます。
①本来この時代(2000年)にいない、誰の親戚なのかもわからないはずのうみを受け入れている点。鏡子は何をどこまで知っていたのか。
しろは√の夏鳥の儀の日、羽依里はうみが迷い橘にいるのを目撃しているが、「祭りの日にうみは本土へ帰った」と鏡子は言っている。
⇒うみが夏休みを何度も周回していることを鏡子は知っているのか…?
②七海が2回目に鏡子の元を訪ねてきた際の言葉。
「あなたは全部知ってるはずだよ」
「私とこんな話をするのは、はじめてじゃないから」
(まっすぐ、懐かしむような視線)
⇒「七海≒うみ」であることを鏡子は知っている?うみはかつての夏休みに鏡子と話をしている?だとすれば、鏡子は10年後の記憶をどうして持っているのか…?
③しろはの力を封じた後の世界で、羽依里に蔵の整理をお願いし、その後夏休みが終わるまでどこに行っていたのか。更にその後の言葉。
「これでよかったんだよね」「瞳」
⇒(僕の個人的解釈が正しいとして)鏡子は瞳がしろはを助けに未来へ行ったことを知っているのか?もしかしてこの世界だと瞳は生きているのか?食堂でしろはがチャーハンを作ってお客さん(羽依里)に提供していたことを考えると、そういうことなのか?
いくらなんでもヒントが少なすぎます。まるで埒が明かない(諦め)のでカンニング(?)しようと思います。ごめんなさい。
「Summer Pockets」 ショートストーリー
~夏の眩しさの中で~【岬 鏡子 編】
彼女は、私達には見えていないものを見ていた。嘘かほんとか、彼女には未来が見えるのだという。でも彼女は、自分の未来は見えていたのかな。
…。
「うん……。ねぇ、鏡子。お願いがあるの」
いつになく彼女は真剣な顔だった。
「いつかあなたの前に、女の子が現れる」
それは、瞳の得意の予知だった。
「…。あなたは、きっと男の子にも会うことになるわ。その子の手伝いを、あなたは必要としている」
「…。でも、あなたを手伝えるのはその男の子だけなの。それで本当にその子が手伝うに相応しいかは、あなたがちゃんと見極めるの。あなたの仕事を手伝う資格があるか……それを見て」
「瞳は行ってしまうの? もう、帰ってこないの」
「分からない。でもそうだね。おそらく、ここには、帰ってこられない。そのかわり、目的も行き先ははっきりとしているから。もうすぐ、私の旅も終わると思う」
どうして私が島を出て行って、そしてどうして戻って来たか。
忘れるわけがないけど、どこかに追いやろうとしていたいろんなものが、整然と私の心の中にも、並べられていく。
狂っていた時間が、戻っていくんだ。
そこには胸を締め付ける辛い思い出があって……。大事なキラキラとした思い出もそこにはあった。
整理された光景の中で、私は思い出していた。
あの頃の、夏を。そこにいた自分の姿を。
──加藤鏡子。
都会に出て夢を追いかけて、そうして挫けて帰ってきた若かった自分。
夢のように忘れていたあの頃の自分を私は今、とても久しぶりに思い出していた。
瞳に未来予知の力があることに加え、10年後の世界で「もうすぐ私の旅も終わる」と鏡子に伝えていることから、「瞳がしろはを助けに10年後へ行った」という説は合っていたのかなと思います。
うみのような女の子が来ることは知っていたけど、うみの事情までは流石に知らなかったのかな、と思います。うみは迷い橘へ行く前に、鏡子さんに「帰ります」とだけ伝えたのではないでしょうか。でもそうすると10年前の世界の鏡子の含みのある視線と発言の意味がわからない…。
羽依里に蔵の整理を依頼しなかった夏休みも、最終的に依頼した夏休みも、全て瞳のお願いに従っていたということがわかりました。瞳は(自分以外の?)未来が見えるということなので、鏡子が夢を追いかけて都会へ行ってそこで挫折し、この島に戻ってきて蔵に籠ってしまうことも全て知っていたのでしょう。蔵の中に眠っているモノは過去の思い出の象徴で、それを整理して処分することが成功した今、鏡子も前へ進めるようになったのかな。
瞳は最終的な世界にも実在はしていなさそうなので、しろははあの食堂でバイトでもしているんじゃないでしょうか。もしくはお爺ちゃんと2人で経営しているとか。
①③はとりあえず解決しましたが、②はわかりませんでした。難しい。
・うみが話した絵本の内容+羽依里の加筆
ALKA√で羽依里はうみのために絵本を描くことになりました。絵は鴎に描いてもらい、物語はうみが話す内容に沿って作ります。その内容は、以下のようなものです。
色のない世界を旅する、綺麗な羽の蝶々がいました。蝶々は世界に色を与えていく。世界が色付き、綺麗になるにつれて、蝶は色を無くしていく。もう誰も綺麗な蝶だったとは気づきません。最終的に蝶はたくさんの人と出会えたことに満足し、故郷で静かに眠りにつくのでした。悲しみで皆が流した涙は雨になりました。
自らの体を犠牲にして何かを得るという点では、この絵本の内容は白羽の伝承とも似ているのかなって。
この話を聞いてまず思い浮かぶのは、「蝶=うみ」という説でしょう。
うみは夏休みを何周もするにつれてどんどん幼児退行していき、最終的には言葉も話せなく、箸も持てず、折り紙も折れなくなってしまいます。その過程において、うみはたくさんの出会い、思い出、幸せを得ることができました。「世界の色」はうみの精神を指し、「蝶の色」はうみの肉体を指しているのではないでしょうか。
この絵本は、うみが話した内容に加え、羽依里が独自に続きを作成しています。その1枚は、七海がしろはの力を止め、母娘の時を超えた出会い、そして別れとなる際のエンディングムービーで流れます。
(その前に流れる、うみが描いた夏休みの絵日記を順々に出していく演出はいくらなんでもズルいです)(思い出ボムの演出に弱すぎる)(n敗)
うみが創造した物語は、うみが夏休みを何周もして、最後の夏休みで両親と楽しい夏休みを過ごしたところで終了しているのではないでしょうか。そして羽依里の追加した1枚の絵本の内容は、その後にうみが更に遠い世界へ旅立ち、しろはの力を止め、新しい世界を構築したところまでを表しているのではないかと。
あの時点でうみは、そこまでの物語を考えもしていなかった。
絵日記と同じで、絵本も書いたことが本当になったりしたのかな…なんて。
思い出を得てそこで満足することなく、その先へ歩き続けることで生まれた世界があったということですね。
・歩き続けることで
七海はしろはの力を止めるために、繰り返し続けた夏を終わらせる選択肢を取ります。その方法は、今までに経験した夏休みを無に帰してしまう行動でした。未来を得るためには、過去を捨てなければならないのです。
しろはと同様に不思議な力を持っていたしろはの母や祖母は、幾つかの大切な言葉を残していました。
しろは祖母「(不思議な力に頼らないためには)夏を楽しめばいいのよ」
しろは母「過去を懐かしむ暇もないくらい楽しむんだ」
「過去のまぶしさよりも、未来のまぶしさを探せるように」
しろは「取り戻そうと…思っちゃダメなんだよね」
「過去に、縛られちゃだめ…なんだよね…」
夏鳥の儀の後に自分の力を呪うしろはに対し、羽依里は「未来は結果ではなくもっと先の幸せな未来への過程」と言いました。未来が変わるんだとしたらそれは今これからの行動の結果であって、過去を今から変えることはできないし、過去のまぶしさだけを見ていても今も未来も変わらない。この言葉にはそんな意味もあるように思えます。
「今までで一番楽しかった夏休みって、いつ?」…
「小さい時……かな」…
いつの間にか忘れてしまっていた風景。でも、確かに覚えている風景。
過去を懐かしむな、とは言っていません。でも、過去に縛り付けられて前に進めなくなるのは良くない。小さい時の夏休みが一番楽しかったのは、今と未来しか見ていなかったからじゃないかなって。
過去は未来を縛り付けるものではない。思い出は確かに大事なものだけど、そこに自分の心を閉じ込めてしまうのは良くないんじゃないかなって。
誰よりも少年期の夏の冒険を渇望して最後まで楽しんだ鴎や、明確な最後が決まっている中で一生分の夏を先行して楽しむことに奮闘した紬が良い例です。これらは「今」を全力で生きた行動と言えるのではないでしょうか。
密度の濃い夏休みを過ごした彼らに感情移入していると、自分も無駄な時間を過ごさないようにしたいと思ってしまいます。でもそれを行動に起こすのはとても難しい。とりあえず、最低限やりたいと思ったことはなるべくすぐに始めて、行きたいと思った場所にはなるべくすぐに行きたいなって。(それが可能となるフットワークの軽さ、欲しいし維持したいよね…)
「昔は良かったな」しか言わなくなってしまった大人は、もう前に進むことを止めてしまったのかもしれない。思い出す日々はたしかにかけがえのないものだったのかもしれないけど、今現在だって大切な時間を生きているはず。今には今の楽しみがあるし、ないのであれば探したらいい、そう思って生きたいよな…って。そういう意味では、特に考えずに同じことを繰り返すだけの、新しいものに手を出さない生活は続けたくないって思っちゃう。
何度かツイッターでも言ってるけど、今には今の楽しさがあるんですよね。
昔は不味い、何が美味しいのって思っていた食べ物がやたら美味しく感じるようになったり、高校生くらいの頃には何が楽しいのって思っていたことが今は楽しかったり。自由に使えるお金と時間と交友関係が全て増えたからそう思うようになったのかもしれないけど、それだけじゃないはず。
この手のゲームに手を出したこと自体、自分にとっては新しい世界だったんですよね。KEY作品をやってみたいと心のどこか思っていたはずなのに、今まで未プレイのままでした。勧めてくれた彼に多大な感謝、踏み出した自分にも感謝です。在宅が増えたのもノベルゲームに手を出すきっかけの一助となったので、こんなご時世にも感謝……はできるわけないけど、ライブ現地に行きまくりの2年前(2019年)は楽しかったって言い続けるのもいい加減に疲れてきたし、こんな出会いもあったよってことで。ポジティブに。
このゲームは卑怯です。こんな掛け替えのない煌めいた夏休みを沢山見せておいて、それでいて過去に縋るな、前を見て生きてほしいって最終的に訴えかけてくる。許せません。聖地には行くし、アニメ化も待ってます。
考察とポエムしか書いてないし、感想記事(大嘘)って感じですね。
うみ√や紬√はちゃんと感想を書きます。たぶん。