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【文献レビュー】中学校教員の異動後の困難に関する研究-初めての異動に着目して-
町支大祐(2019)中学校教員の異動後の困難に関する研究-初めての異動に着目して-. 教師額研究, 22(1), 37-45.
・人事異動はすればするほど職能成長につながるという指摘。
・異動=研修という位置づけ。
・初めて人事異動をして3年以内の教師を対象。
・3年目から異動の対象となり、原則的に6年目は必ず異動。
・4~5.5年が移動平均。
・44%が広域範囲での異動を推奨。
・関係性の断絶
・校内独自のルールの違いへの戸惑い
・周囲からの視線に関する難しさ
・信念とのずれに関する難しさ
私は特別支援教育分野における教員の人事異動に大きな問題意識をもっている。
ただ、いわゆる特別支援教育分野以外では教員の人事異動はそれほど問題視されてこなかったし、文献にもあるようにどちらかというと人事異動は研修・職能成長につながるものとしてポジティブにとらえられてきた。
ところが、今回のこの研究は特別支援教育ではない中学校の教員、なかでも初めて人事異動を経験する教員の困難を具体的に明らかにしたものとして非常に興味深い。
団塊の世代からはじまる教員の大量退職に伴い、教員の年齢分布は大きく変化してきている。その中で初任の教員たちが人事異動をした後の職場でうまく適応できない実態は、長期的に教育の質を保っていく上でも無視できない大きな問題だと思う。
この論文の結果にもあるように、職場の中で子ども、保護者、教員同士、地域の人々とじかんをかけて関係性を構築していく。それが年度切替で断然される。現在の職場と相性のあわない教員にとっては嬉しい出来事だろうが、多くの教員がそうではないのではないだろうか。私も子どもを小学校にいかせる保護者として、おそらく、あの先生はもう4年目だからそろそろ異動しちゃうんだろうな~、できれば卒業まで見守ってほしかったなぁって思う。先生もそれは同じ気持ち。だけど、容赦ない人事異動。
2番目にあげられていた学校が違えば文化、細かいルールが異なる。これは結構些細な内容も多いのだけど、些細なことだからこそ地味にストレッサーになるのだと思う。ポジティブな意味で校風があるのはいいと思うのだが・・・。
そして、周囲からの視線というのは最初どういう意味なのだろうと思った。読んでなるほどね、初任校では初任者扱いだが2校目ではすでにいつの間にか一人前教員としてみられ、業務がふられる。これはおそろしい。私の研究では最低7年間は自己効力感が向上するのにかかるというのに、初任で3年務め、4年目に新しい学校へ転勤。そこではまだ教員として一人前ではないのに育ててもらえない。いつまでもひよこ扱いは問題だが、世界的に教師の初期教育の重要性が指摘される中でこの状況はあまりにもおそまつ。
個人的には、どこへいっても筑波大学出身ということで
「特別支援教育のことならなんでもわかる即戦力」
という扱いを受けるのは非常に困った。苦笑
教員養成段階で身に付けた内容は意味がないものではないがそれが即戦力で使えるものではないと思う。
最後の信念のずれというもの。
これもおおいに初任期の教員を苦しめるのだろうと思う。
これは教員に限らず、専門職であれば養成段階で抱く理想の教師像と現場とのギャップというのは必ず直面する問題なのだと思う。
ただ、こうしたギャップを解消しながら教師自身が自分の中でおりあいをつけるために多少の時間が必要。
だけど、人事異動によって信念のギャップをうまくうめる余裕が与えられない。
この論文を読んで、特別支援教育分野だけと思っていた教師の人事異動問題は教育業界全体の問題として捉えなおす示唆を与えてくれた。