[ショートショート08]大災害
その日、日本の主要企業のサーバーがハッキングされ、ほぼすべての顔認証、指紋認証などの生体認証システムが使用不能になった。
人々は、スマートデバイスのロックを解除できなくなった、、、
電話も掛けられない。
メールもメッセージも打てない。
SNSにも入れない。
日本は、大混乱に陥った。
次に発生した問題は、移動だ。
交通系カードをスマホに一本化している人々は、電車に乗れなくなった。
「硬貨で乗車券を買えばいいのでは?」
否。
近未来の日本では、住民が硬貨を持ち歩く割合は、10%を下回っていた。
そして、一度家の外に出た人は、エントランスを通過することができなくなり、帰宅できなくなってしまった。
コンビニ等の小売店は、電子決済が行えず、ものを買えない人で溢れた。
家に帰れない。
移動できない。
買物もできない。
そして知人に連絡できない。
事ここに至り、人々は、事態の深刻さを悟る。
異常発生から3時間を経ずして、街のいたるところで略奪が横行した。
この日、国民の3割以上が窃盗犯となり、後日逮捕された。
そうしなかった人々の一定割合は、もっと深刻な事態に陥った。
脱水症状、飢餓、ショック状態。
車に避難した人を襲った、エコノミークラス症候群。
トイレを我慢したことによる、腸炎、腎臓病の激増。
寒さ。
孤独。
恐怖。
地震が起きなくても、
津波が襲わなくても、
大雨に見舞われなくても、
人間社会は、たやすくパニックに陥る。
少なくとも一部の企業は、その人災を「助長する者」ではなく「引き起こす者」になり得る。
権力は、分散させるに超したことはない。
だが、分散させると、紛争が生じる。
その紛争の発展形である戦争は、先述の大混乱より更に不合理な世界だ。
どっちに転んでも、未来はバラ色ではなさそうだ。
人災という大災害に備えない限り。
(了)
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