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大病体験記 第2章「死という日常」03

 7月3日、日曜日。
 カラッとしてはいなかったが、晴れていたと思う。
 保育園に入職して初めての休日。
 本来なら、のんびり洗濯をし、Wi-Fi使用のための光回線の工事をしてもらう予定の日だった。

 目覚めたのは6:30頃だっただろうか。
 前日来の強烈な目まいは、残念ながら消えていなかった。
 これはもう、一過性の症状とは考えにくい。明らかな平衡感覚異常だと思った。
「脳だな、、、」
と自己診断せざるを得ない事態。
 すぐにでも救急車を呼ばなければならない所だったが、彼は妻の携帯を鳴らした。
 体の異状を伝え、「病院に行きたいから、すぐに来て欲しい」と伝えると、幸い娘の習い事がなかったようで、来てもらえることになった。

 自宅アパートから単身赴任先まで車で2時間半程度。
 妻に往復を強いるのは申し訳ないと思ったが、一人で準備を整えて救急車に乗り込む勇気は彼にはなかった。

 目まいとそれに伴う嘔吐感にさいなまれならも何とか2時間半やり過ごし、妻が到着。脳外科のある近隣の病院の検索と、「日曜日だが緊急なので受け入れてほしい」旨の電話折衝をお願いした。
 コロナで病院に入ること自体が困難な中、本当に幸運にも、その病院は受け入れてくれた。

 フラフラしながらやっとのことで車に乗り込み、病院に運んでもらう。
 病院到着後、歩くことはままならなかったので、車椅子を借りた。

 病院では、それほど長く待たされずに頭部CT、MRI検査を先に受け、それを元に主治医となるS医師の診断を夫婦で聞く。

「小脳に、大きなかたまりがあります。
 検査の結果、腫瘍ではなく、血腫のようです。
 血腫の位置が脳幹に近いので、できるだけ早く取り除かないと危ないです。
 すぐ入院してください。
 日程を調整して、なるべく早く、手術します。」

「いや待て、展開、急過ぎるだろ、、、、、」
入院の手続を待つ間、彼は心の整理がつかないまま、病院の椅子に座り、妻の手を握りしめていた。
手術が間に合わなかったら、俺は死ぬのか、、、?
これだけ目が回っているのだから、なるほど、死ぬのかも知れない、、、

「何か思ったより大変なことになっちゃった、、、ごめん、、、」
妻に詫びた。
「とりあえず、無事に手術を乗り切る事だけ考えよう。」
励ましてくれる妻。

余計なことは考えたくなかったが、最低限、T園長にだけは連絡しておかなければならない。
状況を簡単に記し、今後の連絡は妻あてにお願いしたい旨を依頼するLINEを打つ。

程なくして、入院病棟に誘う看護師が到着し、見送る妻を背にした。

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