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令和3年(受)第987号 消費者契約法12条に基づく差止等請求事件、令和4年12月12日 第一小法廷判決のまとめ

最終結論は報道されているので、内容についてざっと読んでまとめた。

(理由1) 【契約書13条1項前段関係】

(前提) 一般に無催告特約条項は催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に、無催告で解除権が行使できることが許されることを定めた約定である(昭和43年11月21日第一小法廷判決)。 この法理は、本件契約書13条1項前段にも及ぶ。

「本件契約書13条1項前段がいかなる内容を定めた条項であるのか。」

本件契約書13条1項前段は、被上告人(以下「連帯保証人」という)が無制限に連帯保証債務を履行しなければならなくなる不利益を回避するために賃貸借契約の解除権を付与するという趣旨である。
本件契約書13条1項前段は、文言上、このほかに何ら限定を加えていない。 連帯保証債務が履行され、賃貸人と賃借人の賃料債務が消滅した場合であっても、賃貸借契約を無催告で解除できる条項と解されるから、前記第一小法廷判決が示した特約条項とはかけ離れた内容のものというほかない。
本件差止請求訴訟において、信義則、条理等を考慮して規範的な観点から契約の条項の文言を補う限定解釈は、本件契約書13条1項前段の条項には何ら限定を加えていないので限定解釈することは相当でない。

「本件契約書13条1項前段が、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項にあたるか。」

一般に、賃貸借契約を解除できるのは当事者であり連帯保証人ではない。また、契約の解除は、民法541条本文に規定する履行の催告を要し、無催告解除は同法542条1項5号に掲げる場合等に該当することを要する。
他方で、連帯保証債務の履行があるときは、賃貸人は、履行遅滞を理由に契約を解除することはできず、賃借人に信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるときに限り、無催告で解除することができるにとどまる。
本件契約書13条1項前段は、賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が3か月分以上に達した場合は、連帯保証人が何らの限定なく原契約を解除することができるものとしているので、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべき。
消費者契約10条は、消費者契約の条項が、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることを要件としている。 賃貸借契約の解除は、賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招来し得るものであるから、契約解消に催告を行う必要性は大きい。
本件契約書13条1項前段は、賃貸借契約の当事者でもない連帯保証人が一存で何らの限定なく無催告で解除権を行使できる条項であるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがある。
本件契約書13条1項前段は、消費者である賃借人と事業者である連帯保証人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

(結論) 本件契約書13条1項前段は、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に当たる。

(理由2) 【本件契約書18条2項2号関係】

「本件契約書18条2項2号がいかなる内容を定めた条項であるのか。」

本件契約書18条2項2号には賃貸借契約が終了している場合に限定して適用される条項であることを示す文言はない。
賃貸借契約が終了していない場合においても、本件4要件を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、連帯保証人が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であると解される。

「本件契約書18条2項2号が、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項にあたるか。」

賃貸借契約が終了していない場合において、本件契約書18条2項2号に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物の使用収益権が消滅していないのに、契約当事者でもない連帯保証人の一存でその使用収益権限が制限されることになる。
したがって、本件契約書18条2項2号は任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限するものというべき。
このようなときには、賃借人の使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に明渡請求権を有し、法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるので、著しく不当である。
また、4要件のうち、本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するという要件は、賃借人には、その内容が一義的に明らかでないため、いかなる場合に本件契約書18条2項2号の適用があるか判断できず、不利益を被る恐れがある。
本件契約書18条2項2号には、賃借人が明示的に異議を述べた場合には、連帯保証人が本件建物の明渡があったとみなすことができないものとしているが、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分ではない。
本件契約書18条2項2号は、消費者である賃借人と事業者である連帯保証人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

(結論) 本件契約書18条2項2号は、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に当たる。




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