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シシテル #解放
「わかった…わかったからこの手を退けてくれ。」
唇を噛み締めながら茨木童子は刀から手をそっと離した。
それと同時に金色に輝く腕がすっと消えた。
「私たちがその力をコントロールできるわけじゃない…その腕が消えたということは貴方が私たちに危害を加えないと判断したから。ありがとう。私たちも貴方と戦う気はないの」
お姉ちゃんが僕の頭を撫でて少し不安そうな顔をした。
僕は初めてみたその表情に困惑し状態を起こした。
「僕…何もわからない…神様とか鬼とか…信じられないよ…外にいたおじちゃんも殺しちゃったの?それ、犯罪って言うんだよ?」
癒鬼が僕の腕を掴んだ。
「一葉が癒鬼を助けてくれた。癒鬼は鬼。なぜ癒鬼と名付けたのだ?冬でもあるまい…癒しに鬼と書くはず…私はそう認識しているが違かったか?」
分からない…自分でも何で癒鬼なんて名付けたのか…だって急に頭の中に思い浮かんだんだ…知るはずもない漢字と共に…
「僕は癒鬼を護りたかった。ただそれだけ…ただ…それだけなんだ…」
お姉ちゃんが再び僕の頭を撫でる。
「ここからは私も分からないけど一葉には鬼の血が濃く流れているんだと思う。鬼に名をつけるなんて考えられない…あくまでも私たちは狭間の存在…鬼でも神でもない…本来であれば鬼や怪異に名前をつけるなんて……」
四葉は悩んでいた。
その悩みを打ち消すかのように茨木童子が口を挟んだ。
「御法度だな…しかし、天罰が降らないと言うことはお前の言うことが正しいと思う。」
「お姉ちゃん?」
僕はお姉ちゃんの顔を見つめた。
また涙目になっている。
その理由は僕は分からなかった。
「ダメ…それから先は言わないで!」
お姉ちゃんの声が荒ぶり震えていた。
「で…だ…」
茨木童子は言葉を続けようとした。
「だから…それ以上言わないでって言ってるでしょ!」
新しく開けたビールを茨木童子が一気に喉越しを立てて飲み干した。
「お前もこの先どう進むかは分かっているだろう。」
「嫌!絶対に嫌!」
「お姉ちゃん?」
癒鬼が僕の袖を掴んだ。
「ダメだ…一葉はあいつの足枷になっている。」
お姉ちゃんの顔の血管がどんどんと浮き出てくる。
「一葉だけは…一葉は私が護る!!!」
「お姉ちゃん!!!」
「一葉…私は私が死んだとしてもずっと貴方のそばにいるから。」
お姉ちゃんが振り返って涙を流し優しく微笑む姿を見たことがあっただろうか…
「ちっ…こいつ…暴走している…何か勘違いしているようだな…ただ…こうなりゃ手のつけどころがない…鬼は鬼らしく…鬼として、売られたケンカは買わねぇとな!」
茨木童子が息を止め、刀を引き抜く。
その額からは汗が滴っていた。
「こいよ…神域…」
「金剛…ガハッ………」
お姉ちゃんが何者かに首を殴られその場に倒れた。
「あー…連絡よこすのはいいんだけど…あんまり耳元で騒がれるのは好きじゃねぇ…ってか、力使うなってあれほど言っただろうによ〜ガキは困るよなぁ…ガキは」
タバコを咥えた男がお姉ちゃんを抱き抱えた。
その男の方には双葉が肩車をされて喜んでいた。
「あ?また変なのがきた…ったく楽しいところだったのによっ……」
茨木童子の頬に刀が当てられ頬から血が流れ落ちた。
その刀は男がお姉ちゃんを抱える腕とは反対の腕で
突き立てられていた。
「鬼が…ごちゃごちゃ騒ぐんじゃねぇ…」
「何……早い………」
「てめーもだ癒鬼!」
その男は癒鬼の名前を口にした。
「はっ…なぜ…私の名前を…ぐわぁ」
癒鬼の顔が男の蹴りで床に埋まった。
その光景を見て、僕の体の中の血管が一気に沸騰し喉から勝手に声が出た。
「お前…何をしているか分かっているのか…」
その男は僕の方を見て鼻で笑った。
「双葉!おりてお兄ちゃんの元へ来るんだ!」
「あっ!お兄ちゃん!一葉お兄ちゃん!」
僕は双葉の腕を強く握った。
「ほう〜?ガキがねぇ〜…」
僕の身体は怒りの意識と同調するかのように、僕よりも力強い何かに変わろうとしていた。
「茨木童子…久方ぶりだな…腕はもう治ったんだな…」
「あっ?誰だお前?一葉?ってかこの刀下ろしてくれよ…何もしねぇからさぁ〜」
「それは無理なことだな…自分の力で対応できるだろ?ん?茨木童子…今は現世に関与していないのか?」
僕の口からは信じられないほどの老いた声が出ている。
それに、今言葉を発している僕の中の人は茨木童子を知っているようだ。
僕は自分の意思と反して口角が上がった。
「滑稽だな…なぁ…一葉と言ったな。これよりお前の人生は己の為に使うのではない。」
頭の中で声が聞こえる。
そう叫べと…その男の意識が一瞬にして僕の体から離れ頭の中が真っ白になる。
「おいおい…聞いてた話とちげーぞ?俺は助けにきた身分なんだがよ〜」
「一葉!何を言っている!おい!聞こえているのか!一葉!」
僕の耳元で蠢く何かが囁いた。
カズハ…ヤオビクニ…カズハ…ヤオビクニ…マモル…シメイ…ヤオビクニ…ニナル…ボクヲ…タスケル
僕の頭の中で何かが弾け飛んだ。
「魍魎道…………………」