【僕たちは母を介護する】-17「現状把握」
続いて弟が話しかける。
私は後ろに下がると男性のスタッフが入ってきた。
「こんにちは」
声をかけられたので、挨拶を返した。
「昨夜は、血圧が著しく下がりましたので血圧を上げる薬を投与しています」
機械に表示されている血圧の数値は正常に見えた。
「それではこの血圧は薬によるものですか」
私は尋ねた。
「はい、薬を入れてこの状態になっています。大変危険な状態まで下がったので、まだ薬をいれているところです」
危険な状態であった事と、持ち返した事を説明した男性は、回復した事に安心した様子だった。
その感じを受けて私は「ありがとうございます」と礼を言った。
その時、担当の先生が入ってこられた。
挨拶を交わし、先生が昨夜の事を話された。
内容は男性スタッフから聞いたことと同じだった。
ところで、この先生は若い。
20代後半?30代前半だろうか…
思えば、自分の年齢より下の先生や看護師が多くなった。
もちろん、年齢で評価はしない。
逆にこの若さですごいなと、尊敬した。
「まだ危険な状態ですが、様子をみて明日、お腹の中に入れているシートを交換します」
「交換ですか?」
昨日から、いろいろな状況が続き考えがまとまらない。
起きている現状を把握することでいっぱいだ。
医療に皆無なのであたりまえだが、次に行う事を言われても、理解はできなかった。
「はい、シートは汚れるので長時間つけていると衛生的によくありません。そのため2日程度で交換する必要があります」
昨日も思ったが、この先生の説明はわかりやすかった。
しかしそれは、受け取る私の姿勢なのかもしれない。
昔は先生の方が年上で、威圧感しかなく、一種の恐怖を抱いていた。
この先生は言葉遣いが丁寧で、その上、理解できない私に嫌な顔一つしない。
「わかりました。何時ごろになりますか?」
「午前中に状態を見て、大丈夫なら13時から行います」
「そうですか、面会は可能でしょうか?」
「可能ですが、始まる前に準備があるので…そうですね、始まる前の11時に会うことはできると思います」
私は無理なお願いをしたようだが、先生は承諾してくれた。
無理なお願いをしたのは理由があった。弟の事を考えたからだ。
気落ちしている弟が、母との面会により落ち着いてもらえればと考えたからだ。
あと、御袋にも寂しい思いをさせたくないという思いもあった。