霊長目ヒト科の同胞

 この世で2番目に助平な動物を解剖したことがある。1992年、沖縄こどもの国で病死した11歳のオランウータン(雌)である。
 発症する訳1年前に飼育員の交代を契機に情緒不安定になり、削痩、四肢の運動障害、黄疸、血便などを呈した。体重は発症前の約半分の31.5Kgだった。
 わたしが務めていた家畜衛生試験場の病性鑑定で、病理組織検査からヘルペスウイルス感染が示唆され、細菌検査では各臓器から大腸菌が分離された。
 ヘルペスウイルスグループで最も危険なのは4類感染症のBウイルス感染症で、1997年、アトランタの霊長類研究所において、アカゲザルの排泄物が眼に入り、女性研究者が死亡した事例がある。結局、Bウイルス感染症は否定され、免疫不全に起因した大腸菌性敗血症と診断された。
 人はサルからさまざまな恩恵を受けている。一例として、アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞由来のVero細胞がある。細胞株を樹立したのは安村美博博士で、世界中で最も汎用はんようされているウイルス培養細胞である。エスペラント語の「緑の腎臓」(Verda Reno)に由来する。
 ベロ細胞は腸管出血性大腸菌O157毒素の検出にも用いられてきた。1996年5月岡山県邑久おく町に端を発し、患者数1万4,488人、死者8人を記録し、日本中を震撼させたO157事件があった。当時わたしは動物の病原性大腸菌を研究しており、食の安全・安心をテーマに沖縄中をくまなく講演した経験がある。
 大阪府堺市はこの春、学校給食による集団食中毒の後遺症で北区の25歳の女性が脳出血で死亡したと公表した。女性は溶血性尿毒症症候群により19年間通院を続けていたほか、腎性高血圧症により降圧剤を服用していたという。
 童女は果たして此岸しがんの動物園で霊長目の摩訶まか不思議さと触れ合っただろうか。

                   琉球新報 南風 2016年5月12日

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