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【僕たちは母を介護する】-45「マイカー」
御袋が転院してから、私の生活は少しずつだが以前の状況に戻りつつあった。
次男と三男がどれくらいの頻度で面会に行っているのかわからないが、私はだいたい10日に1回の割合と決めていた。
彼らが行っていれば3日に1人は面会しているだろうと思ったからだ。
転院するときにそのように話していたが、確認はしていない。
面会に行く時間が少なくなって少し余裕ができたが、御袋に関することで動くことがあった。
それでも、1ヶ月前とは比べ物にならないほど、心も身体も楽になっていた。
そして、前回の面会から10日が過ぎるころ、いつも通り予約して面会に行った。
御袋に会うとかなり良くなっているように感じた。
顔もふっくらしてきたし、手の甲にも肉がついている。
前回の面会の時は手の震えがあり、気になったが今日はあまり動いていない。
「どう調子は」
「うん、膝が痛い」
右の膝が痛いらしい。車いすを見ると、右側の足を置くステップが無かった。
ステップに足を置くと痛いのだろう。
知らなかったが、元気な時から右足の膝は痛みがあったらしい。
私は御袋と同居していないし、今までは会うのも年に数回だったから、会った時にそんな話にはならなかった。
「リハビリは順調?」
「今日は2回立てた」
「おぉ!すごいじゃない」
「うん、3か月後には退院したいと思っていたけど、この分だとまだかかるかもしれないわ」
「少しずつ良くなっているんだから、慌てずに根気よくリハビリを続けるといいよ」
「でも、お金がかかるでしょう」
「まぁ、そこはなんとかなるでしょ。気にしないでいいよ。ところで・・・」
突然だが車の話をすることにした。
御袋は倒れる前日まで車の運転をしていた。
もちろん御袋自身の車だ。
私は以前から御袋の年齢が気になり、免許返納について考えていた。
しかし、田舎なので車がないと不便である。
買い物に行くためにバスを利用しようにも1日2回しかでていない。
かと言って、私たちも仕事で平日は動くことができない。
そのため、元気なうちは大丈夫だろうと思っていた。
しかし、このような状態なって運転は無理だろう。
いつか完全に復帰したとしても、数年先に思える。
その時は、もう運転するにも今以上に高齢すぎる。
ただ、御袋の気持ちも考えないといけない。
「御袋の車のことなんだけど」
「うん」
「今、俺が代わりに乗っているよ。動かさないとダメになるしね。軽だから小回りがきいて、とても乗りやすいよ」
「そうでしょ」
「うん、それでなんだが・・・ちょうど俺が乗っている車が調子悪くなって、処分しようと思っているんだ。その代わりに御袋の車をそのまま俺が乗っていいかな」
「御袋もすぐには運転できないだろうし、運転できるぐらいに元気になったら、車に乗ればいいと思って」
「うん」
「それで、車の保険をかけないといけないから、所有者を俺に変更したいと思うんだよ。いいかな」
「うん、いいよ。もう乗れないし、年だしね」
「うん、まぁ頻繁には無理かもしれないけど、買い物に行きたいときは連れて行くよ。またはタクシーを使っていけばいいし」
「タクシーはあまり乗ったことがない」
「そっか、それなら乗ってみるといい。とても楽だよ」
「そうだね」
お互いに笑いながら話を終えた。