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"un sale type !"

「汚い手を使う un sale type 奴め!」

いつもは穏やかなディが声を荒げて行った時、事の重大さを知った。私は、あのネゴシアンに、騙されていたんだ。。。

でもまさか、そんなことをする人には見えなかった。品のあるドメーヌのウェブサイトにはテロワールを大切にする精神が謳われ、ワインの銘柄も詩的で (実際飲んだことはまだないのだけれど) 格調高さを感じた。協同組合が優勢なこの地域のワイン醸造の世界でも、大きく成長を遂げた数少ない中規模ドメーヌだ。あの ROBERT PARKER のルーション地方の記述にだって載っていた。パリからは遠く離れたこの南仏で、あのドメーヌに信頼がおけなくて、誰を信頼できるというのか。

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今年はせっかく作った葡萄をワインにすることは叶わないのは、最初から分かっていた。なぜかって、単に醸造する場所も設備もまだないから。。。それでも、葡萄の木に待ったは掛けられず、出来た葡萄は醸造業者(いわゆるネゴシアン "négocian")に売らなければならない。

「って言ってもねぇ、直虎。出来れば、有機農法で育てた葡萄を大切に醸造してくれる人に譲りたいよね…。」

ここに来てからまだ半年ちょっとしか経たないけれど、ルーション地方には、面白い輩が集まって来ているような気がする。ボルドーやローヌ河岸で成功した大規模生産者(Lurton、やChapoutier)らはそれこそ『鳴り物入り』で、経済系や業界新聞の一面を飾るほど騒がれるけれど、それだけじゃなく、修業を終えていざ自分のドメーヌを作るべく、『流れ者』的にやってくるワインの造り手も多い。

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ネゴシアンのムッシュGがウチの畑まで来た時、極度に緊張したのを覚えている。まるで、税関や労働基準監督署の検察でも受けるかのレベルで。

Vallee d'Aglyの北西側、Fenouilledès の丘陵に位置する我々の葡萄畑は、谷間の向こう側の "Corbières" の丘陵を見渡すことが出来る。この Corbieres の岩の稜線がちょうど龍が眠っているように見える。我々のワイナリー "Mas du Dragon de Pierres” の名前の所以だ。

周りにある葡萄畑を高みから一望できるその景色は壮観そのものだが、いざ足元に目を移せば半分くらいの区画で刈り残された雑草が生え、乾いた地に樹勢の制限された葡萄の枝が自由奔放な方向に伸び、まだ色が変わる véraison 前の翡翠色の実が葉陰から顔を覗かせる。そう、この一年間、私がこの畑でやってきたこと、やりきれなかったことが、凝縮されて一目瞭然の形でそこにあった。見る人が見れば、すぐにわかる事実だ。

それを周知の上で、ムッシュGは次から次へと自分が「やりきれななかった部分」にメスを入れていく。Transect のように、葡萄畑の状態を評価するために上下斜めに驚くほどの速足でザックザックと足を運びながら、葡萄の房や実を観察しては、足元にRonceを見つけて「これは、やっかいだ。気をつけろよ。」まだ除草途中の区画では、「収穫までんにはこのぼうぼうの雑草、何とかなるのか。」とか、「ざっと見たところ、収穫率は良くないな。これだけの葡萄のために、自分の収穫チームをここまで連れてくるのは割に合わないな。」とか、、、私の破砕機にちらっと目をやると「ふん、ガーデニング用の機械だな、それは。」とか。

正論なんだけれど、まぁ兎に角、とことんネガティブな人で、サディスティックな印象も拭えない雰囲気。緊張は解けない。ネゴシアンはいわば商人だから、恐らくネゴシエーションで使えるネタを集めて価格を下げてくるんだろうな、と警戒する。

果たして自分のドメーヌを語る時は、至ってポジティブ。「自分のドメーヌなら、君の畑の葡萄すべてを買い取るだけのキャパがある。」と、キッパリ。「ただ、この収量でうちの収穫チームをこちらが出すかどうかは、躊躇するな。なんせ、うちはエージェント経由で手配 Prestation de Service するから、割高なんだ。収穫は君のところでやってもらうかもしれないな。」「1キロあたり1€前後だな。」等々、言いたいことだけ言った後に、「値段や条件の設定と量については、追って連絡するから。」「ああ、他の買い手に気を付けろ。払うと約束しても払わない連中も多くいるからな。」と去ろうとする。

去り際に、こちら側も言わなければいけないことを伝えるのがやっとだった。

「なるべく早めに連絡をいただけると嬉しいです。今のところ、キロ当たり1,5€で収穫チームも買い手が提供するオファーが2件あるだけですので。メールアドレスはお渡ししたとおり。」

かくして、1両日後に、驚くほど丁寧で網羅的なメールが届く。

「全ての収穫を、そちらの希望の1,5€/Kgで買い取りたい。ただし、現時点のような完璧な健康状態の葡萄であることを基本の条件として。収穫後に家にある重量計でサンプルのケースの重量の平均でケースあたりの重量を確定し、これにケース数を掛けて最終買取重量を決める。葡萄の熟成状態のモニタリング、そちらで実施してこまめに連絡いただきたい。」

「わぁ、ディ、見て見て!完璧な健康状態の葡萄だって!」

二人とも我が子を褒められた親のように有頂天になり、その夜は Champagne を開けて乾杯したものだった。

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