リリースの19年後に完結した歌、「I wish」
歌に泣かされたこと、ありますか。さっきまで平気だったはずなのに。なんだか聴いているうちに涙が溢れている。自分も気付かないほどに深く埋もれてしまった切なさ、悲しさ、愛しさを優しく掬いあげて流してくれる歌がありますか。
歌詞だけでもいいんだけど、そこに曲、歌い手が加わることで格段に意味を増す。何を置いてもいちばんは、歌と歌い手の今までの人生や背景がリンクして、ひとつの物語となってこちらに問いかけてくる瞬間。
歌い手の背景を知る、それとリンクする曲を見つける、歌い手の姿に人生を重ねる。自力で発掘するところから始めるとなかなか骨の折れる作業ですが、ボヘミアンラプソディは2時間観ているだけでこの体験を提供してくれます。だからあんなに共感を呼んで、ヒットしたんじゃないかと今思いました。
話がそれましたが、モーニング娘。の「I wish」こそが私をいちばん泣かせる曲。リリースは2000年ですが、この曲は昨年に至るまでの実に19年をかけてやっと完結したドラマだと私は思っているので、そのお話を聞いてほしいです。
本当にまっすぐにすっと心に沁みこむ名曲。綺麗な言葉と綺麗なメロディーで彩られた美しい歌なんですが、ただの綺麗事では済ませない気迫を感じます。
歌いだしは加護ちゃんのソロから。加護ちゃん、可愛すぎる!!!!!!
当時12歳。大人っぽいな~~。世間的には辻ちゃんとセットのおこちゃまキャラのイメージが強いと思うんだけど、オーディション時点での話し方は別人みたいに大人っぽいんです。12歳時点で、加護ちゃんは周りの事情を察する能力が必要以上に身についてしまっていたのかな。身につけざるを得なかったのかな。だから、根っから天真爛漫の辻ちゃんに合わせて双子として違和感なく売り出せたと思う(とか言うが、あのコンビの絆は昔も今も大好き)。
そして肝心な歌詞。非常にストレートながら唯一無二、やっぱりつんく♂さんはすごい。まずはサビ。
人生ってすばらしい ほら誰かと
出会ったり 恋をしてみたり
Ah すばらしい ah 夢中で
笑ったり泣いたりできる
書いているだけで泣けてきました。「人生ってすばらしい」こう言い切るのっていつの時代も誰にとっても難しいです。「人生ってすばらしい」と満点の笑顔で歌う彼女たちも、もしかしたら帰ってからひとりで泣いているかもしれない。でもそんな悲しさもひっくるめて、素晴らしいんだと自分に言い聞かせているようないじらしさを感じます。この曲でつんく♂さんがいちばん歌わせたかったのはここなんじゃないかと思う。そこから続く「ほら誰かと~」は聴き手へのメッセージであると同時に、つんく♂さんから娘。へのメッセージのようにもとれる。「人生ってすばらしい」と言ってもやっぱり不安になっちゃう彼女たちへ、「誰かと出会ったり恋したりできるやんこれからやで~!(関西弁)」と励ますつんく♂さんの声が聞こえてきます。
晴れの日があるから そのうち雨も降る
全ていつか納得できるさ!
「やまない雨はない」など雨から晴れへの描写は多いですが、晴れから雨への描写は珍しくないですか?サビで「人生ってすばらしい」なんてピカピカのワードを放った後にこれです。しかも「うまくいく」「解決する」ではなく「納得できる」です。所詮雨は雨。しっかり傷となり残ります。でもそれも全部ひっくるめて笑える時が来るからね、と言ってくれています。手放しで人生ってすばらしいなんて言える訳ないことを、ちゃんと理解してくれている暖かさよ。
そして最後は再び加護ちゃん→ゴマキのソロで終わります。4期加入後、加護ちゃんが初めて大きく押し出された歌。かわいい~~~~!!!無事完結。
の、はずだったのですが
これだけならI wishは4分ちょっとのお話で終わっていたのですが、19年にも及ぶドラマが幕を開けてしまいます。
リリースから4年、2004年に加護辻が同時にモーニング娘。を卒業します。卒業セレモニーの曲に彼女たちはI wishを選びました。ふたりにとって特別な歌だったんだな。
それから順調にダブルユーとしてふたりで活動を続けていくかと思った矢先、加護ちゃんがフライデーに載ります。未成年喫煙。1回目は謹慎で済み復帰の道も残されていたのですが、翌年再び撮られ解雇。ここからおよそ10年間、芸能活動停止と再開、事務所移籍を繰り返します。その裏では交際相手の逮捕、自殺未遂、離婚。そんな中でもある時は競艇場で、ある時は深夜番組で、加護ちゃんはひとりでI wishを歌っていました。昔と変わらず上手だったので、ずっと歌うトレーニングを続けていたんだと思います。
加護ちゃんの話題には触れるなと事務所からお達しがあったのか、娘。OGのSNSには全く加護ちゃんが登場せず。加護ちゃんと娘。が交わることはもう一生ないのかなと思っていたところ、2017年ぐらいかな?辻ちゃんと加護ちゃんがSNSでお互いの名前を出すようになりました。もしかしたらまた加護ちゃんが娘。と一緒に笑えるかもしれない。
そして2018年、ついにハロプロコンサートへのゲスト出演を果たします。しかし当時辻ちゃんが産休中だったため、共演は叶いませんでした。
翌年、2019年。ハロプロのコンサートにてダブルユーが復活しました。数曲歌ったのち、最後にダブルユーと現役娘。メンバーで歌った曲がI wish。
一度は懲戒解雇になりながらもひとりで歌い続けた加護ちゃんが、ハロプロのコンサートで、辻ちゃんと現役メンバーと一緒にI wishを歌う意味。
誰よりも私が私を知ってるから
誰よりも信じてあげなくちゃ!
誰かと話しするの 怖い日もある yeah
でも勇気をもって話すわ 私のこと
つんく♂さんは全部わかっていてこの曲を19年も前に作ったのかな?と思うほど。数えきれないほどの「雨の日」を過ごして、全部飲み込んで納得して、ステージに立った加護ちゃんが「人生って素晴らしい」と笑ってくれることが本当にありがたかった。このたった数秒だけで、今までの悲しさもこの先の辛さもいつかは自分の中で消化して笑っていけるんだと、これからの人生への勇気をもらった。
当日、ふたりの衣装にはうさぎのワッペンがついていたのですが、これは現役時代のミニモニの衣装からスタイリストさんが切り取って、この日までずっとずっと大切に保管していたものだったとか。大きな声では言えなかったけれど、本当に多くの人がこの日を待ち望んでいたのだなあ。
こうやってI wishの長いお話は一旦完結しました。でもこの先生きていると、この曲を思い出しては何とかやって行かないといけない時が何回も来るんだろうなあ。でもそんな時も「人生ってすばらしい」と誰かに向けて、誰かと一緒に笑えますように。いやきっと笑えるはず、大丈夫。そんな愛と希望のうた、I wishでした。