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2024年正倉院展 漆に注目

2024 年も正倉院展が無事に開幕しました。

大学生の頃から正倉院展に通い続けて、もう何十年と経ってしまいました。
あの頃は自分が生涯にわたって正倉院展にはまり続けるとは思っておらず、当時はただただ年に一度、季節が来たら行く、というのを繰り返すばかりでした。

ここまで来てみると、たった年に一回でも通い続けることで、積み上がるものがあるなあと思ったりします。

今年の正倉院展で、深く心に刺さったのは漆の宝物の数々でした。

漆は日本でもっともメジャーな塗りですが、近すぎて逆に接して来なかった気さえします。

漆塗りの器や工芸品など。探せば巷に溢れていますが、だからこそ縁遠かったというか。

そして今日常にある漆製品は、それこそピンからキリまであって、最高に素晴らしいものと、漆もどきとが混在している気がします。

でもその最高峰を知らずに「あ、漆ですね」とひとまとめにしていた気がするのです。

ですので、実は漆のことなんて、ひとつも知らない…と思うのです。

正倉院の宝物に残る漆。

これこそ日本最高峰の漆なのではないかな?と思いながら見つめてきました。

正倉院の宝物は、奈良時代に生きた聖武天皇という人の身の回りを飾ったものが、東大寺に献納されたことから始まります。

身の回りの品といっても、天皇ですから、超一級の宝物ばかり。

そしてそれらを宝物自身のきらびやかさは言うまでもなく、それらを収めておく箱や袋がまた素晴らしいのです。

今回心に残った漆の多くは、おそらく主役ではない、大事なものを入れるための「容器」でした。


展覧会の目玉として、素晴らしい鏡や多く出陳されていたのですけど、それらを入れておくための箱は、びっくりするほど漆黒の漆。

実用品ということで飾り気がない刀の展示もあり、その握り手に塗られていたのも漆。

東大寺はお寺ですので仏具も多くあり、数珠を入れておくためと考えられる可愛い箱にも漆。


漆はコーティングの役割もあり、宝物を1000年以上ガードしてくれました。


そして今なお、漆黒の、赤色の輝きを放っているのです。

きらびやかな宝物本体はもちろん、言うまでもなく素晴らしいのですが、日本人が愛し、信頼し、ずっと塗ってきた漆こそ正倉院展の大きな見どころではないかなと思っています。





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忠内香織
奈良でガイドをしています。これからもっとあちこち回っておもしろいガイドを提供します。ご支援どうぞお願いいたします。