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おうちで祀る神様「榊」

日本人って山が好きだな~と思う。山登りが好きとか、キャンプが好きとかそういうことではなくて、山とともにある感じ。山に色々投げかけている感じ。山に気持ちを託している感じ。

日本のシンボルを上げよとなったら、着物や日本食や神社などとともに富士山が入ってくる。初めて間近で富士山を仰いだ時は巨大すぎて恐ろしくなった。ドカンとくる存在感である。

奈良の山はやさしい気がする。大和三山と呼ばれるシンボリックな山がある。耳成山、畝傍山、天の香久山である。どれもかわいらしい形をしている。どの山も標高200メートルないので、その小柄な感じが想像できるだろう。いずれも奈良県の橿原市というところにある。

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(大和三山のひとつ。畝傍山)


みっつの山は古代人にも大人気で歌にもよく詠まれている。
「香具山は 
畝火(うねび)雄々(をを)しと 
耳成(みみなし)と 
相(あひ)争ひき 
神代より 
かくにあるらし 古(いにしえ)も 
しかにあれこそ 
うつせみも 
妻を争ふらしき」
山を男女に見立てて投げかける恋の歌である。
ただ、本当に恋愛のことを言いたかったのかどうかはよくわからない。

香久山は「天の香久山」と「天」がつくくらいなので、神様が関係している。『風土記』という書物があり、現在の愛媛県のことを書いた『伊予国風土記』には「天から山が降りてきて、ひとつは愛媛の天山に。ひとつは奈良の天の香久山になった」とある。まさに「天」の「山」だから「天の香久山」なのだ。桜井市にある三輪山は、まさに山が神そのものだし、吉野山だってそうだ。奈良の山はことごとく神の気配がする。

奈良県の北部にある神の山といえば、これはもう「御蓋山(みかさやま)」だろう。春日大社の御祭神、タケミカヅチノミコトが降り立った山だ。周辺に若草山、春日山、高円山などがそびえ現在も「春日山原始林」が名高い。

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(うっすらとだけど、山が二重になってるのわかりますか。手前の少し色の濃い山が御蓋山です)

「原始林」と名がついているのはまさに手付かずの「原始の山」が残っているから。厳密にはまるきり人の手が入っていないわけではないけれど、温帯性・寒帯性の樹木が混在し、そこに住む昆虫や鳥類も豊富で奈良にとってとても重要なゾーンだ。

この大切な森林の保護は承和八年(841年)から始まっている。めちゃくちゃ古い。当時の法律で狩猟伐採を禁止した。以来ずっと守られ続けた。

昔の人の暮らしって燃料は自分で確保するものである。おじいさんは柴刈りに・・というやつである。かつて都でもあった奈良には沢山の人が住んでいた。そのすぐそばに巨大な森があるのだから、分け入って薪のひとつでも取りたかっただろう。春には山菜も芽吹くし、秋にはキノコだってあったはず。でも取りに行かなかった。神の山だからである。

山は神そのもの。特に常緑のものに人は神を感じた。松がおめでたい植物とされるのは、常に緑だからである。松は祀るに通じる。神が降りてくる依り代になるのである。
榊もそうだ。榊の語源は人間と神の「境目」にあるからだという。榊の青々とした緑はまさに神がお遷りになるにふさわしい。山にあって神の息吹が感じられる木、自然の気に満ちた常緑の木を家に持って帰って神棚に供える。それはすなわち「自然」という神を家に招くことなのだ。


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