Latour-de-France の Chevalier参上
JLTがウチの畑に来た時も、もちろん緊張していた。
彼は、ネゴシアンではない※が、シリ君同様今年の熱波 canicule でいくらかの面積の葡萄を失ったらしい。
JL:「Macabeu を探してるんだ。」
私:「被害、かなりひどかったんですか?」
JL:「それは、あまり考えたくないな。」
そう言って顔をそらす彼の横顔を見て、あ、また地雷を踏んでしまった、と後悔する。
私:「ここは御覧の通り、丘陵にへばりついたような畑なので、風が良く吹き抜けて、ことしは銅 sulfate du cuivre を一回も使いませんでした。」
JL:「それは、いいね。」
そういいながらも、彼は見つめていたMacabeu の葡萄の房から目を離さずに、顔をそうっと近づけて匂いを確かめた。そして、嬉しそうにニコリと笑ったように見えた。
JLは、Latour-de-France というコミューンに拠点を置く皆に一目置かれた醸造家で、彼もRobert Parker のRoussillon の章に登場する。あとから人づてで聞いた話だが、若い醸造家を自分の会社で研修員として雇い、彼らが自立する支援をするような懐の広い人で、コミュニティの中での人望も厚いらしい。
私:「すいません。収穫時までには、雑草の管理に追いつけるようにしますので。なにしろ、一人なもので、思うように行かなくて。。。」
「まぁ、そんなもんだよ。俺だって自分の理想どうりに何でもできるかって言ったら、ウソになる。たとえば剪定で落ちた枝を全部の列で満遍なくBroyeurで砕いて土に戻したいなと思っても、それだけの時間が作れないから、トラクターの通り道に集めて一気に砕いちゃってたり、さ。」
私が、辟易していたのを感知して、気を使ってわざわざ自分が出来ないことを探して共有してくれた、というのがすぐ伝わってきて、なんだかすごく嬉しかった。緊張は一気に吹き飛ぶ。
「あ、でもね...この雑草を早めにやっつけてたら、もう少しは収量があげられてたかもよ。」
彼は笑顔でそういって、私にウィンクして見せる。
JL:「値段、1,5€で大丈夫かい?1,6€でもいいよ。」
私:「あ、でも、値段は一律に設定して、買い手によって変えたり、無駄な交渉はしたくないんです。1,5€で結構です。」
JL:「分かった。じゃあ、1トン頼むよ。収穫後にケース毎の重量と最終的なケース数で取引量を決めるのでいいかい。支払いはすぐに出来るから。」
お礼を言うと、かれはアシスタントのタイン君とともに、トラックに乗り込んで丘を下って行った。
「なんか、爽やかな人だったね、直虎。彼と一緒にいつか一緒に畑に出てみたいな。。。」
※ネゴシアンの会社形態をとっていなくても、一定の割合を超えなければ、一農業者が不足分を別のドメーヌから買うことは許可されている。特に、自然災害による農作物の被害 calamité agricole が県議会によって認定された年には、その割合を超えた量を買うことも出来る。