中小企業向け補助金を、制度を作ってた側からお話しします。
そろそろ、補助金花盛りのシーズンがやってきますね。
中小企業診断士の私も、書き入れ時。
会社を作って、ネットからの受注を増やしたいので、仕事依頼ページを早急に作らないと。
さて、中小企業さん向けの経産省系の補助金ですが、「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」「IT導入補助金」などが定番ですね。「事業再構築補助金の後継事業」も注目です。
今回は、個別補助金の説明の前に、公務員として補助制度を作ってきた経験を持つ私に見えている「補助金のリアル」「審査側の気持ち」などについて、話していきたいと思います。
(1)制度設計
補助金公募要領って、わかりづらくて仕方ありませんよね?
なんであんな難しいんでしょ?
政策担当者さんも、ホントは簡単で、シンプルな制度が作りたいはず。
難しくなってしまう理由は、↓です。
①補助条件
全ての企業さんに一律でホイッとお金を出せたら、最高ですよね。楽だし。
でも、県も国もそんな余裕資金はないですし、困っていない企業さんにもお金が渡ってしまいます。
補助金の各制度には、「こういう事に困っている企業さんの、こういう使途の経費を、いくらまでサポートします。」という基本思想があります。
それに加えて、「その経費は企業自身が捻出するのは困難で、金融などの民間ビジネスによっても解決できないので、公的資金を入れざるを得ないです。」という理論武装がなされます。
そうしないと、県民(国民)の代表である議会(国会)の承認は得られませんし、県民(国民)にも説明できません。
こうしたプロセスを経て、各政策は細かく、難解になってしまいます。
②補助率
昔気質の政策屋だった私の感覚では、補助金の補助率のベースは、1/3です。
投資原資の少ない中小企業さんは、残りの2/3を自己負担する余裕がないかもしれません。そんな事情がある時、補助率は1/2に上がります。
さらに、もっと原資の少ない小規模事業者さんや、投資を改修しづらい「研究開発段階」の経費、コロナ禍のような外的要因による業況の悪化など、余程の事情がある時、補助率は2/3に上がります。
現在では、補助率1/2スタートの制度が結構多いですが、「えー、2/3じゃないの?」と落胆されるのではなく、「1/2でもラッキー」と思っていただけると嬉しいです。
補助率2/3の制度を作って財政当局と議会の理解を得るのは、本当に大変です。
(2)成果を出さないと
中小企業さん向けの補助金には、「中小企業を成長に導き、地域を潤し、雇用を増やす」といった大目標があります。
当然ですが、その目標の達成に向け、事業が想定していた効果をあげたか、後年検証されます。
①採択されやすい案件
申請のあった事業計画は、どれが「成果が出る可能性が高い案件」かを審査、順位付けし、上から採択されます。
つまり、「計画通りに進められそうな案件」「作ったものが売れそうな案件」「人を雇ったり賃金を上げられそうな案件」「途中で倒産したりしなさそうな案件」などが採択されやすいです。
ならば、創業したばかりで実績のない企業や、頑張っているけど借入が多くて資金的に苦しんでいる企業は、採択されないのでしょうか?
そんなことはありません。
どんな計画にも、プラスポイントとマイナスポイントがあります。
マイナス面を補うプラスが多ければ、採択される可能性は、大いにあるはずです。
②採択後もいろいろ聞かれる件
「事業終了年度の翌年度から5年間、報告義務があります」とか言われると、「めんどくさいな」と思われるでしょう。
しかし、補助金は、地域活性化という大目標を達成するために、つまり成果を出すために支出されるものです。
成果をモニタリングされるのは、申し訳ないですが、当たり前です。
笑顔で協力して差し上げてください。
(3)私がサポートする計画
私は、補助制度を作ってきた立場での経験を活かして、補助事業計画作成サポートを実施しています。
用いている視点をいくつかご紹介します。
①審査項目から逆算して作る
ほとんどの補助制度で、「審査項目」が公表されています。
それを見て、私は、審査委員に配られる「採点表」をイメージします。
審査委員さんがその採点表に記入する点数が高ければ、「採択」される可能性は上がります。
つまり、事業計画は、採点表に点数を書き込みやすいように、作るべきです。
目次、構成などを工夫して作ることで、審査委員にとって採点しやすい、高得点を付けやすい計画に仕上げることが可能です。
②見やすく、簡潔に
審査委員さんは、似たような申請を何件も見ながら、採点しています。
つまり、疲れています。
そんなところに、難解な文字ばかりの計画書を見せられたら、どんな採点になるか、想像に難くないと思います。
また、審査委員さんは、優秀な経営コンサルタントさんが多いのかもしれませんが、各企業さんの分野、製品、サービスの事はほとんど知らない素人さんである可能性が高いです。
「疲れている素人さん」を短時間で納得させ、「ほう!」と感心してもらい、彼らの本業である「実現性分析」「成長性分析」などをしたくなるマインドになってもらえるような計画書を心がけます。
③課題をしっかり見据えて
企業には、「借入が多い」「人が足りない」「赤字続きだ」など、課題があると思います。
そういう課題は、計画書に正直に書いちゃいましょう。
そして、それらの課題への対処法と、その対処に申請事業が役立つことも、併せて書きましょう。
事業計画は、バラ色過ぎると、印象として怪しくなります。「分析不足」と映ることもあります。
「ちゃんと分析して、いけると判断しました」という説明が、うまいやり方だと思います。
以上、少し長くなってしまい、申し訳ありませんでした。
様々な補助制度が細かく設計されるのは、「必要な企業さんが、できるだけ多く制度を活用できるようにするための、政策担当者の精一杯の工夫」です。
もちろん、ご不満をお持ちの方が多いと思います。
なかなか完璧な制度というのはありませんが、私は、いろいろな補助制度の公募要領を拝見し、そこに担当者さんの工夫と努力を垣間見ています。
中小企業の現場にも、役所の政策立案の現場にも、支援機関の政策実践の現場にも、敬意を表します。