大病体験記 第4章「そこに在る」05
愛する人を、思う。
友人たち。
数少ない、彼の友人。
中学、高校、大学、社会人。
それぞれの大切な時期を共にして来た、かけがえのない仲間。
互いに妻子を持つとともに、徐々に疎遠になり、たまにしか会えない関係になっていく。
彼らとは、現在一緒にいないので、考えを同じくしているということは、ないのだろう。
依存している関係でも、ない。
だが、たまに会って近況を報告し合う関係は、互いの貴重な「定点観測者」だ。
太った、痩せた、禿げた、といった外見だけでなく、心の在り様も。
語り合いながら、成長を、円熟を、幸福を垣間見る。
これからも会える時間を精いっぱい大切にしていきたいと、思う。
子どもたち。
彼と妻のもとに生まれてくれた、かけがえのない存在。
息子と娘に、できる限りの事をしてあげたいと、願い続ける。
嬉しい事、楽しい事、美味しいもの、美しい景色。
彼らは独立し、それぞれの人生を歩む。
息子とはもうたまにしか会えない。娘も早晩そうなるだろう。
寂しいが、それぞれの人生だ。
精いっぱい、充実した生を謳歌してほしい。
そして、ごくたまにでいい。
元気な姿を、見せて欲しい。
そして、妻。
二人で分かち合った、夫婦のやり方。
お互いが自己実現を図り、相手のそれを尊重し、可能な限り妥協の小さい合意を積み重ねながら共に生きていく。
妻は常に、彼の自己実現を尊重した。
だが、妻の心を思えば、、、
彼女は、単身赴任を告げられた際、どんな気持ちで、「一緒にいたいよ」という言葉を飲み込んだだろう?
彼が発病し、
病院に向かう車で、
検査結果を聞いた病院で、
手術同意書にサインするためF県に向かう車中で、
手術を待つ間、
彼に会って回復を見届けるまでの間、
彼女は、どんなに不安な気持ちを押し殺して、彼を支え続けただろう?
どんな気持ちで、自分の乳房再検査の不安を、彼に告げずに夜を明かしただろう?
愛とは?
それは多分、彼らにとっては、
主役である相手を、同じく主役である自分が最大限に讃え、願い、共にする心。
双方の、双方が是認した、双方を対象とした自己満足の充足。
もの書きならば、もっときれいな言葉を選ぶのだろう。
だが今は、この朴訥な字面を、心に刻みたい。
彼はこの言葉を、アーカイブしたかった。
「どちらかに専ら我慢を強いるような真似は、お互いにしない。」
この夫婦関係は、これからも続くだろう。
「妻のそれが我慢でなかったのなら、同じく我慢でない自分の気持ちを表現していきたい。」
彼は「自分らしさ」が妻の幸せに少しでもつながることを、願い続けるだろう。