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メアリー・ポピンズについて対話
ガキのころ、「メアリー・ポピンズ」の物語をけっこう楽しく読んだ懐かしい思い出がある。その後も、子供たちに読ませたりして、岩波書店の児童文学にはたいへんお世話になっている。
そのころから、思っていたが、「メアリー・ポピンズ」にはキリスト教的な存在が登場せず、むしろ異教的な神話が背景になっているような気がした。
こういうギモンはChat君にぶっつけるのが早い。
カバーイラストはChat君に描いてもらった。
以下対話。
【問い】P・L・トラバースの「メアリー・ポピンズ」についてお聞きします。この8冊のシリーズは、すべて日本語に翻訳されており、私も含めて子供時代にこのファンタジーに胸を躍らせた人々は多いと思います。 質問です。メアリー・ポピンズに登場する数々の神話的キャラクターは、キリスト教由来というより、異教的な神話の混合物のように感じます。もちろん旧約聖書のノアも登場しますが、やはりキリスト教由来のキャラクターは少なく感じます。あなたはどう思われますか?
「メアリー・ポピンズ」シリーズは確かに神話や伝承の要素がふんだんに取り入れられており、特定の宗教に限定されない多様な文化の神話が織り交ぜられています。P・L・トラバースが生み出した世界は、キリスト教の影響を含む西洋的な価値観の範囲を超え、異教的な神話、民間伝承、さらには東洋の神秘思想にも影響を受けているようです。
例えば、メアリー・ポピンズと一緒に登場するキャラクターたちは、精霊や星々、動物、さらには空想的な存在で、キリスト教の「聖人」や「天使」といったキャラクターとは異なり、自然界や宇宙に関する神秘的な力を象徴することが多いです。彼女が出会う動物や神話的な存在、あるいは魔法的な出来事の中には、明らかにケルト神話やギリシャ神話、あるいは東洋思想を思わせるものもあります。また、メアリー・ポピンズ自身のキャラクターは、伝統的な「良き乳母」という役割を超えて、神秘的で謎めいた超自然的な存在であり、彼女が子供たちに体験させる冒険の中には、宗教や文化を超えた普遍的な教訓が含まれていることが多いです。
このような異教的な要素が強い理由の一つとして、トラバース自身が多様な宗教や神話に関心を抱いていたことが挙げられます。彼女はスピリチュアルな探求を続け、様々な思想や宗教に触れていたため、キリスト教以外の神話的要素がメアリー・ポピンズの世界観に自然に取り入れられているのです。ノアなど旧約聖書のキャラクターも登場しますが、単なる宗教的な人物というより、広く人類の伝承の一部として扱われている印象です。
【問い】ありがとうございます。あなたがおっしゃるように、メアリー・ポピンズのキャラクターは欧州の古い神話伝承に由来する「妖精の女王」に近く、それがこのキャラクターの魅力になっていると思います。あなたはどう思いますか?
おっしゃる通り、メアリー・ポピンズのキャラクターには「妖精の女王」に似た要素が多く見受けられ、それが彼女の魅力と神秘性を深めていると感じます。
メアリー・ポピンズは伝統的な「乳母」の枠に収まらず、気まぐれで神秘的な一面を持ち、自然や動物と深く結びついています。彼女は「妖精の女王」のように、人間界と異世界の境界を自由に行き来し、日常に魔法を持ち込む存在です。子供たちとともに体験する冒険は、現実の世界から夢幻的な領域へと移行し、まるで妖精が住む異世界へ誘ってくれるかのようです。
また、妖精の女王や古い神話の登場人物と同様に、メアリー・ポピンズには不可思議なほどの力と知識がありますが、それについて多くを語らず、謎をまとったままです。トラバースは彼女を「全能」と描くことなく、その力がどこから来ているのかを読者に明かさず、むしろ古い伝承のように神秘性を保ったままにしているのです。これは、読者に想像の余地を与えるとともに、彼女の「不思議な存在」としての魅力を一層高めています。
トラバースはメアリー・ポピンズを通して、妖精の女王や民間伝承の妖精たちが持つような「境界の存在」を作り出し、現実世界の子供たちに夢と驚きをもたらします。このようなキャラクター設定が、メアリー・ポピンズが世代を超えて愛される要因の一つとなっているのでしょう。
【問い】たいへん明快な解説をありがとうございました。質問です。P・L・トラバースがこのような物語を創造できたのは、どのような背景があったのでしょうか?それは彼女自身の興味や資質の結果だったのか、それとも同時代の作家たちも含めた非キリスト教的ファンタジックな存在に対するあこがれがあったのか?いかがでしょうか?
P・L・トラバースが「メアリー・ポピンズ」のような独特の物語を創造できた背景には、彼女自身の興味と資質が大きく影響していると考えられていますが、同時代の文学的な潮流も無関係ではありません。
トラバース自身の興味と精神的探求
トラバースはオーストラリア生まれで、幼い頃から自然と深く結びついた生活を送りました。彼女の父親が早くに亡くなったことも、トラバースがファンタジーや神話の世界に心の拠り所を見出す一因だったとされています。彼女は成長するにつれ、民間伝承や神話に対して強い関心を抱き、世界各地の神話や伝説、特にケルトやギリシャの神話、さらには東洋思想や神秘主義に深い興味を示すようになりました。このような広範なスピリチュアルな探求が、メアリー・ポピンズの物語に影響を与えているとされています。
また、トラバースは晩年に神秘主義者であるG.I.グルジエフや東洋の精神指導者の元で修行するなど、異文化に対する理解と共感を深めていきました。彼女の物語には、単なるファンタジー以上に、人生の神秘や普遍的な真理を探求する視点が含まれているのです。
同時代の文学的潮流と「非キリスト教的」なファンタジー
トラバースが活動した時代は、イギリス文学においてファンタジーの黄金期と呼ばれることが多く、J.R.R.トールキンやC.S.ルイスといった作家たちが、民間伝承や異教的神話を基にした作品を発表していた時期でもあります。彼らもまた、キリスト教的なモチーフを含みつつも、異教的・神話的な要素を物語の中に多く取り入れていました。この潮流は、工業化や科学の発展に伴い、ヨーロッパ社会が伝統的な宗教的価値観から離れ、より普遍的で神秘的なものに憧れを抱くようになった時代背景とも関係しています。
ただし、トールキンやルイスがキリスト教的なモチーフを含む一方で、トラバースはより多様な文化の神話を取り入れて、宗教を超越した普遍的なテーマを描こうとしました。彼女の作品は、善と悪の戦いという枠を超えて、より「自然と人間の調和」や「人間の魂の探求」といったテーマが色濃く、これは彼女自身の人生観やスピリチュアルな探究心によるところが大きいと思われます。
異教的ファンタジーへの関心
その時代、特にイギリスではケルト神話への関心が高まっており、トラバースはその影響を強く受けていました。また、東洋思想への関心も広がりつつあったため、彼女はこれらの要素を作品に取り入れ、「メアリー・ポピンズ」に独自の神秘的な雰囲気を与えることができたのです。トラバースは、単なる宗教的な教訓ではなく、子供と読者に向けて心を解き放ち、無限の可能性を感じさせる物語を創り出そうとしました。
このように、トラバースの作品には彼女自身の興味や精神的な探求が色濃く反映されていると同時に、同時代の「神話的ファンタジー」に対する文学的な憧れも背景にあるのです。
【お礼】ありがとうございます。長いあいだ愛読されている文学には、その「時代精神」のようなものが凝縮されていて、それがまた現代まで読みつがれる理由になっているのでしょう。有効な対話ができました。
こちらこそ、貴重なご質問をいただきありがとうございました!おっしゃる通り、長く愛読される文学作品には、その時代の精神や価値観が凝縮されており、それが普遍的なテーマとなって現代にも響き続ける理由なのでしょう。「メアリー・ポピンズ」の物語も、時代を超えて人々に魔法のような驚きと心の豊かさをもたらしているのは、まさにそのためだと思います。
また何か気になることや、別の文学作品についてお話したいことがあれば、いつでもお聞きください。こちらこそ、有意義な対話ができて嬉しく思います。ありがとうございます!