「美術館方式」プレゼンテーションの思い出
紅茶に浸したプティット・マドレーヌを齧って幼少期の思い出から世界文学史上に輝く物語を紡ぎ出したのはプルースト。
以下はそんな優雅な思い出ではなく、送られてきたパワーポイントファイルを開いてふと蘇ったものすごく散文的な記憶です。
アメリカでの経営コンサルティング会社時代、クライアントの会議室を一つ割り当てられて顧客先出張時の拠点とすることが良くありました。
そこでプレゼンテーションの準備をする際、ページを印刷して壁に貼り、ストーリーの流れを見ながら順番を入れ替えたり、ポストイットでコメントつけたり追加スライドを指定したりして、それをチームの「パワーポイント役」がマスターファイルに反映していく、という作業方法を取ることががありました。
コンピューター画面上の作業と違い、ソフトウェアの習熟度に関係なく編集できるのと、ファイルのやり取りをする中で誰が最新のファイル持っているか分からなくなって混乱する、等の問題を回避することができて効率が良かったのです。
それをさらに進めて、経営会議向けのプレゼンテーション本番の前に一緒にワーキンググループを形成していたクライアント側のチームを、美術館で絵画の案内をするように壁に貼ったスライドを説明しながら会議室を一周する、ということもやってみました。
これが案外有効で、説明する方も聞く方も立っているのでダレずにサクサクと進む、質問やコメントもその場でポストイットに書き込んで該当箇所に貼ることができてその後の作業効率も上がる、寝たり内職したりすることができない、「プレゼンター対聴衆」のような距離感なく説明できる、などのメリットがありました。
クライアントにも好評で「役員会議も事前に配布した資料を当日またプレゼンテーションする、というやり方だと読んでこない人多いし、冗長になりがちだけど、このやり方ならもっと身が入るんじゃないか?」という意見も出ました。
結局その後の役員会では「伝統と慣習」に負けて、普通に前に立ってプレゼンテーションしましたが、ワーキンググループの方々とは同じ目線の高さで問題意識とデータを共有でき、チームとしての一体感が高まったのでその後の仕事がかなりやり易くなりました。
この美術館方式、「顧客からの課題に外部から正解を持ってくる」のではなく「顧客と共に課題を洗い出し、自分たちのものとなる解決策を共に考える」というアプローチのコンサルティング会社だったからフィットしたのかもしれません。
以上、特にヤマもオチもイミも大してない話でした(笑)。