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[ショートショート05]あて属

私の名はT。
何の変哲もない53歳男性サラリーマン。
妻のQは同い年。
息子1人がもうすぐ大学を卒業し、経済的に独立する。

ときに皆さん、「あてうま属性」をご存じだろうか?
長いので、「あて属」と略そう。

あて属は、心が傷ついた女性と、一時期だけ付き合うことができる。
ところが女性は、元気を取り戻し、あて属と別れて真の思い人の元へ帰っていく。
必ず。

あて属は、聞き上手だ。
包容力がある。
とても優しい。
顔は、残念ながら普通。
学業も。
キャリアも。

対照的なのが、「主役属性」の皆さんだ。
彼らは、人の話を聞かない。
自分の夢ばかり語り、周りに迷惑をかけることを全く悪びれない。
優しいと見せかけて、優柔不断なだけだ。
しかしながら、大いに容姿端麗だ。
才能にも満ちている。
洋々と陽の当たる人生を歩んでいる。

私は、典型的なあて属だ。
付き合った女性から、いつも、「ごめんなさい」と言われる。
そう思っているのなら、その会話を始めないでもらいたいと、思う。

いつも、「これ以上嘘はつけない」と言われる。
嘘は承知だ。
どうせならつき続けて欲しい。

私にとって不都合なこの「逆告白」は、常に「相手」もしくは「相手の本命」の都合でなされる。
こっちは、それにいつ心を突き刺されるかわからないため、常に心の準備をしておかなければならない。

中学生の恋愛

(AIで生成)


初めて私のあて属が発動したのは、「男女が付き合う」ということが流行り始める中学の頃だった。
憧れの同級女子Yが、イケメンの先輩に振られた。
2か月後、なぜか告白された。
とても幸せな「付き合う」を「疑似体験」できた。
そのまた2か月後、「逆告白」を受けた。
彼女は、既に別の彼女のいるロクデナシの先輩の背中を追いかけるけなげな少女となることを決意したらしい。

この時、感じた。

主役属性の連中から見ると、あて属は、都合がいいだけの道具なんだな。
あて属を切り捨てることは、自分たちのキラキラした人生から見れば些末な事なんだな。

 
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高校でも、1つ年下のZに告白された。
1か月程度、幸せな日々を送った。
しかし程なく、Zは、倦怠期だった元彼とよりを戻した。

付き合っている時期の気持ちの高鳴り、双方の思いやりは、おそらく本物なんだと思う。

だが、主役属性の女性たちにとって、あて属は「切りシロ」であり、本命の主役属性男子とのすったもんだを彩る体のいい経過措置に過ぎない。

私はその後しばらく、女性と付き合う事をためらった。
大学に入り、卒業し、就職してしばらく経つまで。

あて属として使われるのは、相手と親しくなった時に限定される。
主役属性は、相手があて属であることを見定めたうえで、近づいてくるのだ。


付き合う女性に男性の影

(AIで生成)


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しばし孤独な日々を過ごした私だったが、28歳で結婚した。
妻のQとは社会人テニスサークルで知り合い、交際1年での結婚だった。
私にはもったいない程、美しくて人に好かれる性格の妻だ。

妻は、私と付き合う前、大学の同級生のWと8年付き合っていたらしい。
日々のちょっとしたいさかいが積み重なり、別々の道を進むことにしたんだそうだ。
そんな話を妻からちらっと聞いただけで、私は、「終わった事」と、気に留めずにいた。

結婚した1年半後に、息子を授かった。
夫婦で子育てに励み、息子は保育園に通う歳になった。

息子が4歳になった頃から、妻は、「ママ友と食事する」と言って夜に外出することが増えた。
私は幸い、残業の続く仕事でもなかったため、息子とお留守番し、寝かしつけ、妻の帰りを待った。
妻は時々、帰りが0時を回ることがあった。

 
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結婚して15年程経った頃、出張のため職場から駅に向かっていた道すがら、妻を見かけた。
男性と親し気に話しながら歩いている。
声をかけようかと思ったが、躊躇ってしまった。

その夜、駅前で見かけた話を妻にしたところ、
「結婚前に働いていた職場の同僚と偶然会って話してたの」
とのことだった。
40代半ばにもなると、昔の知り合いと偶然出会う、などという体験がめっきり少なくなる。
妻は、私よりも友達の多い方だったので、「そんなこともあるんだな」と私は信じた。

 
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数か月後、私は一人で良く立ち寄る居酒屋で、その時の男性を見かけた。
何となく、妻の夫であることは隠しておきたくなって、素知らぬフリで話しかけてみる。
テニスという共通の話題が見つかり、その後話が弾んだ。
彼は、大学までテニスをしていたそうだが、ヒジを故障してしまい、引退したそうだ。
今は、スポーツは観戦中心で、バツイチの独り身、自由を満喫しているらしい。

少し酒が回り、若い頃の恋愛の話になった。
私には高校までの恋愛しか持ちネタがなかったが、何とか話を膨らませて披露した。
彼は、大学時代に大恋愛をしたそうだ。
結婚を考えた時期もあったが、付き合いが長かったせいですれ違いが多くなり、別れてしまったのだという。
相手の彼女は、その後別の男性と結婚。
彼も別の女性と結婚したが、彼女の事が忘れられず、別れてしまったそうだ。

彼と彼女には、秘密がある。
彼女が結婚した後、耐えられなくなって彼から連絡し、何度か密会して逢瀬を重ねたらしい。
それから程なくして、彼女の妊娠が判明した。
父親は彼女の夫という事になっているが、、、

妻の浮気
(AIで生成)


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それから10年、私は、妻に対する「逆告白返し」の計画を練った。

W氏からは、例の居酒屋で頻繁に会って情報を聞き出していた。
大学時代の彼女とは今もたまに会っている旨も。

私はサークル時代の知り合いのつてを辿って、「テニスに心得のある現在独身の40代女性」と会い、W氏好みの女性を見つけては彼に紹介した。
気楽な独身であるW氏は、数人と付き合っただろうか。
「現在付き合っている女性」と良好な関係が続くように仲介した。
主役属性の彼が「妻との元サヤ」を選択する可能性を減らした。


涙ながらに離婚を切り出す妻

(AIで生成)


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さて、もう息子も独立。
そろそろ頃合いだ。
妻から「逆告白」を受けるだろう。
あて属には、選択肢はない。
別れるの一択だ。
しかし、その後の主役属性の進路が順調な元サヤとなるかどうかは、実はわからないのだ。
自分勝手な人間の末路が幸福ばかりでは、面白くない。
ささやかな、いや遠大な、復讐だ。

主役属性に幸せをぶち壊されるなら、同じくぶち壊し返す。
あて属の私の醜悪な復讐を、息子にだけは悟られないように努めた。

息子は、どちらの属性だろうか?
私に似ず、幸いにも母に似た容姿端麗な息子は。

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