2024年 空海様に会えた年
2024年もあとわずか。
色々思い出深い一年だったのですけど、今年いちばん楽しませてもらったのは、やはり「展覧会」だったなあと思います。
そこで、2024年行ってよかった。今でも心に残る展覧会のことを色々書こうと思います。
『空海 密教のルーツとマンダラ世界』奈良国立博物館
今年一番楽しませてもらったのは、何と言っても奈良博の空海さまの展覧会。
空海様の生誕1250年の節目にあわせての大規模な展覧会でした。
空海さまといえば、密教を日本にもたらした人として有名な人であり、全国にある密教寺院の始祖として崇められ、密教に詳しくない一般庶民からの崇敬も厚い方。
更に言うとその書が群を抜いて素晴らしいということで、日本の「三筆」として尊敬を集めるなど多方面で抜きん出ている方です。
この空海様の足跡に添って、その人となりを知り、もたらした密教の世界を広げ、さらにその死後に及ぼした影響を語る展覧会でした。
さまざまな仏具や密教のお道具、マンダラなどが集められていました。
これらすべて、各地で「空海さまその人」と同じものだとみなされて大切にされてきた品々です。
多くの品が国内にあり、辿ろうと思えばまた会いに行くことができます。
高野山や京都の東寺、安祥寺など。
しかしそれらが「一同に会す」
これがこの展覧会の最も大きな魅力のひとつでした。
空海様が中国からもたらしたものや、そのお師匠さまから譲りうけたもの。
お弟子さんや最澄さまに書いた手紙、色んな人が空海さまに頼んで書いてもらったもの。
これらすべて、空海様の手の元にあったものが全国へ駆け抜けて行き、そしてこの展覧会で集ってきました。
おそらくもう二度とない、貴重な瞬間でした。
言葉で言い表せない「空気感」のようなもの。
空海様の息遣いや、そこに込められた思い。受け取った人の喜び。それを大事に守ってきた時間。そういったものが展覧会会場にみちみちていたのです。
モノを見るというより、空気を味わいに行ったといっても過言ではなかったと感じます。
貴重な空海様の「直筆」
今回の展覧会の目玉のひとつが、空海様の直筆の「書」が多く展示されていたことでした。
展覧会の中で「書」に関する展示は、ほかの展覧会でもよくありますが、わりと見過ごされることが多いです。
秋に奈良博である『正倉院展』も、きらびやかな宝物に人だかりがあっても、「書」のコーナーになるととたんに人がいなくなります。
なかなか書の文字を堪能したり、その良さを鑑賞したりするのは難しいようです。
しかし、空海様の書の前には、いつも誰かがいました。
私も何巡かするうちに、いちばん目に焼き付けるべきは「書」だと思ったりしました。
空海様が残した書物の中に『性霊集』というものがあり、そこに書について書かれたものがあります。
空海様は『書は散なり』ということを書いています。文字というのは形だけ機能的にまとめればいいのではない。心を開放し、万物の秩序をそこに表さなければいけない」
ものすごく簡素に書きましたが、実際には空海様はもっと奥深いことをおっしゃってます!
書というのは技術だけではない。形がよければそれでいいというのものではない。
書には自分が入っている。その自分は万物とともにある自分である。万物と一体となり、開放されきった自分である。
空海様の書は空海様の精神世界であり、宇宙であり、世界であるのです。そういったものが表現されているなら、その文字を見て感銘を受けないはずがありません。
平安時代の人は、実際に空海様に会い、言葉を交わしてその深遠な世界を知ったことでしょう。
現代に生まれてしまった我々は、残念ながら空海様の息吹に接することはできません。
でも、その書に空海さま自身が開放されているなら、それは空海様に会うのこと同じことです。
そして他の展示品、密教法具やマンダラにもきっと空海様自身が入り込んでいることでしょう。
そういうものが一同に会した場所ですから、会場に行くということは空海様ご自身に会いに行ったといってもいいのではないでしょうか。
2024年 最高の展覧会のひとつ。空海様の展覧会は、1000年の時を越えて、弘法大師空海その人に出会えた展覧会でした。