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大病体験記 第2章「死という日常」05

ども、ならなすおです。
最近、大病体験記ばかりで申し訳ないです。

「もっと明るいネタとかタメになるネタ出せぃ!」という方が多いと思いますが、大病体験記、今書いてる部分は一気に書ききらないといけなかったので、このお話まではダダっと行かせてください。

本話は、手術中の朦朧とした中の記憶なので、かなりわかりづらいと思いますが、ご容赦ください。

ちなみに、プロットから全部、「大病体験記」というマガジン(無料)を作って入れております。
全部1,000字程度でサクッと読めますので、気に入っていただけましたら他のお話も読んでください。

では、本編、いきます。

ここから本編


 頭の中に、何度かフラッシュバックが訪れた。
 画面のコマが4~5枠に分かれており、そのうちの1つが自分の意識野であるように思われた。
 各コマとも明滅している。
 おそらく、手術で脳に触れられているためにそうした感覚が起こったのだろう。

 カラフルなコマが複数。
 単純なボードのようでもあり、現象を伴っているようでもあった。
 真ピンク、真青、真黄色、など。
 黄色いコマに自分の価値が500万と表示されているような気がした。
 なぜ500万だったのか?
 その頃、そんな数値に拘泥していたか?
 「それは自分の価値なのかもしれない」。
 その時彼はぼんやりとそんなイメージを抱いていた。

 「死の間際、人は白い光を見る」という人がいる。
 彼が見た光がそれに近かったのかどうかは、分からない。
 脳に刺激を受けた影響だと思われる、原色のフラッシュバックは確かに体験した。
 そして、ごくわずかの間だが、彼の生を彩った思い出たちにも、出会えたのかも知れない。
 「あぁ、だから、やっぱり、怖くない、、、」
 その感覚が彼を導くことは、なかった。
 彼は、生還したのだから。

 その後程なくして、彼は鈍重な知覚を得た。
 おそらく、意識が戻ったのだろう。
 意識だけは。
 まだ、自分の頭部の存在、胴体や四肢の存在を確信することができずにいた。
「攻殻機動隊」というアニメに「ジェイムスン型」という意識だけを箱型の物体に定着させた奇妙なキャラクターが登場するが、それと似たような感覚だったと思う。
 彼は自分の意識が肉体を離れ、他の無生物とつながっていると知らされても、その時はすんなり受け入れることができただろう。

 ふと、誰かの唸り声が聞こえた。
 どうやら彼は、複数人が収容された集中治療室のような場所にいるらしい。
 まだ、目を開けることはできなかったが、自分が病院で意識を取り戻したらしいことは理解した。
 しかし、彼の意識が依り代にしている、おそらく頭部と呼ぶべき物は、鈍い痛みに支配されており、到底動かせそうになかった。

 その後、彼は徐々に、痛みとともに、体の存在を確認するに至る。
 どうやら、彼の肉体を無生物化する試みがなされた形跡はないようだ。
 鈍痛の先に知覚した自分には胴体があり、腕があり、足があり、後頭部から管は引かれていなかった。

 体勢を変えられないせいか、背中が痛い。
 むずむずしていると、看護師が、彼の覚醒に気づいた。
 彼女に背中が痛いことを告げると、クッションを入れ、唸り声の聞こえない個室へとベッドを移動してくれた。

 手術は無事に終わったらしい。
 しかしながら、とにかく、あちこち痛い。
 頭はまだ動かせそうになく、寝返りもいつになったら打てることやら、、、

「生きるというのは、痛みを伴う、鈍重な事なんだなぁ」
 そんなことを考えながら、彼は痛みの忘却を願い、今度は死出の旅ではない眠りに落ちた。


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