見出し画像

[補助金全般]時間を買う

ども、ならなすおです。
今回、法人さん向けの情報になります。

私の記事では、中小企業が活用可能な補助金の情報を多く扱っていて、これからもどしどし上げていきたいんですが、本稿では、前提として「補助金というお金の性質」を説明しておきたいと思います。

私は長年、地方公務員として、補助金の制度を作ったり、ちゃんと使われたかを審査する検査官(「査官」と言います)をしたりしてきました。
以前一本その話を書きました。

で、最近、Xの運用を始めたんですが、「補助金」関連の記事を見ると、結構批判されている記事が多いのに驚きました
「これは、いっこ補足説明を書いとかないと」と思いました。

今回は、補助金というものの「基本思想」を説明し、ゆえに、「使う側が、どのような意識を持った方がいいのか」を明らかにしていきたいと思います。

いつもの、「小難しいうえに長いやつ」ですが、のんびりお付き合いください。
フィナンシェかラングドシャでも食べながら。

では、本編スタートです。

(1)原則「レッセ・フェール」

補助金、特に経済産業省の「産業振興策」「中小企業支援策」の根底にある原則は、「レッセ・フェール」(Let Free 自由放任)です。

何もしない、という事ですね。

「経済学の父」と呼ばれ、18世紀に活躍したアダム・スミス以来、「政府は、市場や企業にあんまり介入しない方がいい」と言われています。
市場には「ビルトイン・スタビライザー」(自動安定化装置)が内蔵されているので、政府が余計なことをしなくても、勝手にあるべき姿が実現する、という考え方です。

なので、経済産業省は、
「いや、これ、放任しとくとまずいやつでしょ」と考えた事案にのみ、補助金などの政策予算を発動します。

多くの場合、「時間をかければビルトイン・スタビライザーがうまい事やってくれるんだけど、そんな悠長に待ってらんないんだよねー」というタイミングで、政策は発動します。
つまり、「お金を使って、時間を早回しし、あるべき姿を実現する」という事です。

「震災復興」「コロナからの復活」「自然エネルギーの活用」など、事例は枚挙にいとまがありません。
いずれも、「人々のため、地球のために、時計を早く回したい」案件で、そのために政策予算を使ってるでしょ?

補助金もらったー
一枚だけ?
(AIで生成)


(2)時間を買う

皆さんの身近なところでも、「ネットで調べるのは時間がかかるから本を買う」とか、「ノウハウを早く学びたいからメンバーシップに入る」とか、時間をお金で買ってるケース、多いですよね?

補助金において、「時間をお金で買っている」ケースを具体的に見ていきましょう。
原則は、「補助金を使わなくても成功はするんだけど、補助金を使うと成功が早まること」です。

①早く対応しないとやばい

コロナ・ショックからの復活のために出てきた「事業復活支援金」「事業再構築補助金」は代表格ですね。
中小企業が頑張って復活を目指している間に、手持ちの資金がなくなって、倒産してしまう。
政策資金で「復興の所要時間」を早め、企業倒産と経済停滞を避けようとした例です。

最近の省人化系の補助金も、この類型です。
人手不足を早く解決しないと、会社がつぶれてしまう。
補助金を出して、「人手不足への対応時間を早める」ことで、倒産を防止し、経済・社会を維持しようとしています。


②経済成長を引っ張ってほしい

創業者向け、ベンチャー向けの補助金などが該当します。
彼らは、持ってる技術やアイデアを市場に出した際、一定期間「独占的利益の享受」という、ものすごく儲かる期間があります。
その期間に企業は大きく成長し、人を雇ったり、備品を買ったり、繁華街で接待したりできるようになります。
つまり、「地域の新しいエース企業」が出てくるわけです。
ベンチャー向けの補助金を受けることで、企業が製品を市場に出す時間が早まります
すると、「独占的利益の享受」期間が延びます。
場合によっては、他国より先に製品を出せたりするかもしれません。
経済の活性化や、国際競争力の向上が期待できるやつです。


③特定産業にテコ入れしたい

これは、「国際競争力」と関係しています。
日本が強みを持っていたり、強くしていかないといけなかったり、遅れをとると損失が大きいような重点産業は、政策資金を投入して、成長を早めます

例えば、半導体産業
世界的な半導体不足から、「自国の半導体産業をもっと強くしとかないとやばい」ということで、半導体産業振興に係る補助制度が色々できました。

例えば、グリーン産業
環境に配慮しないと世界の潮流に乗り遅れるので、補助金を出して企業の「グリーン対応」を早めようとしています。

時間を買う
時計だけど
(AIで生成)

(3)政府がお金を出す理由

ここで、もう一つ、原則的な話をしておきましょう。
なぜ、政府が、大切な税金を使って、補助金を出さないといけないんでしょうか?
成長するんなら、銀行がお金を出すのでは?
補助金の財源は税金なので、「なぜわざわざ公的資金を入れるのか?」という検討がなされます。

①民間が出さない

震災復興、コロナ復興、資金規模的に民間じゃどうしようもないですよね?
銀行もそんな大金は持ってない。
こういうのこそ、一番政府が頑張らないといけないやつです。

あとは、中小企業向け補助金。
政府は、100件、1,000件単位で支援するので、そのうちの何割かが成長してくれれば、元が取れます(政策として成功)。
一方、銀行が応援しているのは1社1社なので、そこが成長しなかったら(成功率100%でなければ)大損してしまいます。
貸付をためらっちゃいますよね?

補助金事業は、「成功率100%」というのはあり得ないので、資金をまとめて、国や地方公共団体が実施をすることで、「頑張ったけど失敗した」という事例を許容できます。

②あるべき姿に近付けたい

グリーン産業の実現とか、賃上げとかいうのは、政府が提示した「あるべき世の中の姿」です。
民間が自分のお金をたくさん出して、自らあるべき姿に近づく義理はないです。
なので、政府が、あるべき姿の早期実現に積極的に協力する企業に、補助金を出します

めっちゃ成長させたー
(AIで生成)


(4)未来の不確実性

補助金が「未来を買う行為」だとすれば、その未来に至るまでの「変化」は、予測を狂わせる因子です。
なので、補助金申請時に、「この会社は、どの程度しっかり未来を予想しているか」「約束したことを反故にするような会社でないか」を、計画書から読み取り、審査します。

以下、未来に起こりえる不確実な事象の種類と事前対応について、2種例示します。

①どうしようもないやつ

予想できない世界経済事象、天災などです。
これは、計画書にあらかじめ書いておくのは無理です。
・リーマンショック
・コロナ
・震災
などです。

②会社の責任

起きてしまった事に準備が足りていないのを、「それ、御社の準備不足では?」「対応がまずかったのでは?」といえるやつです。
・長期的な市場の縮小
・新たな競合製品出現
・味方だった同業者が急に敵に
などですかね。
この辺の未来予測をいかに緻密にやっておくかが、実際の事業の進捗にも影響しますし、審査サイドもそこを見ています


(5)申請書の書き方

「補助金で時間を買う」という性質を踏まえて、申請書の書き方を考えます。

①ある場合とない場合

補助金がなくても、時間をかければ成長するんだけど、補助金をもらったらこんなに早く、大きく成長する、という対比を書いてあげるといいと思います。
震災復興補助などの場合は、「頑張ってる間に資金がなくなる」旨も書いておきます。


②補助金の目的を大きく達成

申請する補助金が持っている政策目的(賃上げ、労働生産性向上、地域経済への波及など)を、大きく達成できる旨を書きます。
政府が企図する「あるべき姿」に、早期に近づける、という話です。


③未来の不確実性を読んでいる

市況分析、業界分析、社会分析などを十分書いて、「不確実な未来に備えているな」という印象を与えます。


④銀行が応援

「いい計画を作ったので、銀行も応援してくれると言ってます」というのが、とても強い加点項目になります(「金融機関確認書」的なやつです)。
「補助金がなくても成長はできるんだけど」という主張の強力な裏付けになるからです。

スピーディに仕事をする人
普通の仕事と見分けがつかん
(AIで生成)


(6)オマケ「検査に備える」

ちょっと脱線します。

補助金で最近増えてきている「事務局を外注する」ケースで、企業と事務局との認識のずれが大きくなり、事業実施後の検査などで問題が起きているようです。

これは、全業界を通じた「人手不足」と関連しているのでしょうが、せっかく補助金に採択されたら、すんなりお金をもらいたいですよね?

ここでは、そうした「検査に備える心づもり」を少し書いておきます。


①人手不足

昔、役所では、政策を作った人間が、募集から検査まで、自分で監督してやっていました。
私自身、そうやってました。
一番詳しい人間が、現場で制度を差配するため、大きな問題が生じづらかったです。

しかし現在、役所が人材不足に陥っています。
制度を作る作業(難しいことを慎重にやるので、「CPU労働」と呼びます。)をやった人間が、それを実施している現場(それほど難しくない作業を大量にやるので、「GPU労働」と呼びます。)にいないことが多いです。
外注しているからです。
外注先の担当者さんは、マニュアル以上の事は判断できないので、杓子定規なことしか言えません。
そして「嘘?」という判断をしてしまい、「変な減額」につながってしまいます。

補助金に限らず、最近色々な「GPU労働」の現場が、人手不足に起因して、荒れてきているのではないかと危惧しています。
制度を作った当事者や、長く担当してきたベテランなど、一部「CPU労働者」を現場に残しておいた方がいいです。
急に全部AIにやらせようとするとか、絶対やめた方がいいです。

制度運用は、現場に判断する人間がいないと、荒れます。

日本の国際競争力の源泉の一つが、GPU労働の「真面目さ」「丁寧さ」だと思っています。
それが失われているようで、気がかりです。


②じゃ、どうすれば?

「杓子定規に判断する外注先の担当者さんでも容易に判断しうるような使い道しか対象経費にしない」ということに尽きます。

本当は、現場ではグレーな運用がいっぱいあるので、事務局に判断して欲しいですが、判断する人がいないようなので、仕方ありません。

申請時に、「対象経費をすごくシンプルに作る」ことを意識しましょう。

「役所は、人手が足りなくなってもちゃんとやってくれるはずだ」という幻想は、残念ながら捨てましょう。

しょうがないです。
一昔前、私が担当だった15年前は、事務局を民間に外注するとか、ホントあり得ない話でしたから。

それぐらい日本の人手不足は、びっくりするほど急速に、深刻になってきています。

CPU労働とGPU労働
(AIで生成)


(7)おわりに

私、恥ずかしながら、「ど民間」になって以後(2024年4月以後)、補助金支援をしていません。
ですが、県庁勤務時、中小企業支援センター勤務時に、国補助金の申請支援などを、数えきれないほどやりました。

その際に気を付けていたのは、「カネメはシンプルに作る」「検査が楽なように作る」です。
そうして作っておいた方が、「交付決定後が楽」です。
公的機関の職員は、補助事業実施中のフォローアップというのができません。
だから、自分がガッツリ噛めなくても企業さんが自分でできるように、お金を使う段は極力カンタンに進められるように申請を作っていました。

今、事務局が外注され、担当者さんが高度な判断をしなくなっている時代ですから、より一層「カネメは初めからシンプルに作る」という意識が必要なのではないでしょうか?

だって、せっかく交付決定を受けたのに、補助金をもらえないとか、意味わかんないですよね?

本件、ご質問等、お気軽にお寄せください。
ただし、制度批判は、ご遠慮いたします。
(私に言われてもどうしようもないやつなんで)

今回も、ご覧いただき、ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!