TAKRAM RADIO|Vol.179『聴く力〜居心地の悪さを分かち合う』
Introduction
J-WAVEのTAKRAM RADIO。エール株式会社取締役の篠田真貴子さんをゲストに迎えた、第1週目のPodcastのメモ。
メモ
「聴く力を高める」エール株式会社の取組み
エール株式会社取締役の篠田真貴子さん
渡邉:気恥ずかしくなり、TAKRAM RADIOがカタカナ読みに。
渡邉:お互いの独り占めタイム。
篠田:組織開発を手伝う。外部の人が企業の人に1on1を実施する。聞く力を高めることで、企業の打ち手のラストワンマイルをつなぐ。
エール入社のきっかけ
篠田:日系・外資の大企業や、ほぼ日を経由。無職期間中に、話を聞いてもらっていた。聞くことの力を感じ、ジョインした。
渡邉:組織では、じっくりと話し聞いてもらう時間がない。その原因は?
篠田:会議の会話では、話すほうに意識が向いている。話し方・伝え方は小学校から訓練を受けてくるのに対し、聞き方を教わることは少ないという欠落がある。
篠田:職場では、役割が先行したコミュニケーションをすると、本当に貢献したい・実現したいことを口にする機会がなく、考えなくなる。
ベストセラーの翻訳書「LISTEN」
渡邉:『LISTEN』が広く読まれている。
篠田:500ページほどのボリュームであるが、8万部ほど売れている。
渡邉:相槌や傾聴の使い方をよくわかっていないように思う。
篠田:腕を組まない、口を挟まない、ということは、聞き手の表面的な見え方にすぎない。机に向かっているからといって、勉強しているわけではないことと同じ構造である。
渡邉:読者からのリアクションは?
篠田:身近な人の話をもっと聞こうと思った、という声が多い。ただし、可能であれば距離感のある第三者の話から練習すると、なお取り組みやすい。
篠田:心理カウンセラーは、個人的につながりがある人を対象にしてはいけない。個人に引き寄せると、すぐ嫌になってしまうこともある。深い関係性からくる思い込みに影響されてしまう。
カウンセリングを身内にしてはいけない理由
渡邉:なぜ、近い人のカウンセリングをしてはいけないのか? ドラマで観る、医師の外科手術を連想。
篠田:心理的にフラットに向き合えないから。家族に対しては、会社での一面を出せない。関係性がない相手のほうが、全部を提示できる。
篠田:事故があったときのダメージの軽減も図れるのでは。
渡邉:わたくしが入り込みすぎることで、広がってしまうものもある。ステイホームでは、家族との時間が増えてよい人・悪い人がいるはず。
聴いてもらうことで深まる語り手の思考
渡邉:鷲田清一『「聴く」ことの力』を読んでいた。哲学の起源は、聴くことにあるのでは。ソクラテスの産婆術は、語っているほうが何かを生み出している。
篠田:感情のほうが多く、言葉のほうが少ない。言葉が共通のフレームワークになることで、周囲とコミュニケーションがとれる。
篠田:人は、一人では喋れない。他者や場との関係性の中で言葉は出てくる。
渡邉:言葉には、喋りながら探索する側面がある。探している言葉がクッキーだとすると、型にはまらない場所は残ってしまう。星型とロケット型の言葉にした後で足りていないことに気づき、表現の失敗に気が付きながら心を深堀するプロセスがある。
組織における聴くことの難しさ
篠田:手続き的な意味が表立つと、「前言ったじゃないですか」というキラーワードが出る。「星型でしょ」と言われると、残りの表現されなかった部分がなかったことにされる。痛みを伴うので、ありもののの型で済ませるようになってしまう。
篠田:聞き手自身も、自分の判断を留保し、産婆役として言葉が出てくるのを待つことが大事。
渡邉:プロセスを共有することや、過程に寄りそうこと。ただし、ビジネスでは時間が決まっているので相性が悪い。
篠田:デザインでは、聞くことが大事な要素である。ビジネスにおいて、どのように対応するか?
渡邉:インタビューでも、常に締め切りはある。騙し騙し進めるが、時間が足りないことは多々ある。互いの合意のもとで、延長戦をすることはある。
渡邉:一方で、完璧を求めないことも大事。
篠田:常に中間生成物と思えると、矛盾を解消できるのでは。
渡邉:聞く姿勢を尊んでいる、という土台の合意は大事。
4種類のコミュニケーションモード
①ディスカッション:会議。
②会話:共感。結論はない。
③ディベート:自分の本心とは切り離し、論点を勝ち取りに行く。
④対話:自己理解や他者理解のために言葉を交わす。
篠田:対話は、多くの職場ではなされていないので、意識的な時間の確保が必要。
篠田:別枠として、対話の時間をとらないと混ぜられない現実がある。話者間での合意が必要。
言語化できていない相手への観察力
渡邉:1on1ミーティングで、メンティーが悩みを吐露しているが、自身でも何に悩んでいるか整理されない時間が10-15分あった。言語化を促すために問いを投げかけたが、うまくいかない。ふと、言語化できていないのに、話そうとしてくれていることのありがたさに気が付いた。自分の場合では、言語化できないために終わらせてしまうのでは。
渡邉:Zoomで定期的に対応している。比較的、言語化が得意な人であったが、歯切れが悪かった。反応が芳しくないときに、ふと幽体離脱した。語りづらいことに挑戦しているのでは、と思い立った。
篠田:なぜその行為をすごいと思ったのか。日頃の定常状態を把握しており、その差分を事実として観察できている。期待に沿ってジャッジする前に、事情があるのかもしれないと思い至り、留保した。
渡邉:Zoomの画面越しにも居心地の悪いオーラが伝わってきた。居心地が悪い時間をともにできていることを消してはいけない、という危機意識があった。
篠田:居心地の悪さは、大事なポイントに気が付くタイミングである。そこに踏み込めたことが感動ポイントである。
居心地の悪い時間の大切さ
篠田:『LISTEN』でも、身近な人が悲しんでいる時に、「大丈夫だよ」と言って片付けがちであり、それは聞き手が痛みに耐えられないからだ、という考察がある。
渡邉:1on1の事例は、違和感の根源について、本能的に逃げたいはずが、踏みとどまれた経験なのでは。
渡邉:同時に、強引な解決の提案によって、同様の場を無意識的に消してしまった機会があったのではないかと震え上がる。
篠田:相手の状態を受け止めきれない自分に自覚的になる。
渡邉:終わる間際、合意できるものがないと終わりづらい、という心理的なプレッシャーもある。
篠田:腹を決めて話そうと決めた時、長期的にはプラスになる経験が多い。いったん終わることもある。
渡邉:居心地がいいときに、居心地が悪い回があることを合意できると楽である。
まとめと次回のテーマ
渡邉:聞くことは相手を必要とするプロセスで、関係性の中で育まれる行為や時間がある。時間の捉え方が、居心地の悪さやビジネスの制約との折り合いが必要。バランスの捉え直しを考えたい。