スタートアップ、業界違えばお金の使い方もリスクもキャリアも違う
【以下、Facebook に投稿したものを若干編集して転載】
トップの画像、長年のコラボレーターで今も共に色々企んでいる小柳智義氏が東京の某所でアカデミアからの創薬・スタートアップ創業についてセミナーを行った時の資料中、最もオーディエンスに「刺さった」一枚。ヘルスケア業界、特に創薬分野で創業することと、IT業界で創業することの違いを端的に表している。
この小柳さんのビジュアル化(ところで「見える化」って一体なんですか?)が響いたので少し乱暴な形でではあるが、以下に両業界におけるプロダクト・マーケット・フィット(PMF)のあり方と投資対象としてのリスク像を膨らませてみた。
製薬・創薬
「見えている」プロダクトマーケットフィット(=アンメットニーズ)像を満たせるものが長くはあれど無限ではない期限内に「売る許可」を貰えるかどうか、いくら値段がつくか(=保険収載)の勝負。初期投資のコミットが大きいがモノができれば価値は大きい。
リスクは「モノが作れるか」で、VCマネーも「モノづくり」に費やされる。ピボットは会社レベルでPMFできなければ経営リセットまたは会社精算。VCのファンドライフ内に成果出すためには資金受ける時点で臨床フェーズに差し掛かっていることが必須。
IT
ある程度実用性も持ちながらエンゲージメントと費用対効果の仮説検証するためのデータを取得するための製品(MVP)を出して「これないと困る、お金払います!」という客が一定数いる状態(=PMF)を目指す勝負。
VCマネーはモノづくりではなく、PMFが見えたところにお金注ぎ込んで「成長を加速する」ことに費やされる。リスクは「モノが売れるか」。投資も比較的少なめな金額でにしかも細切れなコミットメントなので比較的短期間内(=VCのファンドライフ内)に軌道修正可能。ピボットもシャットダウンも製品レベルで行える。
(おまけ)クリーンテック
これは上の画像の対象外であるが、同分野に取り組んでおられる諸氏も読まれるのではないかと思い追加。
モノは時間と金かければ作れるかもしれないが、「大事だけどお金払ってまで買いたい」モノはなかなか無いので、ある意味製薬創薬とITのリスク面を両方背負い込んでいる上に「公共財」ゆえに金銭的アップサイドにも制限がかかる。社会的意義イコール事業価値ではない。
投資コミットメントも大きく、成否が見えるまでの時間軸も長い。絵にすると霧のかかった沼地を進むイメージ。
異業種スタートアップを股にかけたキャリアは可能か?
このようにお金の使い方とリスクプロフィールが違う業界なので、投資するにしても経営するにしても異なる視座とスキルセットが求められる。
キャリアとしてクロスオーバーは不可能とは言わないが、両方に通じるスキル(ファイナンスなど)を持参して水平移動するのが通常で、「違う業界の視点持ち込んでディスラプトする」はカッコいいけど行うは難し。
自分のスタートアップにおけるキャリア、「クロスオーバー」と形容するしかないが、たまたま経営者として勤めたスタートアップがインターネット+データサイエンス+バイオテクというクロスオーバー物件ばかりだったのでそこで獲得したスキルが他所でも応用効いた、のが実態です。
自分の場合、そんなパスになったのは「たまたま」要素が高く、また自分は経営に様々なスキルを統合して臨むプロフェッショナル(ジェネラリスト、とは敢えて言わない)というある意味「茨の道」辿ってきたので後悔こそしてないが到底他人にはお勧めしない、と付け加えておこう。