カジラレタ兎の耳はドコニイッタ?①

朝、米澤からラインがきていたみたいだ。
 俺、4月から転勤なんやけど。

けど、なんだよ。続きはあるのかと思ったけどありそうもなかった。06:30に来たラインで、今は昼過ぎだ。
既読スルーでもいいけど米澤は優しい男の知り合いだからしのびなくなり

 そうなんだー、どこに?

と返してみた。既読がついたと思った瞬間。
 関西支社。

と返ってきた。

 よかったじゃん、帰りたがってたもんね!

と返してみた。今度は既読がつかない。休憩もあってないような仕事をしているわたしは、米澤のラインの画面から、他の滞ってる連絡へとタップで順番に返していく。
大概が、飲み会、それも仕事がらみの、である。

わたしは、あまり大きくない会社で拾ってみつけたような肩書きをもって働いている、今年で30になる女だ。

苗字はまだ変わらない。結婚願望がないわけではないが、
仕事が嫌いでもない。男が好きだが、仕事も好きだ。
そんな日々を比較的、真面目に生きていたら、小さくても責任のあるプロジェクトを任され、時々男の人から誘われ、気づいたら30になっていた。

出身が地方だからか、結婚してる友達が周りには多く、みんなわたしを心配している。純粋に働きすぎだろうというからだの配慮から始まり、おそらく自分が生きるはずだったもう一つの人生への嫉妬がこもった詮索や、いまの自分の選択が誤りでないことを証明したい自尊心などで、わたしへの心配は示されている、と思う。

腕時計をみて、現場から席を立って20分経過してることを確かめる。

今日のランチはクリスピードーナッツと、オロナミンC。

体にいいものとらないと、とは思うが、体にいいものと心が求めてるもののアンマッチに他人がどう対処してるのか、わたしは知らないのだ。

いつも、心を優先してしまう。

ジャケットのポケットにいれたアンドロイドが振動して取り出してみる。

会えたら会おうよ、東京出る前に。

米澤だった。
会えたら、か。東京出る前に、か。

米澤と会うことのメリットとデメリットをなんとなく考えて
そーだね、会おうかと返す。

米澤とは一度だけ、弾みで寝たことがあったけど、
一度だけだ。次の日からしつこく米澤から連絡が来たが、わたしは付き合うつもりはなかったのでスルーした。

下りのエレベーターに乗りながら思った。

いつからか知らないが、わたしは人の好意を予め分析してから受け止める、そして、それをルーチーンにしている、と。

 よかった、どこにいきたい?

米澤のラインってなんか無機質だな、とか思いながらわたしはアンドロイドをゆっくりジャケットのポケットに閉まった。

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