見出し画像

大企業とVCが組んで買収見込みのスタートアップ創業する話(マニア向け)

【以下、Facebookに投稿したものを転載】

一昨日のTome Biosciencesに続く「VCがプロデュースしたステルススタートアップのいきなり大型調達」というベンチャークリエイションの話。

もっともこれは「巨額投資したけどぽしゃった」類の話ではなく「大手VCと製薬企業が共同でスタートアップ作っちゃった」話。(記事リンク

当事者はライフサイエンス業界の老舗で最大手VCの一つであるVersant Venturesとスイスの世界的製薬会社製薬会社Novartis。

Versantは以前腎臓病治療薬スタートアップChinook Therapeutics を設立からプロデュースしてNovartisに売却した実績があり、その成功実績に乗っかる形でこれまた腎臓病スタートアップであるBorelias Biosciencesを今度はNovartis と共同出資で立ち上げた、とのこと。

今回面白いのはChinook もBorelias もカナダはバンクーバーの会社で、デラウェアの企業データベース調べたらBorelias らしき会社が登記されていたものの、実際のオペレーションも人材もバンクーバーでそのままChinook の人材と設備を引き継いで行うとのこと。

資金調達もこれまたSEC には投資ディスクロージャー見つからないので「カナダの会社」に投資したか(考えにくい)、上のデラウェア法人が投資物件としての株式発行体(先々の調達やM&A 考えるとこの方が蓋然性あり)で、Rule 144Aの私募調達を行なった、ということなのでしょう。

Versant とNovartis の狙いは、Chinook の経験と人材資産活用すれば相当製品開発と会社作りのディリスキングができ、うまくいけばNovartis がそのまま買収する「手堅い大当たり」か、あるいはBorelias が独立した企業としてやっていけそうであれば他のソースから資金調達してさらに大当たりを目指す、というもの。まさに「リアルオプション」(死語w)。

このBuild-to-buyと言う仕組み、Versant はBorelias で今年2件目。特に目新しいディールではなく、米国では2010年代に一回「流行った」とか。スタートアップが治験の途中で大企業に医薬品候補をライセンスアウトしてそこから先の治験、認可、そして販売を行ってもらったり、大企業が有望な(=先々何件も医薬品候補を生み出せそうな)技術基盤とチームのいるスタートアップを買収して新部門として取り込んだり、が常態な「アメリカのライフサイエンススタートアップエコシステム」ならでは、な取引です。

スタートアップに取ってもこういう環境や取引慣行があるので、M&A で会社ごと売ってエグジットすることもできるし、また上記のようなライセンスアウトを繰り返してその都度まとまった一時金と先々のライセンス収入を獲得し、それをバックに株式公開する(そんなに件数は多く無いですが)、あるいは他のスタートアップ買収して知財や技術獲得して拡大を狙う、とさまざまなオプションが存在するのです。

いささか極論なのは百も承知で言えば、研究者が自らの「それだけでは製品にならない」技術で起業しておおよそ時期尚早(=技術も人材も、ディリスキングが殆どできていない)な段階でファンドライフという年限のあるVCから資金調達した挙句、そのファンドライフの中で資金調達というよりは「VCがエグジットするための」IPOをした挙句その後迷走することの多い「日本のライフサイエンススタートアップエコシステム」というのとは全く違う世界なのです。

以上「サイエンティストでもエンジニアでもない一介の経営屋」たる自分が書くと技術の仕組みや凄さとかは無視してこういうネタを毎度長々と書いてしまいますが、いささか繰り言めいてきたので本日はこの辺でやめておきます。

このBorelias + Novartis ディールの仕掛け人であるVersant のJerel Davis 氏のインタビューが実に面白いし「当事者の生臭い話」展開しているのでコメント欄にリンク貼っておきますので興味ある方はどうぞ。

また、本件に法律事務所として関与したWilson Sonsini (ということはアメリカ法準拠の会社なのでしょう)のプレスリリースが弁護士チーム15人の実名入りであまりにも「ドヤ顔」な調子がウケたのでこちらもご笑覧ください。

いいなと思ったら応援しよう!