大病体験記 第2章「死という日常」07
入院生活も2週間ほど経過した頃、ようやく短期契約のポケットWi-Fiが届き、PCをネットに繋げられるようになった。
WEBサイトの検索、資料のダウンロード、動画コンテンツの視聴、SNSなど、Wi-Fiのない環境では利用しづらいサービスや、アクセスできないデータが多かったため、この時点でようやく彼の「調べもの」は可能になった。
まず、「脳内出血」「小脳血種」「脳卒中」等について調べてみる。
ううむ、、、再発のリスクがかなり高いようだ。
ダメージを受け、今回の出血を招いた脳動脈は、健全な状態に戻ることはないらしく、節制により更なる悪化を食い止め、再発を防止していかなければならないようだ。
左手先の動きや滑舌の不良は、どの程度改善するのだろ?
これは、ネットではわからなかった。
左手については、パソコンの操作は問題なさそうだが、彼の趣味であるギター演奏は、難しくなるかも知れない。
滑舌は、リハビリを受けた感じでは、「完全に元通り」というのは難しそうだ。ただ、既に日常会話に支障が出ないだろう程度には回復していた。
次に、お金の事。
職場に問い合わせ、協会けんぽの健康保険証が届く日付を確認。健康保険の発効日は7月1日で、「傷病手当金」や「高額医療費の自己負担限度額認定制度」というのは使えそうだ。
また、妻の友人が経営する保険代理店に連絡し、加入している医療保険の保険金支給申請も提出した。
入院費と7、8月の生活費は、大丈夫そうだ。
仕事について。
T園長と電話、LINEで連絡を取り、医師に職場復帰OKの判断をもらった時点で従前の業務に復帰できる許可をもらえた。
これで、退院後の勤務の不安も、解消だ。
まだ数度しか会っておらず、数日で病気離脱した厄介な部下である彼に、T園長はどこまでも優しかった。
さて、リハビリは順調に進み、8月上旬に妻とともに退院日を決めるS医師の面談を受けた。
コロナの影響で入院病棟に家族は入れなかったため、約1か月ぶりの妻との再会だ。
メッセンジャーで散々やり取りはしていたが、実際に言葉を交わし、状態を確認した妻は、だいぶ安心しているように見えた。
退院日は、概ね2週間後と決まった。
入院生活は、外界と隔絶されている。
8月の暑さ、湿気、アスファルトの匂い、全て院内では感じられない。
そんな体を慣らすためか、退院前1週間程度は、歩行訓練が外で行われた。
「外はこんなに暑いのか・・・」
公園に咲くひまわりの力強さとともに、彼は太陽の力を実感した。
側で見守るAさんも、相当汗ばんでいた。
次の日の朝、にわか雨が降ったのか、病院の窓の外に虹がかかった。
間近に迫る彼の退院を、祝ってくれているかのようだった。