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小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-15

「じゃあ、私の痛みについて話します」

 参加者たちの輪に入りながら、葵は話をはじめる。チラリと琴音のほうを見ると、琴音は椅子に座りながら、いつの間にか来ていたお寺の住職さんと話をしているようだった。

「まず、この前まで、私、人見知りだったんです」
「え~、そうなん?」「分からへんかった」とか、「なんとなく、そんな感じしてた」といった言葉が飛び交う。

「特に日常会話がホントに苦手で、心臓がすぐにバクバクしてしまうんです。・・・でも、あちらにいる店長の琴音さんに色々とアドバイスをもらって、スッキリしたんです。」そう言いながら、葵は琴音のほうに再び、一瞬だけ視線を向ける。

「先日、琴音さんのご家族と奈良公園に遊びに行く機会があって、その中でタチアオイの花が咲いているのを見つけたんです。・・・私の名前、葵って言うじゃないですか。それって、そのタチアオイからもらったんです。で、タチアオイの花言葉には、自信を持って望みを叶えようっていうのもあって、その花を見た瞬間に花言葉のエネルギーが体に入ってくるという不思議体験をしたんです。」葵は明日香のことには触れないようにしながら、自分の体験を参加者に伝えた。

「へ~すごい」「なんか、不思議~」という言葉に続いて、「あ、分かった。それで、葵ちゃん、このイベントを思いついたんだ」という声が挙がった。

「うん、そうなんです。でもね、ほんのついさっきまで、まだ人見知りが残っていたことに気づいたんです。こんな風に、仲間の輪に入ることがこれまでできなかった。でも、みなさんがこんな風に輪に引き入れてくれたお陰で、とうとうそれも克服できるかもしれないかなって思って。私が逆に、このイベントでエネルギーをもらっちゃいました笑」

「そうなんや」「葵ちゃん、よかったね」と合いの手が入る。そして「なぁ、葵をみんなで順番に、ハグしてあげるのってどう?」と声が挙がると、「あ、それいいやん」「しようしよう」とみんながそれに賛同した。

 一人ずつ、ハグ。葵はこんなに、他人を自分の身体に近づけたことがなかった。ハグをするごとに、葵の最後のバリアーが割れていく。ハグをして、パリン。ハグをして、パリンと。

 最後の11人目と強くハグをして、葵は自分の心の鎧が、人見知りが、砕け散ったのを身体で感じた。・・・なんだ、簡単なことだったんだ。人と触れ合うことって、こんなにも美しくて心地よいことだったんだ。そして、こんな風に一歩踏み出したら、すぐに手に入るものだったんだ。

 あ・・・これから私の青春が始まるのかも。

 直感的に、そんな言葉が頭に浮かぶ。そして、その言葉を頭の中で反芻しながら、葵は場の空気をもうしばらく堪能した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 花言葉ナイトが終わり、参加者全員で寺の講堂の後片付けを済ませる。みんな、気持ちを込めてその場を綺麗にした。

 そして、最後の資材を車に積み込んで、葵は琴音に挨拶をする。

「琴音さん、今日と今日までのこと、ありがとうございました。この素敵な体験、一生忘れないと思います。あと、荷物だけお願いしちゃうのですけど、すみません。・・・また、明日からもよろしくお願いします」
「うん。葵ちゃんが考えて、自分で進めたイベント、お見事でした。素敵でした。・・・うん、みんなを待たせてもだめだから、行っておいで」

 葵は会釈をして、寺の門で待つ11人のほうへと駆け寄っていった。今からみんなで、二次会を楽しむのだろう。

※続きはこちらより


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