【カンボジア旅行記】退廃から再生へ。今訪れるべきカンポット。
今回は2020年1月20日〜26日に6泊7日でカンボジアを訪れた旅行記の第2回目として、カンポット編をお届けしたい。
前回のプノンペン編は以下より。
カンポットへ行く理由
カンポット旧市街の街並み
今回のカンボジア旅行はルートも日程も決めず、往路のフライトだけを取ってプノンペンにやってきた。久しぶりの一人旅であり、行き当りばったりのNo Reservationsな旅。
初日の夜は安ホテルでだらだらと過ごし、旅の開放感に浸っていた。
プノンペンの次はどこへ行こうかと、地球の歩き方をパラパラとめくっていると、“カンポット”という地名で手が止まった。
「そういえば、最近読んだブログでカンポットという地名を見たっけ。どんな街なんだろう?」
カンポットは地球の歩き方(2013〜14年版)でも見開き1ページで紹介されているに過ぎない。だが、紹介文の冒頭に書いてあったこの一文を読み、カンポット行きを決めた。
“古びたフレンチ・コロニアルの建物はかつてのにぎわいを想像させるが、現在は道行く人影もまばらで、喧騒とは無縁の世界だ。”
写真は載っていなかったが、観光地化されすぎていない寂れたコロニアルタウンの情景が目に浮かんだ。
アジアのコロニアル建築巡りが趣味の1つでもある僕にとって、この一文はカンポット行きを決断させるには十分すぎる理由だった。
退廃から再生へ。カンポットは今訪れるべき街。
カンポット旧市街の街角
カンポットには諸事情があり、一泊しかできなかったが、結論から言うと、カンボジアで一番好きな街になった。もっと言うなら、東南アジアでも指折りのお気に入りの街になったのである。
カンポットの旧市街は、“退廃から再生への途上にある街”だと僕の目には映った。
フランス植民地時代のコロニアル建築は朽ち果てているものも多いが、ホテルやショップ、カフェ、レストランとして生まれ変わり始めている。
一度は寂れた街が、旅人によって再び活気を取り戻そうとしているのだ。
コロニアル建築のレストラン
街の雰囲気としてはシェムリアップのオールドタウンに良く似ているが、あれほど観光地化されてない。カンポットにはシェムリアップにおけるアンコールワットのような一級の観光地はない。
だからこそ、ここを訪れる旅人には、「観光!買い物!世界遺産!」というハイテンションな雰囲気がないし、団体ツアー客がドッと押し寄せるようなこともないのだ。
カンポットの旧市街は世界遺産登録を目指していると聞いた。もし登録されれば、あっという間にこの街が持つのんびりとした空気感も失われてしまうに違いない。
ホイアン旧市街
マレーシアの古都マラッカやベトナム中部の都市ホイアン、ラオスの古都ルアンパバーンを初めて訪れたとき、歴史的な街並みが観光地として消費される様を目にし、「世界遺産に登録される前に来るべきだった」と後悔した。
もしあなたがこれらの都市を訪れ、同じように思ったことがあるのなら、ぜひ今のうちにカンポットに足を運んでほしい。
プノンペンからカンポットへ
カンポットはプノンペンから南へ150km、タイランド湾へと注ぎ込むカンポンバーイ川の河口に面した小さな街である。
プノンペンからは直通バスの便数も多い。どれも所要時間は3〜3.5時間なので、朝イチのバスに乗れば昼過ぎには到着する。
カンポットへ向かう前夜、スマホから12GOでプノンペン発カンポット行きのバスチケットを予約。
一昔前なら、旅行代理店やホテルのカウンターでバスのチケットを手配したものだが、今ではスマホで瞬時に予約ができる。
プノンペン発カンポット行きのバス
1月22日朝8時にプノンペンを発ったGiant Ibis社のバスは、昼前にカンポットに到着。
予約していたゲストハウス「Good Morning Kampot」へとチェックイン。幸運なことにバスが到着したGiant Ibisカンポット支店からゲストハウスは目と鼻の先だった。
カンポットではオールドマーケット周辺に泊まるべし
黄色い建物がGood Morning Kampot
Good Morning Kampotは、昔ながらの安宿という趣があり、個人的には好きなタイプの雰囲気。通りに面した2階の部屋からは、カンポンバーイ川が見えた。そういえばリバービューの部屋を予約していたんだ。
ゲストハウス前の道路を渡れば目の前がカンポンバーイ川
アゴダから当日予約で一泊600Bほど。バックパッカー宿としてはそれほど安くはないが、この立地と眺めなら文句はない。
安宿に泊まり慣れている人なら問題ないはずだ。
宿の一階はカフェ・レストランが併設
カンポットのリバーサイドエリアには高評価の宿は数えるほどしかなく、人気の宿は満室であることが多いようだった。
カンポットを初めて訪れる人ならオールドマーケット周辺に宿を取っておけば間違いない。
このあたりにカフェやレストラン、バーなどの飲食店をはじめ、コンビニ、ゲストハウス、旅行代理店、土産物屋など、旅行者に必要なものがすべて揃っている。
リバーサイドの雰囲気もいい
ちなみにカンポットは胡椒の産地として世界的に有名で、「カンポットペッパー」はこの地を訪れたほとんどの人のお土産の第一候補となるだろう。
僕もオールドマーケットのすぐ近くにある「The Kampot Pepper Shop」というお店で塩漬け胡椒を買って帰ったが、これが驚くべき旨さだった。
パン、パスタ、ピザ、ご飯など、何にでも合う。ほんの少しの塩漬け胡椒を料理に乗せるだけで、その一皿を上品な味わいへと昇華させる。
これまで胡椒の粒が料理に入っていても食べずに避けていたが、これは胡椒のみでも食べられるほど香り高く、辛さもマイルドなのである。
「胡椒って、こんな食べ方があるのか…!」と新しい発見をさせてくれた素晴らしい逸品であった。
絶品の塩漬け胡椒
写真の左端に看板が出ているが、ペッパー農園へのツアーもカンポットのキラーコンテンツのようだ。産地を訪ねてみたい人やアグリツーリズムに興味がある人は、参加してみるといいだろう。
カンポットの旅人
カンポットで見かけた旅行者のほとんどが欧米人のバックパッカーとロングステイヤーだった。
誰かが、「欧米人の旅行者は中国の植民地と化したシアヌークビルを逃れて、カンポットやケップにやってきている」と言っていたが、それもあながち嘘ではなさそうだ。
逆にアジア人の旅行者は全くと言っていいほど見かけなかった。
欧米人向けの飲食店が多い
旧市街に残る朽ち果てたコロニアル建築を見る限りでは、フランス撤退後は寂れた街だったのだろう。内戦の影響も大きかったのかもしれない。
元ヒッピーやバックパッカーといった旅人が訪れるようになり、安宿街が形成され、活気を取り戻しつつあるように見える。
古き良きインドシナらしさ漂うゲストハウス
オープンテラスのカフェに腰掛けコーヒーを飲んでいると、どこからかWeedの香りが漂ってくる。カンポットはそんな街である。
カオサンもブイビエンも、そしてシェムリアップでさえも失ってしまった、東南アジアの安宿街特有の退廃的な雰囲気をカンポットは纏っている。
節約志向のバックパッカーやロングステイヤーが多いため洗練された店はまだ多くはない印象だが、センスの良さそうなカフェやショップを数軒見かけた。
ヨガやベジタリアンといったヒッピー思想を源流に持つカルチャーもここに集まり始めているようだ。
アーリーリタイヤしてこの地で第二の人生を歩むフランス人が経営しているのだろうか。カフェの焼き菓子やバゲットは旨かった。
発見され、開拓され、拡散されていく
カンポット旧市街は、「旅人よ、ここで少し羽を休めていきなさい」という緩い空気感に満ちている。長期滞在という名の沈没者も多いことだろう。
東南アジアの三大バックパッカー街と呼ばれる「バンコクのカオサン通り」、「ホーチミンのブイビエン通り」、「シェムリアップ のパブストリート」。これらの通りは夜には街全体がクラブと化し、夜明け近くまで喧騒が止むことはない。
だがカンポットの夜は、カフェの店先で控えめにトランスを流す程度で喧騒とは無縁だった。羽を休めに立ち寄ったパーティトラベラーたちも思わず立ち止まり、ジョイントを燻らせ、体を揺らしていたが、ここでは狂ったように騒ぐ者は見かけなかった。
旅と旅、パーティとパーティの合間に立ち寄り、英気を養う。
そして再び旅立っていく。
ある者はベトナムへ、ある者はパーティアイランドのロン島へ、またある者はシェムリアップへ。
一生に一度かもしれない旅路の続きへと、旅立っていくのだ。
今はまだカオサンのような「旅人の交差点」と言えるほど、東南アジアを旅する誰もが目指す街ではない。だが、これほど居心地がいい場所はいずれ多くの人が目指すことになるだろう。
発見され、開拓され、拡散されていく。
良い場所はどこもこのような順序を経て、観光地として洗練され、消費されていく運命にある。今のカンポットは、開拓されているフェーズだろうか。
あと数年で拡散されていくに違いない。
それでは最後に、カンポット旧市街の写真をまとめてご覧いただこう。
カンポット旧市街の写真集
旧市街の中心地付近
ブーゲンビリアが軒先に咲き誇る
黄色い壁と青空にブーゲンビリアが映える
南仏の街角と言っても通用しそう
プラナカン風の華人建築も多い
川沿いの道にもコロニアル建築が並ぶ
リバーサイドをオートリキシャが疾駆する
ハッピーピザ屋に挟まれた小洒落たレストラン
リバーサイドを散歩するのも気持ちがいい
Kampot Fish Market
移動手段はトゥクトゥクとオートリキシャ
川を眺めながら人生の一休み
フランス植民地時代に建てられた鉄橋
ドリアン・ラウンドアバウト
カンポットは胡椒の他にドリアンも有名で、街の中心にはドリアン像があった。
手入れされすぎていない建物もいい
小綺麗なカフェやレストランが並ぶ一角
豊かな青春、惨めな老後?
カンポットのカフェで道行く若きバックパッカーと年老いたロングステイヤーをなんとなしに眺めていると、ふと、あの言葉が頭に浮かんだ。
「豊かな青春、惨めな老後」
かつてバンコクに存在していた伝説の安宿「楽宮ホテル」の壁に書かれていた落書きである。
「旅は若いうちに限る」、そう思い僕も学生時代からバックパッカーとして旅をしてきたが、今年40歳を迎え、今思うこと。それは、「旅は歳を重ねれば、重ねたなりの楽しさがある」、ということだ。
自分の場合は、この2〜3年で写真に本格的に目覚め、写真を目的に旅をするようになり、旅のスタイルが変わった。
絶景や観光地よりも、スナップが楽しめそうな街を目指すようになったのだ。観光地としての魅力は乏しく、これまで楽しめなかった街がカメラのおかげで楽しめるようになったのは大きな変化だった。
それはなにも旅だけでなく、日常においても同じだ。
カメラと出会い、旅だけでなく、人生そのものが豊かになった。
カンポットで出会ったのは、いくつになっても旅を、人生を謳歌する旅人たち。
「豊かな青春、豊かな老後」
なのであった。