【展覧会レポ】東京都写真美術館「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21」
【約2,900文字、写真約20枚】
東京都写真美術館(以下、TOP)の展覧会「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21」を鑑賞しました。その感想を書きます。
▶︎ 結論
日本の新進作家5名の作品を展示しています。シンプルな構成だからこそ、新しい写真のあり方に気付くことができました。TOPが2002年から日本写真界を盛り上げるために行なっている展覧会です。気軽な気持ちで毎年訪れると、今後の写真界のトレンドが見えてくるかもしれません。
当日、TOP前に大行列ができていました。外まで人が並ぶことを見たのは初めで驚きました。理由は、岩井俊雄の展覧会が最終日だったことでした。
子供が楽しめるという評判が、人気に火を付けたのでしょう。私の岩井俊雄の投稿も、継続的にビューが増えるほどでした(現在、のべ2,902)。
期間の最終週は人が集中するため、計画的に予定を組んだ方がいいですネ。東京ディズニーランドのハロウィーンでも同じことを痛感しました😅
▶︎ 「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21」感想
▼ 過去に訪問した「日本の新進作家」の展覧会
今回の展覧会は計5名が参加しています。「気に入る写真家はいるかな?」と気軽に鑑賞しました。
✔️ 1人目:大田黒衣美
1人目は「生物や日用品など身のまわりにあるささやかな存在に目を向けて、時間を留める手法として写真を扱う大田黒衣美」。この展覧会で一番大きな作品が展示されています。
猫の背中に置かれたガム。なぜ猫?なぜガム?意図がはっきりしませんが、ほっこりした気持ちになれました。
✔️ 2人目:かんのさゆり
2人目は「自身が暮らす土地の仮設的とも言える変化を止めない風景を淡々と観察し、記録し続けるかんのさゆり」。殺風景な写真が、機械的に展示されています。
この写真は、展覧会のメインビジュアルです。何の変哲もない殺風景な様子。実は、震災の被害にあった宮城県や福島県です(かんのさゆりも宮城県出身)。
そこにあるストーリーを知ると、じわじわと感じ方が変わってきます。この地味で集客力のなさそうな作品をメインビジュアルに選んだTOPの思想も、少し理解できました。
2011年の東日本大震災から10年以上が経ちました。かんのさゆり映し出す、人気を感じさせない写真を見ると、物理的な復興は進んでいるものの、心の復興はまだ進んでいない印象を受けました。
また、徹底して人を排除した作品は、ウジェーヌ・アジェと共通する部分があると思いました。まるで「ドラえもん のび太と鉄人兵団」に登場した、おざしきつり堀によって生まれた鏡面世界のようです。これらの写真が最も印象に残りました。
✔️ 3人目:千賀健史
3人目は「ドキュメンタリーの視点と虚実を混ぜたイメージで現実をあぶりだす千賀健史」。写真の大きさや素材、見せ方など、この展覧会の中で、最もバリエーションがありました。
✔️ 4人目:金川晋吾
4人目は「一般的な概念にとらわれず個と個の距離と関係性を切り取る金川晋吾」。主に、2つのスナップのようなシリーズで構成されています。
立札に「お子様連れの方、不安を感じる方はご鑑賞前にお近くのスタッフまでお声がけください」というガード文言を見て、少しビビりました。
「性について表現を含む作品」は、少しヘアが見えている程度の写真が1枚あるのみでした(具体的な性器は写らず)。そこまでセンシティブにならなくてもいいのでは😅
✔️ 5人目:原田裕規
5人目は「かつて誰かが見た光景を通じて、見るものが持つ記憶を喚起させる原田裕規」。主に、映像作品が3つ展示されていました。
タイトル《One Million Seeing》の通り、ひたすら写真を見る(Seeing)様子だけの映像です。今では珍しくなった現像した写真。写真を見ている人の気持ちが乗り移ったように(その写真に写った人を知らないのに)何だかノスタルジックな感情を抱きました。
「ひたすら⚫︎⚫︎し続ける」というのは、山下麻衣+小林直人の作風に似ていると思いました。
会場を出ると《写真の山》がありました。普段、この場所はアンケートなどが置かれている殺風景な場所です。ここに作品が置かれたのを初めて見ました。「終わった〜」と思ったら、まだ作品が続いたのはサプライズでした。
これらは「捨てられるはずだった写真」です。不用品回収業者や産廃業者らは、ゴミの中に写真があると「売れるもの」と「売れないもの」に分別し、前者は市場に出され、後者は捨てるのだそうです。その売れない写真を、原田裕規が許可を得て入手したものです。
亡くなった人のプラーベートな写真たち。それらを実際に手に取って見る体験は《One Million Seeing》を体験できる仕組みになっています。
5人とも「写真」というメディアを使った作品です。しかし、アーティストによって、被写体は何か、どう見せるか、何を伝えたいかなど、全く違う点は「改めて写真は面白いな」と感じました。これを機に、彼らのキャリアが次に繋がればいいですネ。
▶︎ まとめ
いかがだったでしょうか?比較的、淡白な展覧会だったと思います。しかし、だからこそストレートに新しい写真のあり方に気付くことができました。TOPが2002年から力を入れているシリーズ。将来的な日本・世界の写真界に名を馳せるアーティストも含まれているかもしれません。ギャラリーに行くような気軽な感覚で、毎年鑑賞してみてはどうでしょうか。