【リトル・シスター】
オランダ 95年 ロバート・ヤン・ウェストダイク監督
『カメラを止めるな!』を見てふと思い出した映画がある。
最初に知ったのは月刊ロードショーの封切欄で、ヒロインがスプーンで鼻を隠している、奇妙な写真が載っていた。その内容はというと、アムステルダムに帰省した兄(ヒューゴ・メッツェルス)が、実の妹ダンチェ(キム・ファン・コーテン)をビデオカメラで撮り続ける……というもの。
映画はコンセプトだ、とあからさまに言いたくなるほど、シンプルである。主観〈POV〉はそれほど真新しい手法ではない。しかし、かの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』より早く世界に公開しているのだ。これをアイデア勝負と言わず何と呼ぼう。観客はアムステルダムの路上に蹴飛ばされ、しまいには兄妹の秘密を目撃することとなる。その過程が最高に楽しい。「カメラさえあれば映画だ」意外にもそんなストイシズムさえ覚えるほどである。
近親相姦をモチーフにした映画は多数ある。それをタブーに切り込んだ、と触れ込む映画も多数ある(たぶん)。だが時代は90年代のど真ん中、これほど自由に作り手の息(決してマリファナ臭くはない)を感じる作品は他にないはずだ。断言しよう。映画を作りたい若者には何かしら傷跡を残すと。
97年の公開以降、国内では円盤化しておらず、今のところ配信もないようである。私が見たのはNHKBSの深夜放送で、ロードショーの紹介記事を覚えていたのが幸いだった。当然、見逃すまいと必死でテープを機械に入れる。今思うと、どこか映画の主人公と動作が似ていた。
その録画したVHSは今もって行方不明である。時が経ちすぎたゆえ、どこに置いたのかも忘れている。これも磁気テープに取りつかれ、その魅力を発揮した映画の呪いかもしれない。