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腹腔内出血 振り返り
久しぶりの出血関係の投稿です。
救急科、外科において症例振り返りを行いました。
患者さんは女性。
突然の腹痛で救急要請。
症状出現時から救急隊接触時まで1時間15分
バイタルサインはSBP 70, HR 110
搬送時に輸液を1L投与しましたが血圧上昇せず。
症状出現時から2時間経過してから来院
来院時も同様のバイタルサインで、
FAST陽性から腹腔内出血が疑われました。
輸血を投与しながら診療は続きます。
ここで問題。
①救急隊接触時までに、どれだけの出血があったと予想できますか。
②どんな疾患を疑いますか。
①は外科医に対して質問しました。
これはあまり正確ではないのですが、
Shock indexという計算式があります。
Shock index = 脈拍数 / 血圧
になります。
これの数値に応じて出血量がおおよそ分かります。
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出血量も大切ですが、
もう一つ大切なことは時間です。
どれだけのスピードで
これだけの量の出血をしたのか。
1Lの出血でも、3時間で出たのか、
30分で出たのかでは全く違います。
これによって
【急ぐ症例】なのか、【マッハで急ぐ症例】なのか、
自分のスピードのギアを変えるわけです。
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そして②どんな疾患を疑いますか。
これは救急医にも、外科医にも問いました。
ただなかなか鑑別疾患が挙がりません。
卵巣出血以外なかなか想像できないです。
*救急放射線医に確認したところ、
過去に弓状靱帯硬化症が原因で
胃十二指腸動脈瘤破裂の症例を
経験したと聞きました。
(どうやら膵炎の既往があったようです。)
ということで
卵巣出血疑いにしては
循環動態が急激に悪くなった、
腹腔内出血を認める患者さん。
さて、次はどうしますか。
CTを撮像しますか。
IVR(血管内治療)をしますか。
手術にしますか。
ここで大事になってくる前提があります。
一つ目は循環動態がどうか。
もう一つはResource limitationです。
とある外科医は
「循環動態が悪いので、手術の方針でいいと思う」
頼もしいです。
循環動態が治療戦略に重要であることは、
救急科のみならず
外科医にも徐々に浸透してきたことを
今回の勉強会で感じました。
これは嬉しい。
この次に重要になってくるのが、
自施設の条件です。
例えば当院では、
CT室は初療室からとても近い場所にあります。
IVR室は手術室よりは近いですが、
CT室よりは遠いです。
またIVR室は
血管内治療の道具は一番そろっていますが、
手術の器具や物品はそろっていません。
外科医にとっても、
救急勤務者としても
手術室で手術を行う方が快適です。
ただし当院では
手術室まで移動に5分かかります。
5分すら手術を待てない
という超重症患者も中にはいます。
一方
他のお金持ち病院(大学病院)は救急室に、
同じ台の上でCTも撮像でき、
IVRも手術もできる、
Hybrid ERを持っている施設もあります。
というように、
施設毎に前提条件が違えば、
治療戦略も変わってくる。
これをResource limitationと言います。
さて、今回は最終的に
血管造影で脾動脈瘤破裂の診断がつきました。
しかしその時点では循環動態もさらに悪化し、
腹部もぱんぱんで
Abdominal Compartment Syndrome
を疑っていました。
最終的には手術室に向かい
止血を行う方針としました。
第1回目の勉強会はこれにて終了。
次回は手術内容について。
そこで一つ計画していることがあります。
救急科と外科の勉強会は別に行っていますが、
次回は外科勉強会に救急医を招き、
ミニワークショップを行おうと思っています。
また新たな風を吹かせたいと思います。