![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45766297/rectangle_large_type_2_3e2a08bbfba38affba74ae2a3163ad92.jpeg?width=1200)
妖婦3姉妹、淫靡なる小料理屋の世界
酒食を供する店に「小料理屋」というジャンルがあります。辞書によれば「簡単な料理と酒とを供する和風の飲食店」のことを小料理屋と呼ぶようですが、明確な定義はありません。
ざっくり言うと、居酒屋よりちょっと良さげで、割烹よりお手軽な、お酒が飲めて食事も楽しめる小さな店……という感じでしょうか。「居酒屋」よりも「小料理屋」の方が食事がおいしくて、美人女将がいたりしそうな雰囲気があります。
小料理屋の看板娘3姉妹が秘していたおそるべき内実
大人のお楽しみをそこはかとなく感じさせる小料理屋ですが、明治40年(1907年)8月8日付の読売新聞にヘンテコな記事がありました。見出しは「3人姉妹妖婦の素性」です。
赤坂に先ごろ開店した小料理屋があり、両親と3人姉妹で営まれていた……というところから記事は始まります。長女(30)、次女(22)、三女(18)の3人娘はいずれも美人の誉れ高く、「姉は奥様風に妹は束髪の令嬢風に」装って、「小料理屋の娘とは誰が眼にも見えざる程」だったといいます。
しかし美しいものの裏側にはえてしてどす黒い闇が隠れているもの。記事は「近所の評判いと高ければ必然魔物に疑いなしとその素性を探って」みたと伝えます。恐らく記者が探索したのでしょう。
果たしてこの3姉妹、いずれも内縁の夫あるいは情夫がことごとくスリの前科者だったというのです。
知らぬが仏の鼻下長連
記事によれば、姉はこれまで12人の前科者を夫となし、妹は同じく10人の情夫があって「其(その)悪銭の仕送りにて不義の栄華を貪るもの」とされています。
そんなことは客は知りませんから、3姉妹見たさで店は連日大盛況だったとのこと。記事は「知らぬが仏の鼻下長連は夜となく日となく通い来る」と記しています。
鼻の下を伸ばしているということだと思いますが、「鼻下長連」などという4字熟語は初めて見ました。意味するところは漢字の並びを見ればわかりますね。古新聞を読むといろいろ使えない豆知識を拾うことができます。
ところで三女はどこへ行った?
最初に「ヘンテコな記事」と書きましたが、この記事は小料理屋の3姉妹について書き出しているのに、具体性を持って登場するのは長女と次女だけなのです。
3姉妹ともスリの情夫がいる、と書きながら、三女の相手方については1文字も出てきません。「姉は奥様風に妹は束髪の令嬢風に」と2人分の容貌には触れていますが、もう1人は髪型も服装も不明です。
そもそもこの記事にはオチがなく、3姉妹に因縁をつけている、今風に言うならdisっているだけなのですね。効果として考えられるのは、営業妨害です。ライバルの小料理屋がネタを流したのかもしれません。
真偽のほども定かではないですね。
明治から昭和初期にかけての新聞は、現代になぞらえればテレビのワイドショー的な役割も担っていた、と私は考えています。下品なところが似ていますが、伝播力と浸透力においてはテレビの足下にも及びませんから、エンターテインメントの一種として許されていたのではないでしょうか。
では、また次回。