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小説:コトリとアスカの異聞奇譚 7-3
「いや、知らんわ」
月曜日の晩。琴音の中学校以来の親友・凛は久しぶりにときじく薬草珈琲店まで遊びに来たのだが、琴音の問いに対してあっさりと答えを返した。
凛はクロモジの葉とコーヒー豆をグラインドする葵の様子をチラリと眺めてから、隣に座る琴音の方へと目を向ける。
「ヒシアゲ古墳周辺の散歩道について暁子さんから何か聞いてないか、と。暁子さんが亡くなってから10年近く経ってるし、それにその何かっていうのが、おそらく35年以上前の話なんだろ?・・・う~ん、無理やろ~」
「だよね・・・ごめん」
葵が丁寧にペーパードリップしている様を眺めながら、二人はため息をつく。
「まぁ、腹の足しにもならない情報だけど、暁子さんって私に色々と話をしてくれたんだよね。・・・コトリってお母さんからも妖精って言われてたでしょ?気を悪くしないで欲しいんだけど、あれって・・・ちょっと会話の通じにくいところがあるって意味も含まれていたんだよな」
「会話の通じにくいところ・・・」
「うん、ごめん。言い方キツいけど。私と暁子さんって、恋愛の話とか仕事の話とか色々としていたんだけど、コトリってお母さんとあまりそんな話、してなかったでしょ?」
「確かに・・・」
「私が、だから、暁子さんの話し相手になってたんだよ。ある意味」
「そうだったんだ・・・」
琴音はかつて、自他共に認める“人の心の分からない人間”だったが、その影響が母との会話にも及んでいたことを知り、少し気落ちした。
「琴音さん、クロモジ珈琲を飲んで元気出してください」
「葵ちゃん、ありがとう」
美しいアロマのクロモジ珈琲を葵から手渡され、少し元気が出る。
「あの、凛さんにその場所の写真などを見てもらってはいかがですか?」
「あ、そうだね。ちょっと待ってね」
いつもながらの鋭い葵の提案に驚かされながら、先日の写真を凛に見せる。
「ここ、うっすら記憶がある。・・・何だったっけ?確か、コトリが大学の時の彼氏にフラれて、ほんの少しだけ気落ちしていた時、暁子さんと三人でピクニックに行って、このあたりまで歩いて行ったような気がするな」
「ほんの少しだけ気落ち・・・って笑」
「本当に、少しだけの気落ちっぽかったからね笑」
「琴音さんがフラれた話、また、聞かせてください」
「いいぜ、私がまた、丁寧に教えて進ぜよう」
恋愛話に食いついてきた葵に凛は笑顔で応える。
「・・・で、そうだ。何かは忘れたけど、暁子さん、この場所で何か言っていた気がするな」
「何か」
「うん、何か、私に対して。そう、だから、コトリには関心がなくて、私には関心がある話題だったと思うんだよ」
「私には関心がない話題」
「うん・・・でも、それって今から20年前の話だからな。ちょっと今日は思い出せそうもないわ」
核心に近づけそうで近づけない会話ではあったが、琴音は、久しぶりの凛との時間を心から楽しむことができた。
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