【僕たちは母を介護する】-29「今日は何日?」
《18日目》
今日は週に1度の面会。
弟と病院に向かいながら、御袋の昨日の様子を話した。
「この前は驚いたな」
「あぁ、美容院に迎えにって言うから、『今、病院にいるんだよ』って言ったんだけど、よくわかっていないようだった」
「うん、多分せん妄だと思うよ」
「せん妄?」
「専門家じゃないからわからないけど、大きな手術や薬などで一時的に幻想や幻覚がでるらしい」
「そうか」
「多分大丈夫だよ」
安心させるつもりでいったが、弟の反応はよくわからなかった。
それから病院につき、病棟で受付をして待合室で待っていると看護師から声をかけられ病室に入る。
御袋の状態は寝たきり。
どうみてもリハビリなどができる状態ではない。
これはまだしばらく入院だろうなと思った。
「こんにちは、具合はどう?」
問いかけに答えず、うんうんと頷いた。
[あれ、先日、弟と電話して話したはず・・・]
不思議に思いながら、
「どうした、声がでないのかな」
と、ゆっくり話しかけた。
これも頷くだけ。
次男はじっと見守っていた。
しばらく、私は手術のことや季節の話をした。
すると少しずつだが声が出てきた。
よかったと思いながら、持ってきた写真を見せた。
「みんなの写真をもってきたよ」
写真はA5サイズのフレームに入れている。
私と三男の顔写真と御袋が可愛がっている猫の写真。
それぞれを組み合わせて一枚のフレームに入れた。
しかし、ここに次男の顔写真はない。
理由は聞かなかったが、照れ臭かったのだろう。
「相変わらずタヌキみたいだな」
御袋の家の猫は丸々と太っているように毛が長い。
しかも黒に近い茶色。
私はいつもタヌキだ、タヌキだと言ってからかっていた。
御袋はそれを知って少し笑っていた。
そして弟も
「寂しがってお母さんを探してるよ」
と話かけた。
私は少しせん妄のことが気になり、こんな質問をした。
「今日は何日かわかる?」
そういうと御袋は自分の手のひらに、今日の日付を書いた。
「おぉ、日にちがわかっているんだ!」
すると御袋はウンウンと頷いた。
また声が出なくなっているようだ。
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