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東北でスノーモンスターを見る(インバウンドと日本の豊かさと旅のリスク)
この冬休み、毎度のことながらぎりぎりまでホリデー計画が定まらず、12月25日クリスマス当日に飛行機に乗って向かった先は、日本でした。
夫が日本行きを決めたのは「正月はあんこ餅を食べたい」だった模様。
約2週間の一時帰国でしたが、私の地元大分に里帰りし、関東で夫の実家に滞在し、さらに2泊のスキー旅行。まるで日本にいるかのようなお正月休みでした。(せっかくヨーロッパに住んでるのに日本に帰ってばかりでは、、と頭の片隅で思わないでもありません)
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旅のハイライトは蔵王温泉スキー
ここ数年は長野県白馬村でスキーをするのが恒例でした。が、旅の計画が出来ていなかったため宿泊先にすでに空きはなく断念。関東地方からのアクセスと雪のコンディションを見て東北に狙いを定めました。東北のスキーは初めてなので、新たな開拓です。選んだのは蔵王温泉スキー場。
山形駅に着き、バスに乗って40分。山が近づくにつれて雪が見えてくるはずが、暖冬のせいか想定外に雪がない。スキーできるのかなと本気で心配になりました。
幸運なことに、翌日に降雪があり、リフトで山に上がるとゲレンデはしっかり雪景色。東北最大級のスノーリゾートと言われるだけあり、ロープーウェイやリフトが多く、コースも変化に富んでおり、敷地が広大。何より、混みすぎていないところが魅力。リフトにすいすい乗ることができます。
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蔵王に来たからには目にしておきたいのがSnow Monster と呼ばれる樹氷です。スノーモンスターの正体は、「一定方向から吹く強風で運ばれてきた過冷却水滴が樹木に着氷し、着雪が加わって徐々に成長し、まるで雪のモンスターのように変身したもの」とのこと。写真で見る白いモンスターの大群は壮観で、ぜひこの目で見てみたい!
樹氷エリアを巡るツアーがあるようですが、一番高い地点に行くロープーウェイに乗れば、スキーをしながら樹氷を観測できるようです。
暖冬で成長が遅いとのことで、枝や幹がうっすら見える薄めモンスターがコース横に立っていました。冷たい風が強く吹くエリアなので、ガチガチになりながらカメラに収めます。
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モンスターではなくとも、氷と雪で覆われた木々は美しく、きれいな雪景色を見ながらスキーできる醍醐味。蔵王温泉スキー場は広々として美しいスキー場でした。
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東北のポテンシャル
九州出身の私にとって、東北はなかなか足を踏み入れることのない地域です。そんな自分から見た、今回の旅行を通して発見した東北の魅力をインバウンド視点でつらつら挙げてみます。
東京から近い。東京から九州は飛行機が必須ですが、東北は新幹線で数時間。今回は仙台に立ち寄ったのですが、東京から1.5 時間。おもったよりも早く簡単に行けることに驚きました。
中核都市、仙台の魅力。さっと通り過ぎただけですが、整備されて充実した駅とその周辺、活気のある商店街、コンパクトにまとまった都市のちょうどよさを感じました。九州でいう福岡というか。核となる都市が存在すると移動のアクセントになります。
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質の良い温泉。蔵王温泉は強酸性硫黄泉です。皮膚やお肌に良いとされ血行促進効果もあるんだとか。スキーの後、芯まで冷えた体で温泉につかった時の幸福感もさることながら、疲れて風邪ひきそうだった体の回復に効果大でした。寒い地方で入る温泉は格別です。
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昭和っぽい旅館のよさ。地元大分と同じような昔ながらの温泉街の良さを感じました。昭和的な旅館システムは時代遅れとも言われますが、ノルウェーから来たせいか、それが非常に魅力に映るのです。コタツ付きの畳部屋、床に並べられた布団、品数の多い夕食に大浴場、そして人好きな宿のおかみさんのおもてなし。そんな独特な日本のシステムにとても味を感じます。
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お米のおいしさ。東北は言わずと知れた日本のお米どころですが、旅館で食べたお米のおいしかったこと。息子ふたりと夫は次々におかわりをし、ご飯はいつも控えめにしている私まで2膳目に手が出ます。テーブルに用意された炊飯ジャーは空になり、炊飯器ごとおかわりをもらいました。
こけしの可愛さと伝統文化。旅館に大量に飾られていたこけし。東北の口減し文化に由来すると教えられたことがあり、暗く悲しい昔の東北を連想していましたが、お土産屋さんに並ぶこけしの可愛らしさに驚きました。旅館からこけしを一体いただいたりもして、土着のお土産の魅力を体感。こけしに限らず、東北らしい伝統文化は味わい深く感じます。
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ニッチのよさ。最近はインバウンドが急増してオーバーツーリズムの話題をよく聞きます。京都の混雑ぶりの話を聞いてやや懸念してはいたのですが、東北はまだ余裕があると感じました。観光地としてはまだニッチなのでしょうか。
インバウンドとしての印象でいうと、蔵王スキー場では中国、台湾からの観光客が多いようで、西洋人もちらほら。レンタル店の店員さん、旅館のスタッフは英語で対応する場面が多そうでした。旅館のおかみさんによると、近年はインドネシアやタイからのお客さんが多いとか。
スノーレジャーができる冬が観光シーズンであり、稼ぎ時なのだと思います。そして、観光収入において、東北においても外国人の貢献度は非常に高いと感じました。スキー・スノボに行く日本人はたぶんそんなに増えてないけど、スノーレジャーを求めて日本に来る外国人は増えている。
今後ますます温暖化が進み、スキー可能なエリアが徐々に北上すると予想すると、東北は冬場に盛り上がるインバウンドとして大きな可能性を持っていそうです。
日本の豊かさと旅のリスク
一時帰国でしみじみ感じるのは日本の豊かさ。スーパーマーケットで食料品の買い物をするときに一番感じます。新鮮な食材、種類豊富で美味しいあらゆるタイプの加工品、価格もリーズナブル。
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食・物が豊かで、自然、文化の面でも豊かなので、円安時代となった今、インバウンドが盛り上がるのは当然と感じます。
その一方で感じたのが日本旅行の最大のリスク、自然災害。
今回の帰省中、元旦に起こった能登半島地震。お正月気分が吹き飛ぶ悲しいニュースでした。
そして、翌日に起きた飛行機炎上事故。私たちは元旦に大分から羽田に飛んだので、1日ずれていたら混乱の真っ只中にいたと思います。自然災害や関連事故がまさに身近なところで起きるし、自分たちがいつ非常事態に遭ってもおかしくない、と実感しました。
日本人は地震の備えや避難訓練をしている人が多いだろうけれど、海外からの旅行客はどうなんだろう、と思います。地震が多い国という認識はあれど、旅行中に被災した場合どのように動けばよいか事前に備えている人は多いとは思えません。
無闇に怖がらせる必要はないけれど、災害時の英語情報サイトや基本的な避難のノウハウは旅行客にシェアする工夫がもっとあってもいいのではと思いました。
蔵王の旅館では、地震のニュースを見て旅行をキャンセルしたお客さんが実際にいたといいます。
息子たちがノルウェーで学校に戻ると、「地震と津波からよく生き残った!」とクラスの皆が興奮して出迎えてくれたとのこと。外国から見ると、日本全体が被災した、という印象を持つのかもしれません。
自然災害リスクはコントロールできないけれど、日本人だけでなく、旅行者もできる限り安全でいられる対策は今後大切になってくるのではと思います。
長いフライトと乗り換えを経たのち、眠れずに睡眠不足を感じながらやっと帰り着いたノルウェー。
例年にない寒波で、珍しく大雪のスタバンゲルです。日本で満たされた心と体で厳しい冬を乗り越えていきたいと思います。
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