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小説:コトリとアスカの異聞奇譚 6-2

 客のいない日曜日の薬草珈琲店。奥のストックヤードに3人の大人と1人の子供が入り込んでいるため、やや狭苦しい雰囲気だ。

 部屋にいるのは、琴音、琴音と打ち合わせに東京から来た(+実家に顔を見せに来た)佳奈、なんとなく面白そうという理由で参加している葵、そして明日香の4人だ。

「コトリさん、これって普通に、実験で言うところの対象試験っすよね」
「佳奈ちゃん、さすが。元研究所メンバー」

 塩・麹・大豆が混ぜ合わされた直後の生きた味噌が入ったパウチが二つ。左はパウチだけがぽつんと置かれており、右はパウチの横にサボテンが並んでいる。

 右のパウチに近いサボテンには、真横の麹を元気にするよう指示が下されていた。もちろん、指示をしたのは明日香だ。

 発酵が進むとパウチが膨らんでくるのだが、その膨らみ方から発酵の度合いを比べ、サボテンの効果をうかがい知るという実験意図だ。・・・もちろん、発酵が激しければ味噌が美味しくなるという理屈でもないので、あくまで実験。

「でも、葵ちゃんって、なんか色っぽくなってない?もしかして、男でもできた?」
「葵ちゃんのお気に入りの男性が、ここで働くことになったんだよね」
「へぇ~、やるなぁ、葵ちゃん!」
「ちょっと、琴音さんも佳奈さんも・・・笑」

 ときじく薬草珈琲店のオーナーである琴音、新しく店長となった葵、二号店の店長となる佳奈の三人が良い雰囲気でいられるのは、やはりオーナーである琴音の性格の賜物だろうか。

 また、今は五歳の明日香も将来、ときじく薬草珈琲店に関わることになるのだが、それはまた別のお話。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 葵が毎日、バックヤードの味噌のパウチの写真を撮り、琴音と佳奈にそれを送る。サボテンの効果は明らかだった。サボテンの隣のパウチは発酵のスピードが速く、すぐにパンパンになっていた。

 東京に戻った佳奈と密に連絡を取っている琴音だが、サボテンの活用についても検討を続けていた。

「・・・という風にサボテンを教育して設置すれば、乾燥した薬草の鮮度も高くキープできるんじゃないかな」
「コトリさん、なるほどです。これって、独自製法みたいな感じですよね?」
「ほんとだ。・・・明日香がいないと成立しないけど笑」
「ですね笑」

 電話を切った琴音は、床の上で遊んでいる明日香に近づき、これからのことを改めてお願いした。

「明日香、そういう訳で時々、サボちゃんたちのこと、お願いね」
「サボちゃんって可愛い」
「そうだね。サボちゃんたち笑」

 改めて考えると、龍穴神社で明日香が雨を降らせた時も、彼女が植物にお願いをしていたのだろう。

 琴音は、植物と特別な交流ができる娘を、愛おしげに見つめるのであった。

※続きはこちらより


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