アンパンマンの靴 @ 1歳児の行動
《登場人物》
Aくん…0歳児男児。アンパンマンの靴の持ち主
Bくん…0歳児男児。わりとパワフル。
Tくん…1歳児男児。まだ会話が成り立たない。
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ある日の夕方保育中。
子どもたちの人数も減ってきたので、各扉を開放して異年齢で自由に過ごしていた。
いつものように、
買ってもらってまもないお気に入りのアンパンマンの靴を室内に持ってきたAくん。なんともうれしそうに「アンパンマン!」と連呼している。
それを見て、またいつものようにAくんから靴を持って行き、「僕が欲しい」と言わんばかりのBくん。
Aくんは、いつものように泣いて大アピールを始めた。
ひ「そうだね、Aくんのだもんね。取ったら嫌だね。Bくんも、アンパンマン見たいもんね。うーん、どうしようね…」
と話していると、
後ろにたまたまTくんが立っていて、加湿器のボタンをピコピコしていた。よし、Tくんに振ってみよう。
ひ「Tくんさ、ちょっといい?あのさ、Aくんのアンパンマンの靴を、Bくんが持っていったみたいでさ。Aくんが泣いちゃったんだけど、どうしよう??」
こんなふうにTくんに話を振るのは初めてのこと。Tくんはどうするだろう?
するとTくん、
なに??という表情で後ろを振り返り、泣いているAくんと靴の状況を無言で確認した。
そして。
なんとTくん、Bくんが持つアンパンマンの靴を取りに行ったのだ。うーん、これはどうすればいいのか。どう見ればいいのか。もちろん、話を振った僕が原因なのだし、想定はしてはいたが、取られまいともがくBくんを見るとやはり心は揺れる。
Tくんは、Bくんから靴をとりあげた。
不思議なことに、取り上げられたBくんは泣きも怒りもしていない。Bくん、取られたりすると怒ったり泣いたりということが普段から多いので、いつもと違う。
Tくんは、アンパンマンの靴を一足手に持ち、Aくんに返すかと思いきや、じっと手に持って眺めていた。
そこへAくんのお姉ちゃんがやってきて、泣いているAくん、そして靴を持つTくんを見た。
姉「あーそれ、Aくんの靴だ!」
といって、お姉ちゃんはTくんから靴を取り上げ、Aくんに手渡した。これでAくんは泣き止んだ。もちろんお姉ちゃんには、Tくんの動きについて前後の状況を伝えた。
ここで。
Tくんも、いつもなら取り上げられると、まず地面に座り込んで泣くことがほとんどだ。だがこの時は全く泣かずケロリとしている。
ちょっと聞いてみることにした。
ひ「Tくんさ、アンパンマンのくつ、ちょっと見てみたかった?」
変化はない。
ひ「アンパンマンのくつ、もしかしてAくんに返してあげようとしてたの?」
今度は笑顔で、僕と目を合わせてくれた。
たぶん、「うん!」かなと思った。
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振り返ると、この時の保育(僕の関わり)、本当によかったのかと疑問も残る。
想定では、Aくんに返すか、または全く話が通じずどこかに行ってしまう確率が最も高いと踏んでいた。
でも考えてみれば、こんな誰にでも分かりそうな状況を他人に振るというのはどうだったんだろう。
同時に、本当に僕は「どうしよう」とも思っていたし、どうするのがよいのか結論がでないでいた。前に一度、Bくんから靴を僕が取ってAくんに渡したこともあったが、これはぜんぜんイケてない。大人の力を行使したからだ。
「Aくん、悲しいね… Bくん、ほしかったね」
と、気持ちに寄り添うだけでもよかった、かもしれない。
うーん、しかし子どもたち同士でお互い納得感は感じられたし、大人が入るよりはよかったか。どうだろうか。
ともかく、
Tくんにこんな風に話を振ったのは初めてで、まさかまさかAくんのために(と、思われる)動いたとは衝撃だった。
まだ1歳児。
しかも、会話が成り立たない状況なのに。
子どもたちは言葉ではない何かでコミュニケーションをとっている。それは前々から思っていたが、まさかその上に「考えて動く」までしてしまうとは。