[補助金申請虎の巻09]賃上げ・労働生産性
ども、ならなすおです。
このシリーズは、2025年の年明け以降に出てくる、経済産業省系の各種補助金へのエントリーを目指す中小企業さん向けに書いています。
今回は、補助金申請の主要要件となった「賃上げ」「労働生産性」を解説していきたいと思います。
ここ数年、最低賃金の引上げ幅がとても大きくなっています。
日本は、「他の先進国と比べて賃金水準が低い」「賃金の上がり幅が低い」状況です。
こうした状況を打開するため、政府が企業に積極的に賃上げを促している、という面があります。
また、労働生産性(ざっくり言うと、一定労働時間当たりに従業員が生み出した付加価値)も、日本は世界と比べて低水準にあります。
日本はこれから人口が減り、労働者の数が減ります。
これまでと同じ生産水準(GDP)を維持していくためには、労働生産性が上がっていかなければなりません。
昔は、補助金を取得して成長を目指す企業に求められたのは、「雇用の拡大」でした。
失業率を減らすことが、政府の目標だったためです。
しかし現在、その目標は「賃上げ」「労働生産性の向上」に変わりました。
これ自体は、時代の流れで、しょうがないです。
でも、中小企業の現場からすると、いきなり「賃金を上げろ」とか「労働生産性を上げろ」と言われても、大いに困っちゃうと思います。
本稿では、「補助金を使った成長基調への移行」を前提に、中小企業さんが賃上げや労働生産性の向上を果たしていく、という文脈で話をします。
代表的な補助制度の一つである「ものづくり補助金」(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業)の「第18次締切分公募要領」に記載された賃上げ要件、労働生産性向上要件を例にとって説明していきます。
お付き合いただければ幸いです。
それでは、本編、始めていきます。
(1)賃上げ
第18次ものづくり補助金(「もの補助」と略します。)では、賃上げ要件は以下のようなものでした。
[賃上要件①]
事業計画期間において、給与支給総額を年平均成長率1.5%以上増加させること。
給与支給総額というのは、「全従業員(非常勤を含む)及び役員に支払った給与等(給料、賃金、賞与及び役員報酬等は含み、福利厚生費、法定福利費や退職金は除く)」の事です。
「年平均」というのが出てきましたね。
前に扱ったエクセルファイルで計算してみましょう。
5年計画だと、基準年比で7.8%ぐらい給与支給総額を上げていかないといけないようです。
賃上げ要件にはもう1つあり、「従業員全員の給料がまんべんなく高い」必要があります。
[賃上要件②]
事業計画期間において、事業場内最低賃金(補助事業を実施する事業場内で最も低い賃金)を、毎年、地域別最低賃金プラス30円以上の水準とすること。
この2つの目標を達成するためには、「給料を増額できるぐらい営業利益を稼ぎ出す事業計画」が必要です。
(2)労働生産性の向上
第18次締切の「もの補助」には、「省力化枠」という枠があって、人手不足を補う設備投資を補助する、という枠でした。
そこに出てきたのが、「労働生産性向上要件」です。
①労働生産性を向上させる件
以下は、もの補助省力化枠の労働生産性向上要件です。
[労働生産性向上要件]
3~5年の事業計画期間内に、補助事業において、設備投資前と比較して労働生産性が 2倍以上となる事業計画を策定すること。
労働生産性の計算式は、
付加価値額 ÷ (労働人数 × 労働時間)
です。
ここでミソなのは、「補助事業において」という言葉です。
設備投資する、そこの場所だけなんですね。
例えば、2人が目視検査をしている製品チェックの現場。
カメラ検査システムを1台入れて、検査員を1人別の業務に回すとします。
付加価値(営業利益+人件費+減価償却費)、、、
うーん、全社の数字ならわかるんだけど、その場所だけってのはわからんなー、、、
OK。
「付加価値の算出が困難な場合は生産量」でいいそうです。
生産量が24,000パック、従事時間が1,200時間/人だとすると、
(Before)
24,000 ÷ (2 × 1,200) = 10
(After)
24,000 ÷ (1 × 1,200) = 20
ちょうど2倍になりました。
②期間内に投資を回収する件
もの補助には、もう一つ、「事業計画期間内に投資を回収できること」という要件があります。
削減できた人件費(5年分)が投資額を上回らないといけないです。
例えば、削減した従業員の時給が1,200円だったとすると、
削減人件費 = 1,200円 × 1,200時間 × 5年 = 7,200,000円
このケースだと、カメラ検査システムへの設備投資額が、720万円以下である必要があります。
③それでも賃上要件は満たす件
検査ラインから離れた従業員さんは、別の仕事で活躍してもらいます。
クビにはできません。
人が減ると、給与支給総額が減るからです。
ここが難しい所です。
ベテランさんが定年で辞めるから省人化を急ぎたい、という企業さん、多いと思いますが、人が辞めてしまうケースでは、給与支給総額が減るため、賃上要件を満たせなくなってしまいます。
「人を辞めさせず(若しくは代わりの人を雇い)、設備投資を行い、余った人員が別の仕事をしてお金を稼ぎ、営業利益を増やす。」
こんな事業計画を作る必要がある訳ですね。
割と大変でしょ?
(3)おわりに
賃上げ要件は、従業員が多い製造工場のような現場ほど、達成が難しくなってくるかと思います。
給与支給総額も、最低賃金も、ダイレクトに関係してくる企業さん、少なくないですよね。
「実現可能な事業計画で、賃上げ要件を達成できるか?」
ここが、検討のしどころです。
「無理無理」という企業さんも、ここは、いずれ超えないといけない壁です。
人が減り、現場はどんどん回らなくなります。
求人の需要は日本中で高まるので、人件費はおそらく上がり続けます。
どこかで設備投資、経営革新をして、労働生産性を上げ、賃金を上げないといけなくなります。
深刻に定年退職が増える前に、手を打ちましょう。
おそらく、チャンスは、今です。
是非、弊社に手伝わせてください。
[合同会社それがし]
今回も、ご覧いただき、ありがとうございました。